精霊の眷属を従えし者
黄金の狼小僧なんて呼ばれているこの状態なら呪文も省略しても彼らは俺の魔力を糧に姿を現してくれる。
火属の精霊の眷属と風属の精霊の眷属を召喚する魔法。
個々に契約しているわけではないので呼び出すたびに違う個体になってしまうのは半分ギャンブルだがそれでもどれも忠実に俺の指示に従ってくれる辺りありがたいと思ってはいる。
あと地属、光属、闇属と使えて水属だけは使えない。
ロンサール人の呪いとも言われる水属からの嫌われ方はこんな所にも影響しているが、今の所困った所はないので一属性使えなくても苦にはならない。
吐き出した糸に向かって炎の狼が糸を焼く様に向かって走って行く。
そして風の狼はこの蜘蛛にとって有利な巣を切り刻んで破壊をして行く。
自分の巣を……城を破壊されて怒りまくる蜘蛛めがけて剣を叩き付けるが
ガキッ!
金属の様な手ごたえと、鈍い音に距離を取る。
「かってぇー!」
まさかこの状態の俺の剣を受け止めるかと思うも、あれだけの魔物を統率したボスだ。
こんな簡単に斬らせてもらえるとは思ってない。
とはいえあまりの嫌な音に刃毀れしてないか非常に不安だがとっても確認したいが今はそれどころではない。
糸を吐き出して前に突進してくるのはありえないだろうから吐き出した瞬間瞬発力の上がった足で糸の横をすり抜けて再度切りつけて行く。
堅い工装に包まれた手足ではなく柔らかな腹を狙って体の下に潜り込んで剣を突き立てる。
「はあっ!!!」
気合を入れて叩き付けても鉄の糸のような毛が腹を守るが、手足ほど固くはなく深くはないが剣先は確かにその体に食い込み引き裂かれた所から白い液体が溢れだした。
確かな手ごたえに風の狼を新たに一体呼び出しそこを攻撃させる。
ギギギッ!!!
二体だけだと思ってた眷属が増えたのだ。
文句もあるように、そして予想外のダメージの痛みに悲鳴を上げるも、長く器用な足が俺を蹴り飛ばしてくれたが、助かった事にまだ残っていた蜘蛛の巣のベットへとたたきつけられただけ。
「助かった……」
痛いと言う所を誤魔化す為にこぼれ出たのは安どのため息。
蹴られた場所の骨が悲鳴を上げているものの、木の幹に叩き付けられる事を想像していれば背中からのダメージはほぼゼロと言ってもいい。
ほっとした束の間、俺の無事に腹を立てる蜘蛛はまた糸を吐き出してきて慌てて立ち上がり、骨の痛みを無視して慌ててそのばをにげだした。
俺より数の多い手足と糸の全力攻撃に走って逃げながら少しずつ足場の広くなりだした巣の中は既にほぼ屋根は取り除かれているも、蜘蛛もまた新たに糸を吐き出して壊された巣から覗く枝に糸を貼り距離を広げられた、木々の高い所から糸の塊りを叩き落としてきたりと向こうにも有利になったには変わらない。だけど
「来たれ風帝の使者!」
新たに呼び出したのは先ほど呼び出した狼よりも上級のさらに大きな狼。
俺の身の丈ほどもある狼に跨り木々の合間を俺を乗せて走って行く。
俺が呼び出せるのは何故か狼にも似た姿の眷属達ばかりだが、もう一つ上級になると馬ほどの大きさの狼も出てくる。
だけどこいつを呼び出すとごっそり魔力を持っていかれるので戦いの場には呼び出さないようにしている。
風の狼の首を撫でながら
「蜘蛛の上まで連れてってくれ。
その後は悪いが注意を反らせてくれ」
危険だが頼むと頼めばすんと鼻を鳴らして返事をしてくれた。
一気に宙を駆け上がり瞬く間に雲の上まで上がり、それからスピードつけて今度は急降下。
風のシールドを展開して一気に蜘蛛めがけて一直線に体当たりをかましてくれた。
ええー……
心の中でここまでお願いしてないよと、風の狼さんの大サービスぶりと言うか、寧ろ俺が振り落とされないようにするのが大変だったとかいろいろあったが、そのまま蜘蛛を地面に叩き付けて狼さんは俺を蜘蛛の上に置いて蜘蛛の前方に立ちケツを向けてしっぽを振って挑発していた。
ノリのいい奴だな……
見事徴発された蜘蛛との追いかけごっこが始まるもどこか楽しそうに遊んでいるようにも見えた。
余裕のようだなと安心をするも、今度は俺がこの追いかけごっこしてる奴から振り落とされないかが問題になってくる。気分はまるで暴れ馬に乗ってるようだった。
なんて遊んでないで、せっかく背中に乗れたのなら剣を垂直にして一気に突き刺してわずかながらの切口を作る。
想像通り腹部は何とか剣が貫通で来てた場所にすかさず左手を突っ込む。
ぶちっと筋肉を切る音とあふれ出る体液の何とも言えない気持ち悪い感触への感想は後回しにして
『フレアバースト!』
ギギギギギギギッッッッッ!!!
