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始まりの剣  作者: 雪那 由多
15/15

彼女だけが知る物語

思いっきりネタバレします。

転生……にはあまりかかわりがないかもしれないけど、これを前提に読むと人間関係のシンプルさが理解できるかと思います……

ほら、難しい話苦手だから……

最終話ですがよろしくお願いします。

 雌黄の剣の依頼は無事終えたと言えよう。

 成功かと問われれば失敗ではないと言う所だが、依頼主のクロームからは任務成功と言うサインと報酬を貰ってあの戦いから15日を経て王都の自分の部屋で俺は寝転んでいた。


 あのバケモノ蜘蛛に勝った俺は風の眷属にシアーの所まで運んでもらい、俺の金色の魔力を解けば眷属達は満足そうな顔をしてどこかへと帰って行った。

 クレイが俺の左手の骨までこんがりと焼けてしまった怪我を見付けて大泣きをするし、シアーからもバカでしょとお前だけには言われたくないと言う説教をされながらも治療の邪魔になるからと言って腕の肘からをバッサリと切り落とされたあと、シアーの持つ復元回復魔法というとっておきの技で何とか回復し、それを目の当たりにした雌黄の剣の皆様はどういうこと?と言う顔をずらりと並べて俺の治ったばかりの腕をぽかんと眺める始末。

 手を握りしめたり広げたり振り回したりしても全く依然と損傷のない腕に


「シアー、ありがとう」


 その言葉を最後に俺は丸二日ほど爆睡する事になった。

 黄金化の代償として魔力は毎度ほぼ枯渇寸前まで使い切ってしまう為に何日か寝たっきりになってしまう。

 今回はシアーもいる事だしと安心して黄金化出来たけど、敵地だったらまずやってはならない手段だ。

 俺が寝ている間に雌黄の皆さんは目的の探し物をしていたようだが、辛うじてこの地でなくなった騎士の遺品をいくつかの袋に回収できたがお目当ての物はなく、手持ちの食料の減り具合からこの地を離れることになった。


 その前にだ。


 シアーを始め、雌黄の皆様方にせっつかれて俺の住んでいた家へと案内された。

 家と行っても床と壁と屋根のある一部屋だけの家はすでに僅かな柱では支えきれなく崩れ落ちた屋根、そして地面の見える床と風通しのいい壁があるだけだった。

 この地を去ってもう何年になったか、まだ形がのこっていたことにおどろいたが、恐ろしく持ち物も少なかったこの家には思い出に持ち出せるものはなにもなく、ただ背後で唖然として声もかけられないみんながいる事は判っていた。


 頭の中はあの日、小さな棚の中に俺を押し込めて魔物から見つからないように守ってくれていた背中が「〇〇〇逃げなさい」と言い残して魔物の前に躍り出た姿。

 魔物にかみ付かれ、生きたまま魔物に食べられて行く中早く逃げなさい、魔物から逃げなさいと俺の生をひたすら望んでくれた涙ながらの切望。

 だけど、置いて行かないで、離れたくないと言ったように伸ばされた手が「行かないで」「離れないで」「助けて!」と、口にする事の出来なかった本当の気持だったのだろう。

 俺だって離れたくなかった。

 だけど、弱すぎた俺はそんな母さんから逃げ出して、いつまでもこびりついている母さんの悲鳴に罪悪感からか自ら命を絶とうとした事を、周囲が火に飲まれた空気の匂いまでも思い出していた。

 手を伸ばしてくれた母さんの手に俺も手を伸ばそうとはせずに見捨てるように逃げ出してしまった俺は今もあの日と同じように震えていて、涙が溢れだしていた。


「そうだよ。

 そうやって後悔して、お母さんを思い出してあげて」


 シアーが俺の頭をいつの間にか抱きしめてくれていた。

 

「何があったか私は知らないわ。

 だけどね、こうやってちゃんと成長して私達を守ってくれた姿をきっとお母さんも誇らしく思っているはずよ」


 その言葉に俺はシアーの背中に手をまわしてその胸に泣きついていた。


「大丈夫。

 お母さんはエンバーの隣にいる事はないけど、エンバーがお母さんを思っている限りお母さんはエンバーを見守っているわ」


 ついに声を立てて俺は泣いていた。

 シアーが何度も俺の頭を優しくなでながら、涙で服がベトベトになるのも構わず俺はその胸の中でひたすら泣いていた。

 何度もしゃくりあげて、シアーが大丈夫って何度も安心させてくれるたびに俺はここに来る事を、生きてこの地を踏む事を許されざる事のように考えていたのに……

 

