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第1話:盗賊を全滅するくらい普通ですよね?

 俺とルビアが話していると、眠っていた二人の女神も目覚めたようだ。


「あらあらコージさんは朝が早いんですねえ」


 こっちは確かマリンだ。

 青髪の女神はあくびをしながら呑気にそんなことを言っている。

 どこか気の緩んだ、優しそうな女神だ。


「普通に昼だけどな!」


 ってどういうことだよ! こんなスタートおかしいだろ!

 普通特殊な能力もらったら最初は一人で冒険しながら徐々に信頼を作って仲間を集めていくもんじゃないのか? 俺間違ってる!?


「……ん、これだから学生気分の子どもは困る。女神は年間休日十日で毎日十六時間労働のブラック環境なのじゃ。昼夜逆転くらい仕方なかろう馬鹿者」


 今度は金髪の幼い見た目の女神が割り込んでくる。

 そんな女神の裏事情は知りたくなかった! ルビアが妙に急かしていたのは仕事が忙しかったからなのか。

 もう転職しろよ!


「女神はなり手が少なく常に人員不足なのだ。それなのにペナルティスキルなんて取りおってからに」


 シロナはさらに毒を吐く。


「それなら三人も派遣しなくていいだろ! なんで勝手についてきて文句言われなくちゃいけないんだ!」


「我の方が聞きたいわ! そういう決まりなんじゃから仕方ないじゃろ! ……ああ、今から憂鬱じゃ」


 シロナは頭を抱えて蹲った。


「し、知らねえし……っていうかそんな環境ならむしろ逃げ出せてよかったんじゃ」


「ハァ……だから子どもは。いいか? 確かに一時的に仕事からは解放されたが、いずれ職場復帰した時に白い目で見られることくらい想像できぬか?」


 それはまあ、確かに。

 こうして呑気にしている間にも他の女神はせっせと仕事をしているのだ。組織の体質が問題とはいえサボりに映るのかもしれない。


「そういうことじゃから、責任取ってな?」


「はい?」


 俺がわけもわからぬまま立ち尽くしていると、三人の女神は額を地面につけ、土下座の格好をしてくる。


「はい!? い、いきなりどうした!?」


「見てわからんか? これは土下座という」


 いや、それはわかるんだが……なんの土下座なのか説明してほしい。これが異世界マナーなのか? 海外ではキスが挨拶的な。


「コージさんが死んでしまったり転生特典を返してしまうと、女神は天界に帰らなくてはならないんです。その……厚かましいお願いなのですが」


 マリンの説明でやっと理解した。この女神たちは神界に帰りたくないのだ。鬼のような業務から逃れられたものの、帰れば同僚女神からのキツい仕打ちが待っている。

 女神が天界に帰る条件は二つ。『俺の死』か『転生特典の返還』。俺としてもせっかくもらった特典をフイにはしたくないし、もちろん死にたくもない。


「こんなにお願いしてるのにダメなわけ!?」


 ルビアは半ギレである。こいつだけ天界にサヨナラできたらいいのに!


「わかったよ! 好きにしろ。だけど、一つ条件な?」


「常識的な条件にしてよね。こう……なんというかおぞましい感じのアレとかやめてよね」


「ルビアはそういうのがお好みなのか?」


「なっ、そんなんじゃっ! 私は腐っても女神よ!」


「冗談冗談。頼みたいのは、俺を守ってほしいってことなんだ。俺ってチートないからさ、その辺ちょっと不安なんだよね」


 多分この世界には魔物がいるのだろう。それを倒すことを生業とする冒険者みたいな存在がいて、きっと商人もいるだろう。戦闘をしなくても日本の現代知識を使えば生きるのに苦労はないと思うのだが、せっかく剣と魔法の異世界に来たのだ。ちょっとくらい戦ってみたい。


「そのくらいお安い御用よ! 炎の女神ルビア様に任せなさい!」


 うむ、とても頼もしいことだ。一見不遇スタートにも見えたが、女神ならきっと人間を超越した何か凄い能力があるはずだ。俺は安全に戦うことができる!


「私も、水の女神の名にかけてコージ様をお守り致します」


「あの地獄のような日々に比べればコージを守るくらいは破格の待遇。我……光の女神が守ってやろう。……できる範囲で」


 利害は一致した!

 俺、戦う。女神、俺を守る。

 みんな幸せ!


 こうして、俺は女神を養うことになったわけだが、まずは最寄りの村に行くことにしよう。外敵からは女神が守ってくれるとはいえ、野宿はできればしたくない。


「しかし村はどっちなんだ?」


「そのくらいは私に任せなさい! 完璧に案内してあげるから!」


「おお! 頼んだ!」


 現在地は草木が生い茂る草原地帯。ルビアのナビで村を目指して歩き始めた。

 心強い。チートはなかったけど、生死を分けると言っても過言ではない序盤をガイドありで進めることができるというのはかなり恵まれてるんじゃないだろうか?


 俺は完全に油断していた。しかしここは日本のように治安が良い場所ではない。無防備な旅人を狙う悪い人間もたくさんいるのだ。


「おいそこの旅人!」


 岩陰からひょっこり現れた髭面のおっさんに話しかけられた。

 おっさんは短剣を右手に持ち、俺たちに威嚇する。


「俺たちにあったが運の尽きだったな。さて、金を出せ!」


 盗賊だった。失念していたが、ここは中世ヨーロッパ風の異世界なのだ。こんな輩がいても不思議ではない。


「ふ、ふざけるな!」


 俺は理不尽な要求に怒りを滲ませる。

 異世界に来たらいきなり盗賊に襲われるなんて絶対おかしい! こんなの俺の望んだ世界じゃない!


