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第2話:大木を持ち上げるくらい普通ですよね?

 盗賊を全員気絶させたまではいいのだが、これどうやって運ぼう……。

 このまま放っておくわけにもいかないし、起きたら抵抗されそうだし。

 俺が頭を悩ませていると、背後からキキ―と音を鳴らしながら近づいてくる馬車があった。

 合計で五台あり、真ん中を走る一台を守るように走っている。


 馬車が止まり、中から人が出てきた。

 真ん中の豪奢な馬車から一人、前衛の馬車から騎士っぽい見た目の男が一人。


「こ、これは悪名高い盗賊クラン【ブラックブリーチ】じゃないか! も、もしかして君たちが!?」


 倒れた盗賊を見ると、騎士の男が驚きの声を上げる。


「そうですけど、それって凄いことなんですか?」


 『謙虚』なせいか控えめになってしまう。本当ならもっと成果を大げさにアピールした方がいいんだろけど、どうしてもできない。


「す、凄いも何も! 彼らはゲリラ戦を得意とし、かつ個々の戦闘魔法のレベルが高いため騎士団でも手を焼いていたのだ!」


 ふむ、あまり手強いとは思わなかったのだが、本当は強かったのか!

 俺の場合は不意打ちみたいなものだったから、正面から戦えば危なかったのかもしれない。


「えーと、それならこの盗賊の処理はお任せしても?」


「も、もちろんだ! この盗賊の処遇は我々王国騎士団が責任を持つことを約束しよう」


 やれやれ、なんとかなったようだ。偶然騎士団の人が通ってくれたおかげで助かった。


「えーと、じゃあ俺はこれで」


「待つのじゃ」


「へ?」


 騎士っぽい男の横に立っていた爺さんが俺をマジマジと見る。

 白い髭が十センチくらい伸びている。手入れされているからか、不潔な印象はない。


「ワシはグリセルダ王国の国王ビエールじゃ。お主は見たところ旅の者ではないかの?」


 この爺さん国王だったのか!

 馬車の軍勢に守られていたから偉い人だとは思っていたけれど、まさか国王だとは思わなかった。

 現代日本だと国王という言葉に馴染みがない。なんとなく中世っぽい感じでワクワクする。

 ただの放浪者なのだが、旅人だと誤解してもらえているのは好都合だ。

 よく考えれば高校の制服って品質が良いから、放浪者には見えないのかもしれない。


「はい。実は極東の島国から旅をしていまして、近くの町を探していたんです」


「ほう、極東の島国と言えば……ニーフォンの出身かの?」


「そんな感じです」


「ふむふむ、なるほどの。ニーフォンには独自に進化した文化と、優れた鍛冶職人がいることで有名な国じゃな。我がグリセルダ王国も精密魔道具を輸入しておる。……これも何かの縁じゃ。町まで乗っていかんかの?」


「いいんですか!?」


「もちろんじゃ。そこの三人の娘と一緒にワシの馬車に来ると良い。少し窮屈じゃが、少しの辛抱じゃ」


「ありがとうございます! めちゃくちゃ助かります!」


 これはラッキーだ。盗賊を回収してくれるばかりか、町まで送り届けてくれると言うのだ。断る理由がない!


 ◇


 王様の馬車の中には、一人の少女がちょこんと座っていた。


「レーナよ、旅の者を町まで送り届けることになったのじゃ、少し窮屈になってすまんの」


「気にしないで、お爺ちゃん。あ、えっとようこそ! 短い間ですがよろしくお願いします」


 レーナはペコっと頭を下げた。この子も多分王族だというのに偉そうな感じがしない。

 年齢は多分十三歳くらいだろう。


「こちらこそよろしくね。道中ちょっとお世話になります」


 俺たち四人は前後で分かれて座る。


――――――――――――――――――

《馬車の中》


       【前】


 [シロナ]  [マリン]  [ルビア]


 [ビエール] [レーナ]  [俺]