 母さんと二人、まだ何もなかったこの家の場所を希望に満ちた瞳で未来を、母子二人の安住の地を陽だまりの様な暖かな思い出を思い出すように、それからのこの苦しく辛いく寂しくて寒いばかりの記憶を涙で暖かな思い出もあると、洗いさるように泣き続けていた。




 泣き止んだのは、いつの間にか雌黄達が俺と母さんの家を修復しだした頃だった。

 周囲からまた使えそうな柱を持ってきたり、屋根になりそうな板を見つけ出してきたり、抜けた穴を塞ぐように床を張り替えたりと、俺の泣いている間に何が起きていたのかわからない光景が広がっていた。


「エンバー、悪いがそんな大切な思い出を何時までもほかって置いてはいけないな」


 クロームの叱咤に俺は何が起きているのかわからなかった。


「お母上との思い出には損傷がありましょうが、だからと言ってそのままって言うのもどうかと思います。

 余計なお世話だと思いますが、お母上がもし見て下さっているとなれば、きっと大きく成長した息子を迎えるのにこのような荒れたお家では……とお考えになるでしょう」


「そうだよ。

 きっと、雨に濡れる事もなく、風に震える事もなく、虫の登ってくる事もないお家で暖かいご飯を用意して、花でも飾って待っているはずだよ」


 遠い、幸せだった頃の記憶に色が戻った。

 小さなテーブルに飾られた花はこの辺りではどこでも咲いてる物で、飾り気のない家だからとつねに花を飾りつけていた花の匂いまで思い出す。

 味の薄いスープだけど、常に温かい物を食べさせたいと言う贅沢を何時も用意してくれた温もりが記憶からあふれ出る。


「さあ、泣き止んだら言わなくちゃいけない事があるでしょ?」


 風が吹けばまたすぐにでも崩れ落ちそうなほどの補修だけど、シアーが家の扉を開けて俺の背中を押してくれた。


 ととと……


 普段ならその程度で歩みを進める事はなかったけど、扉の中を見てしまえば、足を止める事は出来なかった。

 

 記憶とは全く違う家が出来ていた。

 だけど記憶が総てを補正する。


 ガラスの嵌められていない窓。

 小さな食器棚には刺繍の施された小さな布が張られていた。

 丸い小さな机の片隅にはナイフで彫られた母さんと俺の名前。

 背もたれの無い丸太の椅子には布をかぶせてあった。

 部屋の隅の水瓶は毎日入れ替えて常に澄んでいて


 おかえり


 悲鳴しか記憶にない声とは違う、どれだけ働いて疲れていても暖かな笑みで俺を迎えてくれた甘い匂いすらする母さんの声が聞こえた。


 あふれ出る思い出の記憶から込み上げるように

 もう口にする事のない言葉だと思っていたのに

 伝えたい人はもういないと思っていたのに


「ただいま……

 母さん、遅くなってごめん……」


 何もない部屋の真ん中に崩れ落ちるように

 まるで目の前に母さんがいるかのように


 あの穏やかな陽だまりの日々が甦ったように俺は母さんと久しぶりの挨拶を交わした。






 今は見慣れた低い天井を見上げながらベットでゴロゴロとしている。

 その後、家の周りに周辺でかき集めた花の苗や種をまいて


「また来るから」


 少しのお別れだと断って王都へとの帰還になった。

 20名での出発から回復が間に合わず12名にまで減った数にクロームに申し訳なく思ったが、実際の戦場を見たクロームは


「12名も無事帰る事が出来た。

 むしろ侮っていた我らこそ申し訳がない」


 戦闘に関してはほぼ何もできなかった彼らは少しだけ恥ずかしそうに改めて鍛え直す事を一方的に約束してきた。


 シアーも砂漠まで見送ってくれて、それからまた森へと帰って行った。


「時々お母さんの様子は見に行くからね」


 あんなふうに荒れ果てるくらいならと思えば俺はシアー花の水やりを頼んでいた。

 