体内から焼かれる痛みに悲鳴を上げて俺を振り飛ばそうとするも、焼かれて筋肉の抵抗の無くなった体の中に肘まで押し込み振り落とされない様にしがみつく。
掌の先から膨れ上がる肉を一瞬にして焼く熱に歯を食いしばる。
振り返ってしっぽを振っていた狼の目が一瞬見開かれた気がしたが、
『フレアバースト!』
痛みをこらえて再度魔法を発動すれば今度こそ腹部が爆発して四散する肉と共に俺も離脱した。
物凄いスピードで俺を加えて地面に叩き付ける事を防いでくれた風の狼(大)に悪いなと、熱で皮膚が爛れ、爪もなくなった腕でありがとうと撫でる。
スピードを落として蜘蛛の目の前に降ろして貰えば、俺は無傷の右手で大剣を振り上げ、すでに胸部の半分ほども吹っ飛んでもなお生きているその生命力の強さには感心する。
第一脚と第二脚しか残ってなくてもガチガチと顎を鳴らして前へと進もうとするその執念に感心するも
「悪いな。母さんと俺の思い出の地を荒らしたお前だけは何があっても許されないんだよ」
見上げる八つの瞳に映る昏く感情が消え去った視線の俺と向き合いながら
「こんな俺を知ってる奴はたとえ虫けらでも存在する事を許さない事にしている」
そこで初めてこの魔物から怯えと言う色を見つけた気がした。
「お前達魔物はすべて倒す。
そんな事は出来ないと判っている。
出来なくても、目の前に存在する魔物は総て殺す。
これは俺が決めた決断だから!」
振り上げた剣を垂直に落として死にかけの魔物を地面に這いつくばらした後、再度振り上げた剣を横に真一文に振り切った。
ぞぷり……
あれほど固かった装甲は力を失くしたと言う様にすんなりと剣の刃を通し真っ二つになった。
あふれ出る体液が地面に沁みて広がる。
強烈な腐敗臭は触れた草花を次々に枯らして行き、木々も急速に朽ちて行く。
魔物自体が毒を孕んだ生き物だったのかと、咬まれずに済んでよかったと今頃になって無でを撫で下ろしていれば、そんな魔物を斬ったにもかかわらず腐食する事もなき剣を持つ手の肩に鼻っ面を押し付けてきた。
大丈夫か?
言葉を語る事のない生き物だが視線はそう言っている気がして、剣を地面に突き立ててその首を撫でながら
「ああ、大丈夫だ。
後はこの辺一帯を焼いてから帰ろう」
そう言って
最初に呼んだ眷属にこの周辺を焼き尽くすように指示をだし、魔物も完全に炭化するまで焼いている間に周辺に魔物の卵がどこかに産みつけられてないか確認してからクロームやシアーの待つかつての故郷の村に戻る事にした。
戦闘は終わりました(?)が、もう少しお付き合いください。