表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/26

4話 通行止め発生

 その日、俺はフィーナに朝から体を洗われていた。

 シュロで作ったブラシでごしごし体をこする。


「もうちょっと、やさしくこすってくれよ」

「ただでさえくさいモンスターって思われてるんですから、見た目だけでも清潔にします!」


「でも、あまり刺激が強いとまたガスが出るぞ」

 フィーナの手が止まった。

 そこからソフトタッチに変わった。


 でも、掃除のおかげか、俺の体の緑色がなかなか鮮やかに輝いた。


「はぁ……やっぱり、キャタピラーじゃ一人前の魔物使いになれないです……」

 フィーナが堂々とため息をつく。

 せめて俺がいないところで言えよ。


「葉っぱとか草ばかり食べるので、飼育コストはかかりませんが……」

「何が不満なんだ? 人語でコミュニケーションができるし、移動手段にもなるぞ」


「レベルが低い……」

 ぼそっとフィーナがつぶやく。

「レベルが低すぎるんです。Lv1じゃないですか。しかも、攻撃手段がほぼないから、余計にレベルが上がらない……。これは地味に深刻な問題ですよ!」


「そんなこと言われてもキャタピラーはキャタピラーだからな……」

 攻撃能力はほぼない。

 基本は草食だから、獲物を追いかけて倒す能力とかも多分ないのだろう。


「こんなことでは、魔物使い大会に出ることができません……」

「そんなものがあるのか」


「はい、全国の魔物使いが一同に介して実力を競い合う大会です。その前に地方予選に出て勝たないといけませんが」

 まあ、高校球児が甲子園を目差すようなものか。


「ひたすら、草や葉っぱを食べたらレベルアップしないのかな」

「葉っぱのどこに経験値があるんですか」

 言われてみればそうだ。


「これは、特訓しかないですかね」

 フィーナは何か気持ちを固めたらしい。

「特訓? においを出す特訓?」

「違います!」

 だとしたら、何なんだろう。


「ダンジョンに潜ります」

 そうフィーナは言った。

「ダンジョンでモンスターと戦ってレベルアップをしますよ!」


◇ ◇ ◇


 そして、俺はエルフの集落から近いダンジョンに来た。

 ダンジョンといっても、つまりは洞窟だな。


 地下30階層ほどぐらいまであるということだが、子供は自分のレベルと同じ数字の階層までしか立ち入ってはいけないことになっているそうだ。

 つまり、フィーナはLv3だから地下3階層までということだ。


「ここで少しずつ戦いの基本を学んでいくんです。そうすれば、上級キャタピラーになれますよ」

「でも、これ、攻撃方法がぶつかることぐらいしかないんだけど」

「つべこべ言わない!」


 こうして、俺とフィーナはダンジョンに潜ることになった。


 俺はモンスターを見つけたら、思い切り突撃することにした。

 それでネズミのデカい奴みたいなザコモンスターを倒すことぐらいはできた。

 大きさはパワーなのだ。


 でも、効率がいいかというと、決してそんなことはない。

 それに、こっちも痛かったりする。


 あと、狭すぎる。ダンジョンは当然ながら広々としてないので、角を曲がるところなど苦労する。

 なんか地下鉄がうねうね走ってるようだ。


 3時間後。

 俺たちは地下一階層のところをだらだら徘徊していた。


「これまで倒したモンスター4体……。いまだ、レベルアップの兆候なし……。たかだかLv2になるのが遠い……」

「まあ、気長にいこう。一日潜ってれば成長もするさ」

「いや、遅いんですって! 序盤はサクサク、レベルって上がるものなんですよ。なんでLv1で粘ってるんですか!」


 そう言われても ぶつかる攻撃で倒せるモンスターしか倒せないので、効率性は悪い。

 たとえば、ゴーストという浮遊しているモンスターがいるが、飛ばれていると倒しようがない。

 スライムも弾力性があって倒せない。


「ろくな経験値が入ってないですね……。私のレベルも3のままなのがいい証拠です……」

 どうやら魔物使いとモンスターが一緒に戦うと、どっちにも経験値になるらしい。


「あの、ガス以外にも何かできないんですか? 糸を吐くとか」

「ステータスにそんなのなかったから無理だろ。レベルが上がったら覚えるかもしれないけど」


「はぁ……やっぱり、キャタピラーなんて伸びしろがないですよ……」

「そんなすぐに嘆くなよ。もしかしたら、チート級に強くなるかもしれんだろ」

「どんなことがあったら、そんな奇跡が起こるんですか」


 まあ、今のところ、解決策の片鱗も見えんのは事実だが……。


 あれ。


 何か違和感を体に覚えた。

 一言で言うと、窮屈だ。

 圧迫感がある。


「ちょっと、なんで通路で止まってるんですか。見事に通路をふさがれて迷惑ですよ」


 そうか、つまり、狭い道なんだな。

 たくさんある足が動いているようだが、体までは動かない。


「なあ、フィーナ、残念なお知らせがある」

「いったい何です?」


「つっかえた」


 体が前にも後ろにも動かない。

 というか、この足はバックする性能がない。


「えー! どうするんですか! 土に生えてる雑草じゃないんだから、引っ張って抜けるもんでもないですよ!」

 そう言いながらも、体を引っ張ろうとするフィーナだが、さすがに少女の筋力では無理だ。


「しかも困ったことに、正面からスライムがやってくる」

 フィーナからはまったく見えないだろうが、赤い色をしたゼリー状のものがこっちに向かってくる。

「どうするんですか! そんなの殴られ放題じゃないですか!」


 まったくだ。

 非常事態もいいところだ。


 俺も覚悟を決めた。


「フィーナ、俺はどうすることもできない。フィーナがここにいてもできることはない。一度、集落へ帰ってくれ。地下一階層ならお前一人なら問題なく帰れる」


「嫌です」

 フィーナが即答した。


「それって、グレゴールを見殺しにしろってことじゃないですか! 魔物使いとしてそれはできません! 魔物使いじゃなくても、嫌です!」

 こいつ、最低限の責任感があったんだな……。

 目頭が熱くなったと言いたいところだが、キャタピラーなのでとくに熱くならない。


「ただでさえ、ここに連れてきたのは私じゃないですか。一人だけ帰還するだなんて都合がよすぎますっ!」


「わかった、じゃあ、急いで集落に帰って、つるはしを使える大人でも集めてくれ! 洞窟自体を拡張するしか脱出方法がない!」

「それまで殴られ続けたら、体力のあるグレゴールでも死にませんか……?」

「じゃあ、回復魔法が使える人も呼んできてくれ。とにかく、ここにフィーナがいて、解決できることは、悪いけど、何もない。最悪、ここで疲労がつのったら、お前まで危険が迫る!」


 すでにスライムの地味な打撃攻撃がはじまっていた。

 体力はマックスで1521だったから、スライムだけの攻撃なら700回はたえられるのではないか。


 フィーナはまだ少し迷っていたようだったが、

「わかりましたっ!」

 未練を断ち切るように叫んだ。


「絶対に助けを呼んできますからね! だから死なないでくださいね!」

 フィーナが走っていく音が聞こえる。

 うん、立派に生きろよ。


 俺が生きてられるかは運次第だな。

明日も3回更新の予定です。昼12時に更新する予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