「毎日は出来ないよ」


 健康的な歯を見せながら笑ってから山で捕まえたヤックルに跨り去って行った姿に逞しいなと感心しながらみんなで見送った。


 紅緋の翼に戻りガーネットに帰還の挨拶をして任務終了の報告をする。

 細かい事は休んでからすると約束を取り付けて今に至るのだが……


 未だ報告には行けていない。

 

 疲れた。

 黄金化の反作用でものすごく倦怠感にさいなまれている。

 いくらでも寝れる状態で、起きては食事をして横になれば眠っていると言う繰り返し。

 報告に行かないと、とは思ってはいるが体が動かない思考が働かない。

 これはもう少し横になってる必要があるなと毛羽立った毛布を引き寄せて寝る体勢に入れば


「エーンバー、いつになったら報告に来るんだい?」


 鍵が掛っているはずなのに、ドアノブを普通に回して入って来たガーネットの姿に眩暈がした。

 勘弁してくれ……

 

「体力回復してから報告に行くって言っただろ……」


 何とか体を起こす間にガーネットは俺のすぐ隣に座る。


「待ちきれなくて聞きに来たに決まってるだろ」


 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべるガーネットには溜息しか出なかった。

 だから素直に出来事を総て話した。

 行の穴倉の話しからシアーのアジトと水瓶の話し。命の優先順位を決めさせた時のセイジの決断、そして雌黄の結束。

 

「魔物共のの共食いによる変化ねぇ」


 この報告の時点で今まで黙って耳を傾けていただけのガーネットが初めて口を挟んだ。

 何か知っているのか難しい顔をしていたが、それからと促されて話を続けた。

 変化した魔物の群れに俺もシアーも全力を出さずを得なかった事を言えば楽しそうな顔で西の方から巨大な二つの魔力を感じたから苦戦していると心配したぞと全く心配してない顔で俺の頭を抱きよせて次はと急かされる。

 それから母の墓参りをした事。

 雌黄の剣の人達が資材がない中で家を直してくれた事。

 時折シアーが様子を見に行ってくれる事まで約束して、彼女はまた森に、雌黄と二晩かけて砂漠を駆けた事、八名の犠牲者に雌黄は悲しみに包まれていたが、それでも無事生き延びた命にクロームは感謝していた事を伝えれば、座る所がないとはいえガーネットは子供の時みたいにベット横の壁に二人して背中を預けて何度も優しく頭を撫でていた。

