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7話 イモムシとエルフの旅

 俺の糸が小型のドラゴンをとらえる。

 ドラゴンが糸に絡めとられて、地上に落ちたところに、催眠ガスを放出。

 動きが緩慢になったところを、しっぽをふりまわすようにして攻撃。


 アタック!

 アタック!

 ひたすらアタック!


「勝負あり、そこまで!」

 審判役の長老が言った。


「でかしたですよ! さすが、この私のモンスターだけあります!」

 フィーナが調子のいいことを言った。

 とはいえ、俺たちの勝ちは勝ちだ。


 サラーフ族内での魔物使いトーナメントは見事、フィーナと俺のペアが優勝した。


 正直、意外でも何でもないけどな。

 準優勝の小型のドラゴンはLv24だった。

 一方、俺とフィーナはともにLv36だ。

 こっちが勝ってもなんらおかしくなかった。


「フィーナ、すごいな……」

「フィーナお姉ちゃん、すごい!」

「ちょっと前までおねしょしていたのにねえ……」


 集落の人間たちもフィーナを讃えた。

 最後のおねしょ発言については「7年前の話じゃないですか!」と怒っていたが。


 優勝者の商品ということで、俺も好きな種類の葉っぱを大量に贈られた。

 ありがたいことだ。キャタピラーって食べることぐらいしか娯楽がないからな。


「よし、そろそろ計画を第二段階に移してもいい頃合いですね」

 試合終了後、フィーナが俺に言った。


「待て。何、その第二段階って」

 そんな話聞いたことないぞ。

 そもそも第何段階まであるのか。


「グレゴール、世界は広いんですよ。キャタピラーにはわからないかもしれませんが」

「自分の使ってるモンスターをディスるな」

 むしろ、お前より移動能力あるんだよ。


 わざとらしく、フィーナは両手を広げた。

「魔物使いの大会はまだずっと先です。かといって、こんなド田舎でのんびりしていたら、あっというまに時間が経ってしまいます」

「自分の暮らしてる土地をディスるな」


「それに、もうこの集落で戦える敵はいません。私が最強になってしまいました」

「そこは、事実だな」

「なので、旅に出ます。武者修行です。ババババーン!」

 こいつ、自分で効果音を……。


 その夜、フィーナは俺を連れて家族のところに行った。

「私は旅に出たいと思います! 最強の魔物使いになるために!」

 ああ、地方で最強になっちゃった学生が東京に出たいって言うような感じか。


 父親がちょっと渋い顔をした。

「お前は魔物使いとしては一流になったかもしれんが、まだ人間として未熟すぎる」

 俺も同意するために、顔を上下に動かした。

 最近、顔だけを動かす方法がわかってきたのだ。


「そうねえ、悪い人に騙されないかしら……」

 母親も心配している。

 そりゃ、そうだ。まだ中学生か高校生かって年齢のはずだ。一人旅には若すぎる。


「大丈夫です!」

 そこでフィーナは啖呵を切った。

「私にはグレゴールがいますから! グレゴールはしゃべれるんですよ! 困ったことがあったら、聞けばどうにかなりますよ!」


 ええっ!? それで説得できると思ってるの!?

「そうね、グレゴール君がいるなら大丈夫ね」

 姉が説得された。

 この家族、基本的に軽いな!

 それ、きっちりフィーナにも受け継がれてるわ!


「それもそうだな」(父)

「じゃあ、行ってらっしゃい」(母)

 子供をこんなにあっさり外にやっていいのか。

 なんか、文化的衝突を感じる。


「あの、俺なんかでいいんですか? 虫ですよ」

 むしろ、責任をもって娘を守れと言われても俺も困る。


「はっはっは、むしろエルフの若い男と一緒だったら、反対するよ」

 父親が言った。

 なるほど。そういう考え方もあるのか。

 キャタピラーとエルフの間に過ちなんて起こらんもんな。


「そうよ。いい虫がついてるんだから、悪い虫もつかないでしょ。わざわざ虫がついてる若い子を狙う悪人はいないわ」

 今度は母親の発言だ。

 けっこうあっさりと論破されてしまった俺だった。


「わかりました。じゃあ、娘さんと一緒に旅に出ます」

 冷静に考えると、少女と旅をすることを快諾されることなんて、人生でそうそうないよな。

 人生長く生きているといろんなことがある。


 翌日、俺はフィーナを乗せて、一路、東を目指した。

 そちらにナハト王国という国がある。

 ちなみにエルフの土地はナハト王国の土地に含まれてはいるが、部族ごとに長老たちが支配しているので、事実上の独立領となっている。


「ふふふ、私、冒険者ギルドに登録するのが夢だったんです」

 かなり高速で走ってるので、フィーナはしっかり俺の背に張り付くようにしている。

「その夢、割とあっさりかなわないか?」

 多分だけど、登録自体は規制とかないだろ。


「魔物使いもギルドに登録しないと活躍が難しいですからね。今日から美少女魔物使いフィーナの活躍が世界中に鳴り響くのです!」

「自分で美少女って言うなよ」

「私って、かわいくないですか?」


 こいつ、ずうずうしいな……。

 脳内に美少女の箱とそうでない箱を用意する。

 まあ、一応、美少女の箱に入れることができなくもないな。


「うん、美少女と認定しよう」

「ほら、美少女でしょ!」

 かなりの力技だけどな。


「さあ、王国に着いたらすぐにギルド登録ですよ!」


◇ ◇ ◇


 ――町へと入る城門のところで止められた。

「モンスターと一緒の者は入れないぞ」

 兵士が事務的な口調で言った。


「いえ、この子は魔物使いである私が使っているモンスターなので無害です!」

「とはいえ、デカすぎる。人間より明らかに大きなモンスターは魔物使いでも事前に申請している場合しか無理だ」


 ですよね。


「何か魔物使いとしての実績を証明できるものがあれば申請の代わりにすることもできるが」

「はい! はい! サラーフ族魔物使い大会の優勝者です!」

「ローカルすぎるから無理だ」

 一蹴された。


「ぬ、ぬかりました……。まさか、ギルドどころか国の中に入れないだなんて……!」

 フィーナが頭を抱えた。

 まあ、その気持ちもわからなくもないが……。


「フィーナ、ここは出直そう。俺が全速力で走れば、いつだってチャレンジできる距離だ。旅費もかかってない」


 俺はごく自然にそう言った。

 ある意味、危機意識が抜けていたとも言える。


「キャタピラーがしゃべった!!!」


 兵士にすごく驚かれた。

次回は昼12時の更新予定です!

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