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薩摩の君主

彼は今、儚く短い一生を終えようとしていた。彼のそばには孝明天皇の皇医が側についていた。なぜ商人の身分なのに天皇の医者が派遣されたかと言うと、薩摩藩家老の小松帯刀が天皇に拝謁できる身分なので、天皇に太平次を助けてほしいと頼んだのだ。

今、薩摩藩はこの男に死なれては困るのだ。この男の財力がなければ、イギリスから銃三千丁も軍艦も買うことが出来ないのだ。だから、天皇に頼むしかなかったのだが、医師の懸命の治療虚しく太平次は、孝明天皇の御恩に感謝しこの世を去った。

これは、そんな薩摩の一御用商人の話である。


「おおっ太平次来たか!待っておったぞ」


そう言って太平次を出迎えたのは、ようやく父の島津斉興から渋々家督を譲られた島津斉彬である。


「ははっ。これは斉彬様お待たせしもした。そいで、話とはなんでございもすか?」


「ちょっとな、また銭が必要でな」


「いくらでございもすか?」


「五百両で良いのだが、なんとかならないか?今の儂には太平次しかおらんのだ」


「… わかりもした。今すぐにヤマキの者に取りに行かせもす。」


「本当か? すまない太平次。しかし、今度の大きな唐物商いは全部ヤマキに任せるので勘弁してくれ」


そう言って斉彬は頭を下げた。これに太平次は驚いた。藩主自らが藩の御用商人に頭を下げているのである。同時に、この人の為なら幾らでも私財を投じ、役に立ちたいとも思った。それと斉彬がここで言っている唐物商いとは、当時幕府から禁止されていた中国との所謂密貿易の事である。太平次は、薩摩藩から頼まれて密貿易をしていたのである。フィリピンのルソンを始め上海支店など外国にも支店を持つ程の豪商だった。


「そうだ。太平次、そういえば嫁取りはまだだったよな?」


「はっ、そうでございもすが何か?」


「お前に良き縁談があるのだが、どうだ?一目でも会ってはみないか?」


「良きお話なれど、おいはまだそげなこつは考えてございもはんど、こいは無かったことにしてくいやんせ。斉彬さあ」


「まあ、そう言わずにな?頼む会うだけでよか。儂の頼みを聞いてくれ太平次」


「…… 分かりもした。会うだけでございもす。して、相手は?」


「京の五摂家筆頭近衛家の遠い縁戚じゃ」


「なんとおいにそげなお方が」


「おっ、乗る気になったか?」


「いえ、おいには勿体のうございます。」


「しかし、向こうはおはんに会いたがっておるぞ?儂の顔に泥を塗ることはやめてくれぬか?太平次、儂のためだと思うてくれ」


「分かりもした。そこまで斉彬さあが申されっとじゃ、会いもんそ」


「おおっ、会ってくれるか。今夜は祝いの席じゃ!」


「まだ祝言を挙げるとは言ってごわはんど」


「はっはっはー」


こうして、斉彬が持ち込んだ縁談の相手と会うことが決まった太平次は、京へ出向き会うこととなった。



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