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8話 友達宣言

日間ランキング9位に入っていました! ありがとうございます!

 なんでもこのナハト王国の王様は珍しいものが好きらしい。

 王様とか権力者がよくかかる病気みたいなものだ。


 古今東西、金持ちは貴重なものを集めたがる。たしか動物園とかももともとはそういう貴族の道楽的な要素が強かったはずだ。


 ――で、そのおめがねにかなった俺たちは王に呼び出されることになったというわけだ。今は謁見の間で王を待っている。


 フィーナはすごく緊張していた。

「わ、私、集落の長老より偉い人と会ったことないんです……」

「別に外交交渉でもなければ、悪いことを企んでるわけでもないんだから、気楽にしとけ」

「そりゃ、モンスターは今更緊張も何もないかもしれませんが、こっちは文明人ですから緊張します!」

「お前さ、魔物使いだったらモンスター差別的な発言を控えろよ……」


「おお! 本当にしゃべっておる! 奇跡としか言いようがない!」

 なんと王様が後ろから入ってきた。

 もじゃもじゃのヒゲのいかにも王様って感じの王様だった。


「うわっ! 王様! 本日は晴天に恵まれまして……」

「バカ、今日は曇天だったぞ」

「いちいち訂正しなくていいです!」


 王様は俺たちのやりとりを見ると、さらに笑った。

「ううむ、年を経たドラゴンがしゃべったりする事例は珍しくないが、キャタピラーがここまで流暢りゅうちょうにしゃべるなど例がない! 実によいものを見れたぞ!」


 喜ばれるのはうれしいが、その反面、俺みたいなキャタピラーがいないのかと、ちょっと悲しくなった。

 キャタピラーの悲哀はキャタピラーしかわからないだろうからな。


 そのあと、王様は俺たちにいろんなことを質問した。

 俺は原則、ありのままを答えた。

 原則――というのは、転生してきたことに関してはぼかしたということだ。


 なぜかというと、転生前の生活や世界などを事細かに聞かれると、その知識を政治的・軍事的に利用されるかもと思ったのだ。

 王様クラスの奴がそういう知識を手に入れると、世界のバランスが崩れたりするかもしれない。


 あと、純粋な知的関心を抱かれたとしても、一朝一夕で話し終えられる内容じゃないし、調査が終わるまでしばらく帰してもらえないかもしれない。


 結局、一時間ほどの間、王様はいろんなことを聞いてきたが、そんなにこちらの核心に迫るようなことは尋ねてこなかった。


「今日はありがとう。実に有意義な時間じゃった」

「いえ、それほどでも……」

 フィーナは一時間、緊張しっぱなしだったようだ。


「それで、最後に頼みがあるのじゃが」

 王様の目が一瞬、鋭く光った。

「そのキャタピラーを譲ってもらえんかな?」


 ――来たか。


 なんとなく、そんな予感はしていたんだよな。


 フィーナがおびえたような眼で俺のほうを見た。

 ここは悪いけど、俺が何か言うべきじゃないな。

 あくまで俺の主人はフィーナなのだ。


 それから、フィーナは王様のほうを見て――

「あの……私は魔物使いなので……モンスターを手放すわけには……」


「うむ。もちろん、対価は支払う。まず、今のエルフの集落の面積を倍にしてやろう。山林の使用権もすべて倍の広さじゃ」

 はっきり言って破格の条件だ。

 そんなことになれば、おそらく数百年はフィーナは集落の英雄として讃えられるだろう。


「それだけではない。そのキャタピラーに匹敵するほどのモンスターを3体与えよう。優秀なドラゴンに、ミノタウロス、ロック鳥じゃ。その3体ならツテがあるのでな」


 この王、本気の好事家だな。

 おそらく、城が一つ建つぐらいの金銭的価値があるはずだ。


 本音を言うと、これで旅は終わりかもなと思った。

 フィーナというか、エルフ側にとって好条件すぎたからだ。


 俺を手放すなと言えるような次元じゃない。

 もし、これでフィーナが俺に別れを告げても、しょうがないとしか言えない。


 むしろ、フィーナが栄達するのも約束されるようなものだし、おめでとうと送り出したいぐらいの気持ちでいた。


 だが――

 フィーナが俺の体に抱き着いた。

 ぎゅっと、腕に力をこめた。


「グレゴールは私の友達なんです! どんなにお金を積まれても、友達を売ることは許されない悪徳です! 許してください!」


 ああ、はじめて友達って言ってくれたな。


「私とグレゴールは幼い頃から一緒に育ったんです。いわば、きょうだいも同然なんです!」

 おい、それ、真っ赤なウソ!

