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京
斉彬の決めた太平次の縁談相手に会うために、太平次はヤマキの船で、京へ向かっていた。
「京へ行くのは、久しぶりじゃっどんちくっと怖かなぁ」
「ないを言っちょっとでございもすか兄さあは」
そんなことを言っているのは、弟の弥兵衛だった。
「兄さあは、そいでも『海の男』でございもすか。きばってくいやんせ。チェスト!」
「おお、そうじゃったそうじゃった。ちくっとおいもきばらんとなぁ。弥兵衛、チェストじゃ!」
「皆も、チェストきばれ!」
太平次は、弟の弥兵衛だけでなく、ヤマキの従業員や船乗りに喝を入れようと、声を張り上げた。
「兄さあ、もう少しで京が見えて来もんそ。京には可愛か女子がぎょうさんおっと聞いておいもす」
「弥兵衛、今日はそげなことで来たわけじゃなか。おいの縁談相手に会いに来たとじゃなかか?」
「そうでございもした。すんもはん兄さあ。おいはすっかりこん目的を忘れておいもした」