5話 毒ガス大作戦
俺はひたすらスライムのしょぼい攻撃を受けていた。
向こうも飽きそうなものだが、知能が低すぎてそういう発想自体ないのかもしれない。
――と、その時、洞窟がちょっと明るくなった。
ランプを持ってる冒険者でも来たのかと思ったが――違った。
俺が発光しているのだ。
体が赤くなっている。
ということは――
これ、毒ガスが出るんじゃないか……?
――ブシューッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
――ブオーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!!!!
なんか、これまでで一番激しく出てるぞ。
あ、そうか、命の危険をガチで感じたから、強めに噴射しているのか。
毒ガスを直撃したせいか、スライムが倒れて、動けなくなった。
屋外じゃなくて、密閉空間に近いもんな。威力も上がるんだ。
待てよ。
この毒ガスって、外に抜けるところがないんじゃ……。
その時、レベルが上がった。
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グレゴール
Lv2
職 業:キャタピラー
体 力:1536
魔 力: 0
攻撃力: 14
防御力: 3
素早さ: 16
知 力: 47
技 能:高速移動・毒ガス
その他:植物性のものはたいてい何でも食べられる。一応肉食もできる。
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微々たる変化だけど、強くならないよりはマシか。
デカいネズミがこちらに走ってくる。
どうやら毒ガスでパニックになっているらしい。
くさいもんな。俺もくさい。
そして、ここから出せとばかりに俺の顔を叩く。
おい、そんなことしたら――
――ブシューッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
――ブオーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!!!!
さらに毒ガスが強く噴射された。
しかも、今度は止まる気配がない。
――ヴァゴオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!
もはやボイラー音みたいになってるぞ……。
毒性も強くなったのか、ネズミがけいれんして倒れた。
ああ、くっせえ……。
俺も鼻をつまみたいが、鼻がどこにあるのかそもそもわからん。
しばらくすると、ある現象が起きた。
加速度的にレベルアップが続きだしたのだ。
Lv3になったと思ったら、1分後にはLv4、また30秒後にはLv5、6、7、8……。
あっという間に二桁台に突入してまだ止まらずに、いつのまにかLv20に。
まだまだ止まらずにLv25にも到達。
そのあたりからペースは落ちたけどLv30にも到達。
最終的にLv36のあたりでステータスアップが終わった。
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グレゴール
Lv36
職 業:キャタピラー
体 力:2386
魔 力: 0
攻撃力: 366
防御力: 36
素早さ: 364
知 力: 420
技 能:高速移動・毒ガス・糸吐き・溶解液・脱皮(体力回復)・突撃・催眠ガス・筋弛緩ガス・食いちぎり
その他:植物性のものはたいてい何でも食べられる。一応肉食もできる。
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なんだ、これは……。
夢じゃないのか、これ……。
いや、ありえないことではない。
おそらく、毒ガスが密閉された環境である洞窟内に蔓延したのだ。
それで、おそらく洞窟内のモンスターがほぼ全滅したのだろう。
その結果、経験値が加速度的に入り、Lv36にまでなった。
このレベルというか、この攻撃力なら、洞窟から出られるのではと体を動かしてみた。
岩肌がぼろぼろと崩れて、前に進むことができた。
よし! 脱出できた!
バックすることはやっぱりできないので、その先の広めの部屋でUターンして地上に戻った。
戻る途中にもモンスターが倒れていた。
地上に出たら、ちょうどフィーナが村人を連れてやってくるところだった。
「グレゴール! 生きてたんですね!」
フィーナが抱きついてきた。
俺は体の形状的に拒む権利はない。顔の部分が抱きつかれる。
「うん、毒ガスが効いてモンスターが全滅したんだ」
俺は小声で言う。
あまりしゃべれることは村人に伝えたくない。フィーナと家族以外はそのことを知らないままだ。
「毒ガスで? あ、そっか……ありえますね……」
「おかげでLv36になった」
「ええええっ! マジですか!」
「声が大きい。だから、もしかしたらフィーナのレベルも上がってるんじゃないか」
フィーナもすぐにレベルを確かめてみた。
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フィーナ
Lv36
職 業:魔物使い(上級)
体 力:263
魔 力:175
攻撃力:120
防御力:146
素早さ:320
知 力:218
技 能:モンスター飼育・モンスターの状況察知・回復(4)・毒治癒(3)・マヒ治癒(3)・竜巻(4)・植物鑑定(5)
その他:仲間モンスターと連携がとれると、さらにステータスボーナスがつく。魔物使いの中でも上級者。弟子をとれるランク。
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「これは全国大会クラスですよ!!!」
フィーナが飛び上がって喜んだ。
「よかったな。奇跡が起きたぞ」
「やった……うさんくさいキャタピラーを信じてよかった……。ちょっと前の私を褒めてあげたい……。キャタピラーを仲間にした決断をした私を褒めてあげたい……」
「お前、少しは俺も褒めろよ……」
「もちろん、グレゴールも立派ですよ! でも、モンスターの活躍は魔物使いの活躍と同義ですから!」
都合のいいこと言いやがって。
でも、俺もすごくうれしい。
モンスターの喜びと魔物使いの喜びは少なくとも共有できるようだ。
ちなみにモンスターの数が大幅に減少したため、そのダンジョンの利用価値はほぼなくなってしまったという。
あと、ほかの冒険者がダンジョンに入ってなくてよかった……。
本日も3回更新予定です。次回は夜6時更新予定です。