 結果だけを見れば犠牲者を出してしまった失敗もあったが、予想だにしない展開についてはガーネットは何も言わなかった。


「だけど、結局雌黄の探し物は見つからなかったし、もしかしたら二度目の探索の依頼が来るかも」

「あるだろうねぇ。あるかどうかも分からない探し物なんだ。

 付き合ってやるしかないねぇ」


 意味ありげにニヤニヤと笑うあたりぼろもうけだと喜んでいるのかとガーネットの視界の外で小さな溜息を吐いた。


「まぁ、報告はエンバーの準備で十分だよ。 

 後は書面でウードに報告してくれれば十分だ」

「やっぱり書面にしなくちゃいけないか?」

「当然だよ。記録にすると言う意味と、文字書きの練習も兼ねている。

 頑張んな」


 ぐりぐりと頭を撫でられながら


「じゃあ頑張ったエンバーにご褒美を1つしてやろう」

「不安しかねぇ……」


 正直に不安を口にするもガーネットは笑うだけで俺をその細腕でベットへと縫い付ける。

 昔は当然のようにガーネットが隣で添い寝していたが、さすがにこの年になると少し気はずかしいのもあるが、胸の上に置かれた腕の強さに俺は諦めるの選択しかない。


「前にお前に本を読む練習だと精霊ロンサールと王になった男の話しには続きがあるから話してやろう。

 エンバーはこの話が好きだったからな。

 もうちょっと読み書きが上達したら読ましてやろうと思ったが、今回頑張ったご褒美だ」


 そう言って狭い室内にガーネットの声が響いた。


 精霊ロンサールはその名を頂いた国を友と呼ぶ男に国を与えた。

 民も居ない国だが、やがてロンサールの恵みに人が集まり村ができ、人々噂を聞きつけて集り、街となり、城壁も作られる立派な国へと成長し、男も王と奉られるようになった。

 だがその頃になると友は年を取り一人身は寂しいと言って一人の女を娶る事を決めた。

 精霊ロンサールはその長寿から一人身の寂しさを理解できなく、友が自分から関心が無くなったと思い姿を消してしまった。

 やがて王には子供が生まれ、子供をあやす妻と言う幸せを掴んだと思ったのだが


「子供ももう私の手が無くても一人で自分の事は出来るでしょう。

 後は誰かに手伝ってもらえばいい事で、私でなくても良い事だ」


 ある日突然いった妻の言葉に王も王の子もその二人を取り巻く人達も呆然と王妃の言う事場を聞いて理解できずにいれば


「これでお別れです。

 王よ、私とあなたの子供の血が続く限りこのロンサールは永遠の発展を続けると約束しましょう」


 それはどういう意味だと王は王妃を掴もうとするも、王妃はするりとその腕を交わし、城の窓からその身を投げ、大きな川から引きこんだ池へと沈み、その姿は瞬く間に川に流されて消えてしまった。


 王はそれはそれは悲しんだが、涙を流して悲しむ父親に子供は小さな両手を伸ばしてその涙を拭ってやった。


「父様、そんなに悲しむ事ではありません。

 母様は母様のお勤めに戻られただけです。

 これから先は私と一緒に母様の愛したこの国を守って行きましょう」


 小さいながらのしたっ足らずの言葉に王は驚いたが、悲しむ事もなくニコリと笑う息子の瞳を見て気が付いた。


 息子の両の瞳はこの地に住み着いてからずっと見続けた美しい黄金の瞳だった事に初めて気が付いて、王はそれ以降寂しいとは言わずこの地を代々王と王妃の血を受け継ぐ黄金の瞳の子供に国を守らせる事にした……


 何とも悲しいと言うか、理不尽と言うか、良くわからない終わり方にガーネットを見れば彼女はくすくすと笑い


「つまり、王妃は精霊ロンサールの偽りの姿で、王を愛した精霊ロンサールは王の子を産み、王家は代々精霊ロンサールの血を受け継ぐ半人半精霊と言う事だ。

 もっとも精霊の基準で言えば腹から、もしくは親を持つ物を精霊と認めないから、妖精だな。

 半人半妖精が王家の血筋になる。

 こんな事誰も信じる事も出来ないから、古臭い文献の中に埋もれる程度の話しになってしまったのだな」


 うんうんと頷くガーネットに作り話かよと心の中で突っ込むが


「所で前から気になってたんだけど、その胸の宝石は誰に貰ったんだい?」


 一度も、誰にも見せた事のない宝石に冷や汗を流すも、ガーネットの瞳にごまかしは利かないと理解できて


「村に居た頃、助けに来た騎士……友達に形見じゃないけどってもらった。

 大切な物だったらしい」


 初めて口にする言葉に心臓が煩い位にバクバクと騒いで外の喧騒すら聞こえないが


「そうか。大切な物なんだね」


 目を細めて柔らかく笑うガーネットに何故かこれを持つ事を認められた気がして緊張が緩んでしまえば、隣に寝転ぶ体温の暖かさにまたうつらうつらとしてしまう。


「ああ、まだ疲れてたんだね。

 ゆっくりお休み」


 おでこにガーネットの唇が押し付けられたが、これも久しぶりだなと気恥ずかしいよりも先に瞼が重たくなり、いつの間にか意識は途絶えてしまっていた。




「お前の子供は正しくその血を、この地図も受け継いでいるよ。

 後は約束の地に来るだけだ。

 我々の契約は切れてしまったが、私はお前との子供をこの地で約束の地で何時までも待ち続けるよ」

 

 生まれも出自も知らないこの子供の秘密は知らなくてもいいものかもしれない。

 だけど、子供との再会は何度経験しても胸躍る出来事で……


「よその女にお前を取られるならと嫉妬する私を笑うかい?」


 窓の外に浮かんでいる少し欠けた月を見上げてガーネットは一瞬その姿を狼にも似た姿を浮かべるもすぐに人の姿へと戻り、静かに部屋を後にするのだった。

 


 




エンバーの出自の秘密とガーネットのお気に入りのわけはこう言った関係になります。

地図はいくら探しても見つからない理由だったり、本人もただの形見だと信じていたり、それを知っていて黙ってる悪い人がいたりしますが、その内どこかでばれればいいと思ってます。

最後までお付き合いありがとうございました。

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