 出会ったの、割と最近だから! お前の幼い頃なんて知らないから!


 けど、この場合のウソはいいのか。

 王様が引き下がる確率が高くなる。


「そうか、残念じゃ」

 ふう、と王様はため息をついた。


「友達を思う心を引き裂くことはできん。せめて、今日はゆっくり城で休んでいってくれ。二人を客人として遇したい。まだ聞きたい話もたくさんあるしのう」


◇ ◇ ◇


 そのあと、俺とフィーナは客人用の広い部屋(俺がデカいからというのもある)に案内された。

 食事の用意まではここで二人きりだ。


「無理して俺を選ばなくてもいいんだぞ」

 俺に対して責任を感じてるとしたら悪いと思って言った。


「ひどいこと言わないでください!」

 ぽかぽかと俺の皮膚をフィーナが叩いた。


「私たち、お互いに好きなこと言い合ってきたじゃないですか!」

「うん。主にお前がな……」

「それでもケンカにならずにやってきたんですよ。仲がいいってことじゃないですか! それを今更、さよならしろなんて無理ですよ! グレゴールには私を全国魔物使い大会のチャンピオンまで連れていってもらいますからね!」


 もし、キャタピラーじゃなかったら涙の一つでも流したかもしれない。


「悪かった……俺とお前は友達だもんな……」

「は、恥ずかしいから思い出させないでくださいっ!」

 ちょっとフィーナが顔を赤くした。


 友達宣言なんて、ああいう特別な場でしかできないか。

 普段から、俺たち友達だよなとか言い合ってる関係って不気味だもんな。


 まあ、非常事態で友情を確かめ合えたと解釈できなくもないだろう。

 ある意味、旅の正しい効用だ。


 けど、これで安心するにはまだ早い。早すぎる。

「何か仕掛けてくる可能性がある。料理には手をつけるな」

 毒が入ってる恐れがリアルにある。


「ははは~、まさかいくらなんでもこんな美少女の命を奪ってまで、しゃべるキャタピラーを手に入れようとはしませんよ~」

「バカ! マニアにとったら、美少女の命よりしゃべるキャタピラーのほうがはるかに大切なんだよ!」


「私、キャタピラーに負けたんですか……。美少女の価値ってそんなもんですか……」

 ショックを受ける箇所、おかしいだろ。


 俺の言いつけを守って、フィーナは食欲がないと言って何も食べようとしなかった。

「ああ、毒でも入ってると思われてしまったかな。では、大皿料理をみんなで食べることにしよう。それなら問題あるまい」

 王様はすぐに大皿から取り分ける方式に変更した。


 これなら問題はないと俺も思う。

 解毒剤を事前に飲むにしても、毒が体に入る以上はリスクがある。

 暗殺者でもなければ、そんな危ない方法は試さないだろう。


 そして、俺とフィーナは寝室に戻った。

 フィーナがベッドに。

 俺もキャタピラー用のふわふわの毛布を用意されて、その上に載った。


 本当に何もしないのかな。ただの気のいい王様なのかな。

 俺の疑いもじょじょに晴れだした頃、眠気がやってきた。


 もう、フィーナは旅の疲れもあったのか、眠っている。

 おそらく、俺の上に乗って移動するのって、それなりに疲れるだろうからな。


 さて、俺も寝ようかなと思った瞬間――

 床が抜けた。


 俺の真下のところだけ。


 そして、俺は落とし穴の中に沈んでいった。

次回夜6時更新の予定です。今日もできれば3回更新をしたいです。

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