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第4話:王様と知り合いって普通ですよね?

 なにはともあれ、金貨十枚をゲットして満腹になった。

 中華料理店を出て、今度はギルドに向かう。

 なのだが、三十分歩いてもちっともギルドは見えてこない。いくらそこそこ広い町とは言ってももう少し入り口から近くてもいいはずなのだがな。


「おい女神、ちゃんとギルドには近づいているんだろうな?」


「え、ええ……もちろんよ。炎の女神ルビアが道に迷うなんてことあ、あ、あ、ありえないわよっ!」


 とんでもなくキョドりながら言うルビア。

 こいつ……間違いなく迷ったな。


「ふむ、じゃあ現在地から一番近いトイレはどこだ? ここがどこかわかるなら答えられるはずだよな?」


「め、女神になんて破廉恥なことを!」


「トイレは破廉恥じゃねえよ! さあ答えろ」


「ううう……そこの角を右に曲がったところ……だと思う多分」


「残念だったな。そこの角の右にはリンゴ屋があるだけだ。さっき通ったからな」


「え?」


 まさかこいつ気づいていなかったのか?


「その道はさっき通った。やっぱり迷ってんじゃねえか!」


「うううううぅぅぅぅぅ~!」


 地図くらい見られるというのでルビアに任せてみたのだが、全く役に立たない。

 そういえば当初町までの案内をルビアにさせていたが、王様に拾ってもらえなければ危なかったかもしれない。


「見せてみろ……って、はあ?」


 ルビアから地図を取り上げて確認したのだが、さっぱり何もわからない。

 どうやら町の地図ではあるようだが、地形からしてかなり違っている。確かにトイレはちょうどリンゴ屋の隣に書かれている。

 現在地がわかったのは目印の噴水が近くにあったからだ。


「もしかしてルビアさんの地図……古かったのかもしれませんね」


 地図を覗きながらマリンが言う。


「なんでそんな古い地図を持ってるんだ?」


「ルビアさんが新しい地図と取り換える手間を惜しんだというかなんというか……」


「なるほど、まあそうだろうな」


 ズボラなルビアのことだから、面倒くさがって古い地図のままだったのだろう。


「でも困りました。……地図なんて他にありませんし……」


 マリンが頭を抱える。

 その頃ルビアはふくれっ面で、シロナは眠そうに眼を擦りながら俺を見ている。


「ギルドくらい地図に頼らず見つければいいんだよ」


「え……? それはどういうことなんですか? あ、もしかして人に聞くとか……?」


「バカ! コミュ障の俺がそんなことできるわけないだろ!」


「じゃ、じゃあどうやって……」


「まあ、俺に任せておけ」


 不安そうに俺を見つめる三人の女神たち。

 ちなみにここは道に迷った末、入り口まで戻ってきたところだ。

 そして、ちょうどいい奴らが町に入ってきたようである。


 ◇


「「「さすがコージ!」」」


「まあ、それほどでも……」


「「「あるわよ!」」」


 俺のとある秘策により、無事にギルドにつくことができた。

 その秘策には金も人脈も時間も使っていない。とてもスマートな手法だ。


 冒険から帰ってきた冒険者たちの後をついていったのである。

 冒険者はクエストをこなした後必ずギルドにて清算をする。そうしないとお金や報酬がもらえないからだ。


 女神たちの羨望の眼差しをやれやれ面倒だな、と流して受付に歩いていく。


「ギルドに入りたいんですが、ここで良かったですか?」


 受付には、品の良い女性係員が座っている。

 ギルドと言えばとりあえず受付嬢というくらいにはお馴染みの属性なのだが、モブにしておくには勿体ないくらい綺麗な人だった。この世界ではおそらく珍しい黒髪の受付嬢の左胸には名札が付けられている。


 『マイ・カシワギ』


 言葉は普通に日本語で通じるので安心していたが、文字の方もどうやら日本語が通じるらしい。

 それにしてもこの名前……。なんとなく日本人っぽい気もするのだが、気のせいだよな?


