始まりの剣
転生したからって頑張るなんて無理!のロンサール組エンバーの話しになります。
後書きで書いていたアレですが、短いはずが思ったより長くなってしまったのを気にかけてた所で指摘いただいたので別枠でお楽しみください。
ネタバレ上等☆
このネタバレ役に立つの?
寧ろ普通に単品で読む奴だね。
転生組と出会う半年ほど前の時間軸になります。
どうぞよろしくお願いします。
炎に爆ぜる森。
空一面を覆う灰に苦しみと恐怖の絶叫。
形あるものは次々と崩壊し、生命あるものは活動を停止していく。
原因は突如大量発生をした魔物の出現だった。
瞬く間に世界を死で汚染し、人里から離れた場所にまで現れるようになった。
国は崩壊したと聞いた。
何れと恐怖しつつ、まだ大丈夫と平穏な日々に我関せずと暮らしていた罰だろうか。
ついに現れた魔物に蹂躙される友人知人、そして家族。
助けに来たわずかな騎士団も瞬く間に数を減らし、数分後の全滅という現実を待つのみ。
絶望と死の予感に虚ろとなり呼吸をするだけとなった自分に残される最後の刻。
傍らに横たわる騎士が落とした剣をふと手にし、自分へと切っ先を向ける。
「だ、駄目だ……」
剣の持ち主だろうか、まだ生きているようだった。
ヒューヒューと咽を鳴らしながら座り込んだ俺の脚を掴み悲しげな顔をする。
「頼むから……生きてくれ」
懇願に似た言葉は耳を素通りする。
喉元にプツリと刺した切っ先に騎士は言葉を重ねる。
頼みがある、と……
「その命捨てるなら、その前に私に止めを……」
言ってる事がわからなくて首を傾げれば
「このまま生きていれば地獄を見る。
せめて友の手で終わりにしてほしい」
今初めて知り合ったばかりだと言うのに俺を友と言う可笑しな騎士をよく見れば片足はなく、止めどもなく溢れる腹からの出血に止めを刺すまでもないだろうと思うも、彼は器用に懐から血に染まったかのような深紅のガラス玉の首飾りを取り出し
「形見……じゃないが、よかったら受け取ってくれ……
大切な、物なんだ」
俺を友と呼んだ騎士の血で汚れた、押し付けるように差し出された物を躊躇いがちに受け取り
「私の事は忘れてかまわない。
が、これを持つ者がここに来た事だけを覚えていてくれ。
それ以上の幸せを、私は望まない……」
身体から息が漏れ落ちるような荒い呼吸をしながらどこか愛おしそうに、まるで別の誰かを見るような、たとえば我が子のように俺を見る瞳に俺は自分に向けていた剣を騎士へと向ける。
銀の鎧はよく見れば数えるのもばかばかしいほどの傷と、致命傷になった大きなキズの下には豪奢で細かい彫刻さえ施されていて、手にした剣にも同じような彫刻と沢山の宝石がはめ込まれていた。
きっと城の中も歩ける立派な身分の人なんだろうとぼんやりと考えながら剣をその体に突きつける。
心の臓を貫くのが一番なのだろうが、彼がきっと愛用しただろう鎧にこれ以上キズつけるのは悲しむと思うし、鎧を貫通させるまでの力はまだ俺にはない。
結局むき出しの喉に剣を突き立てて一気に貫いた。
最後に彼は俺に向かって微笑み、無言のまま涙を流した騎士の頭がごろんと傾いて、ひゅーひゅーと音を立てていた呼吸は静かに止まった。
その途端さっきまで隣にあった死が急に恐ろしくなり、俺は震える足を叱咤して握りしめたままの首飾りとこれも騎士が愛用しただろう剣を抱きしめて炎が渦巻く森へと逃げるように絶叫と共に駆け出していた……