       【後】


―――――――――――――――――――


 全員が座ったところで、馬車が動き出した。


「そういえば俺、名前言ってませんでしたよね。佐々木浩司って言います」


 レーナはきょとんという顔をした。


「ササキ・コージ? 変わったお名前ですね」


「レーナよ、ニーフォンではこのような名前の者が多く住んでいるのじゃ。グリセルダ王国以外にもたくさんの国があり、その一つ一つに民が住んでおるからの」


「そ、そうだったのですか! 私が無知でした!」


「うむ、王女たるものそうではなくてはな」


 ビエールがレーナの頭を撫でる。レーナはくすぐったそうにしながらも、嬉しそうに笑った。


「コージが自己紹介したところで、私も名乗っておこうかしらね! 私は炎の女神ルビアよ!」


「私は水の女神マリンですっ!」


「我は光の女神シロナじゃ」


 三者三様の自己紹介をすると、ビエールが渋い顔になる。


「お三方ともとても美麗な見た目をしていると思うのじゃが……その、女神を名乗るのは辞めておいた方が良いかもしれんなあ」


「な、なんでよ! 私は女神で、女神だから女神と名乗って何が悪いの!?」


 相手が王様でも、ルビアは遠慮しない。

 ビエールは気を悪くした様子はない。さすが王様、器が大きい。


「女神の存在をワシは疑っておらんし、お主らが女神だと名乗っても気にすることはせん。……しかしな、グリセルダ王国には二大宗教があるのじゃ」


「二大宗教?」


 ルビアは興味半分、疑い半分といった感じである。


「女神を崇拝するビーナス教と、神を崇拝するゴードス教じゃ」


「神も女神も一緒なんですケド……」


「そういう考え方もある。統一派という団体が活動しておるが……どちらにせよあまり深く関わらん方が良いと忠告しておくぞよ」


 俺も婆ちゃんから政治と宗教と野球はタブーだぞと教えられた。ビエールの言うことはもっともだと思う。


「うぅ……本当に女神なのに……」


「落ち着けルビア。女神と名乗らんでも死ぬわけじゃないだろう?」


「それは……そうだけど」


「それにお前全然女神っぽくないしな」


「なんでよ!」


「女神ってのはよ、マリンみたいな包容力があるこう、すげー感じのイメージなんだよ」


 マリンは頬が赤くなり、俯いた。


「そんなの人間の勝手なイメージでしょ! 女神って言っても色々よ!?」


「ハイハイわかったわかった。じゃあ話これで終わりな」


 俺は強引に話を切り上げた。

 そんなことよりも、現地の人がせっかく目の前にいるのだから情報収集をしておきたい。

 情報収集は冒険の基本。基本のキだからな。


「王様、俺たち町に着いたらどこかお金を稼げるところを探しているんですが、この国では旅人はどうやってお金を稼いでいるんですか?」


「旅人が働ける場所となると……」


「ギルドが良いと思います!」


 隣にいたレーナが無邪気に答える。


「ギルドっていうと冒険者になってクエストを斡旋してもらえるあれのことか?」


 現代日本でいうところのハローワークみたいなものだ。

 薬草を採集したり、魔物を倒したりとクエストの幅は広く、身分などに関わらずお金を稼ぎやすい。……ゲームの知識だが。


「そうです。あの盗賊をやっつけっちゃうくらいなのでギルドでもきっと活躍できると思います!」


「なるほどな。町についたら行ってみるよ。ありがとう、レーナ」


「どういたしまして!」


 と、その時だった。

 キキ―! っという音が鳴るや、俺は前方に押し出されるような感覚を覚えた。あわてて踏みとどまる。

 ――どうやら、馬車が急停車したようだ。


「なにがあったのじゃ!?」


 ビエールも予想外のことだったらしく、慌てている。

 しばらくして騎士の男が馬車にやってきた。


「大変なことになってしまいました! 老木が倒れてしまっていたようで、道路を塞がれてしまっています!」


「なんじゃと!? 退けるのにどのくらいかかるのじゃ?」


「それが……あまりに大きく押したり転がすのは不可能かと思われます。剣で地道に切断しておりますが、かなりの時間がかかるかと……」


「なんということじゃ……できるだけ急ぎで頼むぞよ」


「はっ! 王国騎士団の名に懸けて尽力いたします!」


 ……大変なことになったみたいだ。


「コージ、見に行きましょうよ!」


 ルビアは少しワクワクしているように見える。……いや、確実に。

 このニヤケ面が証拠だ。子どもか!


「騎士団の人が頑張ってるんだ。あんまり面白がるのはだな……」


「いいじゃない! 減る物じゃなし」


「減るわ! やる気とか気力とか色々!」


「まあまあコージ殿よ、ワシも様子を見に行こうと思っていたところじゃ。どうじゃ、一緒に」


「王様がそう言うのなら……」


 結局、王様の提案で俺たちは老木を見に行くことになった。

 馬車から降りた先には騎士団の馬車が停まっており、その先には巨大な木が倒れていた。

 横幅だけで俺の身長を超えている。

 確かにこれを切る以外でどうにかするのは無理そうだ。


 騎士団の人たちが汗をかきながら剣で切断しようとしているが、硬さも相当のようでうまくいっていない。


「王様、ちょっと騎士団の人たちを止めてもらってもいいですか?」


「構わんが、何をする気じゃ?」


「いえ、あんまり自信はないんですけど……ちょっと考えがありまして」


 あの大木、見た目の割になぜか軽そうに見えるのだ。意外とイケるんじゃないかと思った。不思議と自信に溢れているということはなく、イケそうと思うだけなのだが。


 王様の指示で一次休憩に入ったタイミングを見計らい、俺は大木に近づいていった。


「何をするおつもりなのですか?」


 マリンが不思議そうに尋ねてくる。


「ちょっと持ち上げられないかなって思ってさ」


 俺が答えるとルビアがお腹を抱えて笑い始める。


「プププッ! そんなの無理に決まってるじゃないの! コージの目は節穴? こんなの女神でも持てないわよ! アホなの? 死ぬの?」


「よっと」


 あ、イケた。


「ぎょえええええええ!? なんで持てちゃうわけ!? 女神の立場ないんですけど! 時間戻して! 恥ずかしいから戻して!」


「えーと、これを向こうに倒しておけばいいのかな?」


 俺は大木を通行の邪魔にならないよう縦に配置することで、道を開いた。

 女神も、王様も、レーナも、騎士団の人たちも呆気に取られていた。


「えーと、これくらい普通ですよね?」


「「「「「普通じゃない!!!!」」」」」

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