女帝ガーネットの伝説の始まり
クロームは話に割り込まれた事を気にせず、寧ろいいタイミングだと冷めかけた紅茶を含んで口を湿らせる。
ぺろりと唇も湿らせた所を見ると話はこれからのようだ。
「空気読めないだけなら可愛いもんさ。
国中が悲しみであふれている中でガーネットは真っ赤なドレスと真っ赤なストールを羽織ってやってきたんだ。
その出で立ちに誰もがあっけにとられて義勇軍と騎士団とが自然に分かれて道を譲ったぐらいだ。
やがて一番前まで来てテラスに立つ王妃を見上げて
『たかが魔獣ごときにこの国は何をしている。
王妃も王妃だ!
こんな役に立たない男達にいつまで国を任している。
我々女は酒場で酌をする男達がついに絶滅したぞ!
王妃がここで貴重な男どもを囲うだけの国なら滅びてしまえばいい!!』
あの時はついぞ反論さえと言うか、返す言葉が何も思い浮かばなかったよ。
あまりに場違いと言うか、国が滅亡一歩手前だと言うのに止めは内側から滅べばいいと言われてしまった時、国とはこうやって滅んでいくのだなと痛感させられた。
だが我が母も王妃で女だ。
ガーネットをテラスから見下ろして言った。
『なら女ならどうするべきだ?
女ならこの戦いのどこに勝機を見出すと言う?
総てを許す。
やって見せよ』
あの時隣で見ていたから私は知っているが、王妃と言えど王の許に嫁いだだけの家柄の良い只の一人の女性。
亡き王の代わりに未来の見えない戦いに恐怖と絶望に泣く事も嘆く事も許されず、玉座で滅亡していく事をずっと見続けていた王妃は震える手足でガーネットに最後の強がりを言ってのけ、彼女に全責任を負わせるかのように命令した。
だけどガーネットはあの時のあの状況すら鼻で笑い
『そんなもの魔物事総てを焼け野原にしてしまえばいい。
周辺の村も全てもう人も動物も何もない。
気兼ねする事はないだろ?
総てと引き換えに城壁が囲む王都の中だけがこの国に残された総てだ。
こそこそと魔物がやってこれないように見通しよくすりゃいいだけの話さ』
言って彼女はその膨大な魔力で城壁内総てを結界で囲い、無尽蔵なのかと言うような莫大な魔力で小さな太陽のような火の玉をこの国に落とし、結界に滑らせるかのように火は総ての方向へと走って行って、結界の外は言葉通り王都周辺総てを焼け野原にしてしまった。
あまりにも簡単に、あまりにもあっけなくて、ただ誰もが彼女の圧倒的な魔力に度肝を抜かされて。
城の庭で集められた我々男達は情けない事に王都の外がどうなったのか集団となって見に行く事になったんだよ」
くっくっくと喉を鳴らして情けないだろ?と笑うクロームに当時を知る者はうんうんと頷き、クレイのように城の庭に居なかった者達は物語を聞くように目をキラキラとさせて話の続きを待っていた。
「彼女の魔法の結果は見ての通り、王都周辺一帯の荒野はあの時の魔法1発で出来た物だ。
城から一夜馬で駆けてやっとたどり着いたぐらいの広範囲の魔法に誰もが目を疑った。
植物、生き物がすべて焼け、更地になった荒野に遠い森から魔物達は姿を隠す場所がなく、やがてやってこなくなった。
ただ、翼をもつ魔物が運よく魔法を逃れて城へとやってきたものの、それすらガーネットの魔法で殲滅されてしまい、あまりの圧倒すべき力に誰もが彼女に畏怖の念を抱いたさ」
喉を震わせて笑うクロームは冷めた紅茶を一口含んだのち、私はガーネットに言ったよと話を繋げる。
『なんでこんな事ができるのならこんな事態になる前に!
なぜもっと早く手を貸してくれなかったのか!』
と。
民の前と言う事すら忘れて掴みかかって叫びつけてしまったが、彼女は胡乱な目を私達に向けてこう返したんだ。
『女子供は魔物に見つからないように隠れてろって言ったのはどこの男だ?
魔物なんてすぐに全部片づけると言ったのはどこの騎士だ?
魔物なんて物に屈しない。王都の中で安心して暮すがよいなどとできもしない約束で民を王都の中に縛ったのはどこの王の言葉だ?』
「言われて絶望したさ。
その時になって初めて言葉の重みと言うものを知らされた。
できない約束とあるはずもない希望を与えてきた王族としての自分の無力さに私は王位継承権を返上し、年の離れた弟を次期国王とすることで無意味な継承争いを避ける事しか私には王族としての務めが残ってない事を理解した」
と、そこで話を結べばどこからか緊張の解けたため息がちらほらと聞こえてきた。
セイジ・ドーミーが改めて熱いお茶を全員にふるまうもクロームの話がまだまだ続く。
ただ、さっきのような重苦しい話ではなく、いたって普通に話をするような軽い口調で
「私とガーネットの付き合いはそこから始まった。
彼女は誰もいない酒場で1人で孤児となった子供達の世話をしていた。
それを見て私は理解したよ。
子供が30人も40人もいれば彼女の酒場に男どもが寄り付くはずもない事を。
目を点にして子供達に食事を与えてる風景を見ていた私に彼女は言ったよ。
『国はまずこういった子供達を保護する所から始めるんじゃないのかい?』
痛い一言だった。
戦いで人が死ぬ事に慣れすぎた私はまだ人は黙ってても増えるものだとどこかで思っていたんだろうな。
それから私は彼女に学ぶ事があると気づいて毎日彼女の酒場にかよう事にした。
彼女は子供の面倒を夫を亡くした女達に面倒を見させ、どこからか狩ってきた魔物を家を失った女達に処理の仕方を教え、難民としてやってきた者達に処理した魔物の加工を教えていたのを私も同じように学んだ。
だけどガーネットは彼女達からこの仕事を奪う気かと私を一喝してね、なら私はどうしたらいいとついに泣きついてしまった。
『手や足や目玉が無くなったくらいで人は死なん。
何時までも床に寝かして少ない物資を消費させるくらいならとっとと働けと言って回れ!』
この時初めて文字通りの尻を蹴られると言う体験をしたよ」
心から楽しそうに声を立てて笑うクロームにどう反応すればいいか迷うも彼の話は構わず続く。
「彼女は私と、ああ、この時だったな。
ガーネットが家名に縛られない低い地位の官吏でいい。
記憶力のいい若い奴を連れて来いと言われて、城ではちょっと有名だったセイジを無理やり辞職させて三人で歩き回ったよ」
「はい。うちは兄弟が多いのであの時はやっと就いた城勤めを離職する事を家族に説得させるのは、もうほんと大変でした」
苦笑交じりの9人弟妹の長兄のセイジの言葉には同情するしかなかった。
ここまでがおまけの後書きにのせていた物になります。
ここから先は予約投稿になります。
どうぞお付き合いください。