「うし、お前ら出てきていいぞ! 今日のカモだ!」


 おっさんの合図で、ぞろぞろと背後から新しいおっさんが生えてくる。

 どいつもこいつも悪そうな面をしている。


「な、なあルビア? こんなやつ蹴散らしてくれよ!」


「無理よ!」


「なんでだよ!」


「だって女神は戦闘訓練なんて受けてないの! 守るくらいはできても戦うなんて無理よ!」


 使えねえ……!

 俺を守るって約束はどうした!


「マリンはその……できるよな?」


 と、確認してみたのだが、明らかにどうにかできそうではない。


「だ、大丈夫です……か、カナラズ私がど、ど、ど、どうにか……!」


 手足がブルブル震えていた。こんな状態でまともに戦えるようには見えない。


「一応聞くが、シロナ?」


「てえい!」


 おお!

 シロナが女神の杖を片手に、おっさんに飛び掛かる。

 きっと打撃で対処するのだろう。

 いやあよかったよかった……ってあれえ!?


「こざかしいわァ!」


 バシッという音がして、シロナは地面に叩きつけられた。


「すまぬ……女神では力が及ばなかった……」


 申し訳なさそうに謝るシロナ。

 責めるのは後だ。この状況をどうにかしないと。


「悪いが盗賊のおっさん、俺たちは一文無しだ。取れるものは何もねえっ!」


 俺の宣言に、盗賊は一瞬を顔を顰める。


「ないならないでテメエらを売り飛ばすだけだああああっ!」


 盗賊のおっさんはブチ切れ。

 仲間を引き連れて襲い掛かってくる。


「炎の女神を甘く見ないで! ウォールフレア!」


 ルビアが叫ぶと、目の前に幾何学模様の魔法陣が展開する。

 炎の壁が出来上がり、盗賊の攻撃を防いでいた。


「ルビアナイス!」


「私だってやるときはやるんだから!」


 しかし、炎の壁は段々と色が薄くなっていた。


「ちょ、これ大丈夫か!?」


「え、えっと……効果時間が短いのはご愛敬?」


「使えねえ!!!!」


 ふざけた女神の炎はすぐに霧散した。


「少しばかり防御魔法は使えるようだが、それまでだったな!」


 く、くそ!


「ここは我の出番じゃな! ホーリーハイド!」


 俺と女神三人の足元に魔法陣が展開。その直後、三人の姿が見えなくなった。


「みんなどこいったんだ!?」


「シー、ここにいる。魔法で見えなくなった」


 シロナの魔法は姿を消すことができるらしい。俺たちは透明人間になったのだ!

 これは思ったよりも有能かもしれない。いまのうちに逃げて……。

 と、一歩足を進めた時だった。


「いたぞおおおお!」


「な、なんで見つかるんだよ!」


「ホーリーハイドの問題は、一歩でも歩くと魔法が解けてしまうのだ」


「そ、それを早く言え!」


 まったく、どいつもこいつも使えねえ!

 ここはもう俺がやるしかないのか? 魔法もスキルも何も知らない俺が? Eランク特典しかない俺が、こんな強そうなおっさん相手に丸腰で戦って勝ち目なんてあるのか?


 いや……どうせこのまま売り飛ばされれば、俺たちは仲良く奴隷として売られてしまう。

 それくらいは平和ボケした日本にいた俺でもわかる。

 なら、玉砕覚悟で……やってやる!


「うおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」


「な、なんだアイツ向かってくるぞ!?」


「お前ら、恐れることはない! 旅人に何ができる!」


 俺は不思議とこのおっさんに勝てる自信があった。どこからか力がみなぎってくるような感覚。

 いや、みなぎっているんじゃない。持て余しているのだ。


 俺は右手をグーの形で思い切り振る。

 その瞬間、脳内に聞き覚えのある、どこで聞いたのか思い出せない声が聞こえてくる。


 ――【ステータス上昇(全種)】使用可能になりました。

 ――常時発動開始します。


 とりあえずこの声は無視だ!


 盗賊の短剣の切っ先にぶつかり、切れるかと思いきや――短剣を破壊してそのままボディーブローが炸裂する。


 おっさんは吹っ飛び、背後にいた仲間を巻き込みながら地面を転がり制止した。

 あれ? 俺って結構やれたりするのか? あまり自信はないんだが。


「ひ、ひえええええ! こ、こんなバケモンに敵うわけがねえ! ズラかるぞ!」


「おっす! ズラかれえええ!」


 逃がすかよ! 


 俺は地面を思い切り蹴り、逃げようとする盗賊の前に躍り出る。

 思ったより足も速くなっているらしい。


「うおっ」


「ぐへっ!」


 俺は次々とボディーブローで盗賊たちの意識を刈り取っていく。

 ものの三分ほどで片づけた。


「ど、どういうことなの!? ハズレスキルしか持たない平凡な転生者がどうしてこんなに強いわけ!?」


 と、ルビア。俺が聞きたい。


「さすがはコージ様です! 私は最初から信じておりましたの!」


 うんうん、これでこそ女神だよ!


「我の魔法との連携プレー……見事であった。しかしよく我の意図を見抜いたものだな。褒めて遣わすぞ」


 どこが連携プレーだ! 失敗したあと逃げ回っていたことを俺は知ってるぞ!

 しかし、どういうわけかこれが凄いことなのか俺には理解できない。これくらいのことはできて当たり前なんじゃないかと思えてくる。

 これが【謙虚】のペナルティということだろうか?


「そんなに大したことしてないと思うけどな。盗賊の集団を一人で全滅するって凄いことなのか? 普通じゃね?」


「「「普通じゃない!」わよ!」です!」


 三人の女神の声がハモった。

 ふむふむ、これは凄いことなのか!

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