「はい、こちらで登録できますよ。まずは入会試験を受けてもらうことになるのですが……日時はいつ頃を希望されますか?」


「そうだな、できるだけ早くやっておきたいんだが」


「それでしたら、今日の最終試験に間に合うはずですのでいかがでしょうか?」


「よし、そうしよう。お前たちもそれでいいな?」


 女神に向かってまとめて問う。首肯したのを確認した。


「えーとじゃあそういうことで」


 受付嬢はカウンターの下から紙を四枚の紙を取り出す。


「入会試験の受験証をお渡ししますので、必要事項をご記入ください。……もし文字に関して不安があれば私が書かせていただきます」


「不安?」


「学校に通えるのは貴族だけですし一般の人で文字を書けないのは恥ずかしいことではないというか……あの……その……」


 なるほど、つまりこういうことか。

 冒険者を希望する者の中には文字を書けないケースもあるのだろう。それを心配してマイさんは確認しているのだ。


「お気遣いありがとう。でも文字は書けるから心配しなくて大丈夫だよ」


「そ、そうですか! 失礼しました!」


 俺はサラサラと氏名、年齢などを記入していく。さすがは冒険者ギルドというべきか、住所の欄は無かった。定住するものが少ないのだろう。


 俺が軽快にペンを走らせていると、受付嬢のマイさんが「ええ!」と声を上げた。


「ど、どういうことなんですか!?」


「ん? どうかしましたか?」


「そ、その……漢字を書けるんですね!」


 ふむ、漢字と言えば俺の名前のことを言っているのだろうか。

 カタカナで書いてもよかったのだが、日本での戸籍上は漢字で登録されているわけだし、そうしておいただけのことなのだが、そんなに珍しかったとはな。


「それがどうかしたんですか?」


「平仮名やカタカナならまだしも漢字を使える人なんてほとんどいないんですよ……まさか本当に……!」


「え、漢字を書くくらい普通じゃないですか?」


 きょとんとしている俺。


「ふ、普通なんてものじゃないですよ! あ、あなたは一体何者なんですか!?」


「と言われても普通の旅人なんだが……おっと」


 ついうっかりポケットに入れていたバッジをテーブルに落としてしまった。国王ビエールからもらった金色にピカピカ光るバッジだ。


「って……えええええええ!?」


 バッジを拾おうとすると、受付嬢から素っ頓狂な叫びが上がる。


「こ、これは国王ビエール様が特別に親交のある者に贈るバッジ……な、なぜあなたが!?」


「えっと……たまたまエリュシオンに来る途中で仲良くなってもらったんですけど」


 特別なことは何もしていない。騎士団が頭を悩ませていた盗賊を無力化して引き渡したり、道中で邪魔な大木を退けたくらいのことだ。


「そ、そうだったんですかああああ!? こ、これは失礼しました!」


「ど、どうしたんですか!? あの……状況がよくわからないんですけど」


「まさかビエール様と親交のある方とは知らず……とんだご無礼を。試験に関しては受けていただく必要はありません! この場で合格とさせていただきます」


 え、ええええええええ!?

 王様パワー凄すぎだろ!

 いや、それにしても試験無しとは……。


「落ち着いてくださいマイさん。別にそんなの気にしてませんから。それより、この場で合格ってどういうことですか?」


「試験を受けていただくなんてとても恐れ多くて……ビエール様が認めたのですから合格ラインに達していないわけがありません!」


 そういうものなのか。

 レーナも俺なら十分冒険者をできるなんてことを言っていたけど、王様も認めてくれていたんだな。


「ただそれはそれとして、試験は受けさせてもらえませんか? 今の自分の実力を知っておきたいんです」


 実力を知らない間に危ないクエストを取ってしまって死ぬことになったら悲惨だ。

 俺は謙虚に生きる。俺はそんなに強くないのだ。異世界では慢心した者から死んでいくというのが俺の持論だ。


「はあ……そういうことならわかりました。……ですが、ギルドからのせめての気持ちとして入会料と受験料を無料にさせていただきます」


 おお! それはありがたいな。

 いくらさっき金貨を十枚稼いだのだとしても、節約できるのならしておきたい。

 こうして、俺たちは一時間後に入会試験を受けることになった。

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