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2話 魔物使いの集落

 俺とエルフ少女フィーナは、彼女の住んでいるサラーフ族の集落を目指している。


「すごい! 思った以上に速い!」

 俺の上に乗っているフィーナが言った。

「うん、俺も最初そう思った」


 自転車よりは軽く速いだろうぐらいの速度で俺は森の中をうねうね疾走している。

 これ、平野とかなら、さらに速度を上げることも可能かもしれない。


「もしかして、本当に強いキャタピラーかもしれませんね」

「まあ、どれぐらい強いのか知らんがな」

「あ、そうだ、この世界には能力を知る方法があるんです。ステータスオープンって叫ぶんです。たとえば、私のステータスは――」


=====

フィーナ

Lv3

職 業:魔物使い(笑)

体 力:17

魔 力: 8

攻撃力:12

防御力:14

素早さ:16

知 力:14

技 能:モンスター飼育

その他:半人前

=====


 ステータス欄が俺の目にも認識できた。

「たいして強くないな」

 ていうか、「魔物使い(笑)」ってなんだよ。失笑レベルなのかよ。

「放っておいてください。まあ、でも、私のステータスが見えたってことは仲間ということにはなっているということですね」

 敵や他人にまでステータスが見えるということはないらしい。


 それにならって、俺も「ステータスオープン!」と叫んだ。


=====

グレゴール

Lv1

職 業:キャタピラー

体 力:1521

魔 力:   0

攻撃力:  12

防御力:   2

素早さ:  15

知 力:  45

技 能:高速移動・毒ガス

その他:植物性のものはたいてい何でも食べられる。一応肉食もできる。

=====


「がっかりです。体力が高いだけのザコじゃないですか」

「いや、お前だってたいがいだろ。目くそ鼻くそだ」

「でも、キャタピラーの名前がグレゴールってことがわかりました」

 俺の上でフィーナが笑った。


 ああ、元の名前が踏襲されるんだな。当たり前と言えば当たり前か。

「思ったより、かっこいいですね。てっきり『うねうね虫くん』とかかと思いました」

「それよりはグレゴールのほうがいいな」


「あと、毒ガスってどんなやつですか?」

「ぶっちゃけ使ったことがないのでわからない」

 うかつに出したら危ない気もするしな。


「な~んだ、役に立たない子ですね……」

「だから、お前が言うな。お前と大差ないんだって」


 そういえば一つ気になることがあった。

「こんなキャタピラーが村に行って追い出されないのか?」

 ファンタジー作品によっては、エルフは閉鎖的だったりする。

 異質な存在どころか人ですらないぞ。


「そこは問題ないですよ。魔物使いが多い村なので、理解はあります。ただ……」

 フィーナの顔が曇る。

 年齢的に「学校行きたくない」とか言いそうな顔だった。


「キャタピラーを連れて帰ったら絶対にバカにされるだろうってことですね」

 やっぱり恥ずべきものなのか。

「胸を張れ。ペットに必要なのは立派さじゃなくて、ペットに注ぐ愛だ」


「いや、出会ったばかりのモンスターに愛なんて注げないでしょ」

「お前、そういうこと言うからモンスターがなつかないんだよ!」

「それにいくらこっちが胸張ってもバカにしてくる奴はいるんですよ……」


 フィーナの顔色が彼女の瞳の色に匹敵するほど青くなった。

 どこの世界でも人を嘲って満足するような最低野郎はいるということか。


 そこで俺は立ち止まった。


「どうしたんです、グレゴール? 私の境遇に同情でもしたんですか? あの、キャタピラーに同情されるのも、素直に喜びづらいんですけど……。でも、その気持ちは受け取っておきますよ」

「少し待ってくれ」

「待ちはしますけど、何なんですか?」

「ちょっと、もよおした」


 俺はその場で糞をした。

 食べたら出るよね。

 自然の摂理だよね。

 アイドルだってうんこするもんね。


「最悪です! そして、同情されたと思いかけた自分にも腹が立ちます!」

 フィーナが勝手にキレていた。


 そして、20分後。

 俺はサラーフ族の集落に到着した。


 ていうか、この速度で20分って、けっこう遠くまでフィーナはモンスターを探してたんだな……。

 おちこぼれかもしれんが、モンスターを仲間にするために必死だったことだけは間違いないようだ。


 想像はついていたが、エルフたちが俺を見るたびに、

「でかっ!」「化け物みたいなサイズ!」

 と驚いていた。やはり、非常識にデカいらしい。


「はい、ここが私の家です。そのへんでじっとしててください」

「せっかくだから集落を探索したいんだけど」

「そんなの、異様に思われるでしょ! ダメに決まってます!」

 う~む、キャタピラーというのは不便な生き物だな……。


 そのあと、フィーナの両親と姉が俺を見物に来た。

 デカいので家の中に入れんのだ。

 なお、エルフは若い時期が長いので、母とか姉とか言ってもらわないと判断できない。三人姉妹ですと言われても納得してしまう。


「こんにちは、キャタピラーのグレゴールと申します」

 一応あいさつをしておいた。


「すごい! しゃべるのね。芸をしこんだら儲かるかも」(母)

「珍しいな。高く売れそうだ」(父)

「レア度が高いから、金になるかもね」(姉)


 こいつら、モンスターに対する愛ゼロか!

 そりゃ、フィーナみたいな奴も育つわ! 生育環境の問題だ!


「あっ、大きいけど体は柔らかいんだ」(母)

「肌触りは普通のキャタピラーと変わらんな」(父)

「ぬめぬめしてないから乗れるわね」(姉)

 今度はべたべた触られた。


 若い女性に触られるのはある意味、役得なのだろうか。

 とはいえ、キャタピラーだからなのか、まったくムラムラとはしない。


 たしかに、キャタピラーが人の形をしたものに欲情するというのはおかしな話だ。

 というか、この体ってオスなのか? キャタピラーのオスとメスの区別なんて知らないぞ。


 ひととおり触ったあと、姉が微笑んで言った。

「でも、やっとモンスターを飼えるようになったわけじゃない。成長は成長よ。おめでとう」


 フィーナもばつが悪そうに、

「ま、まあ……もうちょっと強そうなのが良かったですけどね……」

 と言った。


「よし、今日は赤小麦を蒸さんとな!」

 父親が言った。赤飯炊くみたいなものか。


 ああ、家族の仲は悪くはないんだな。

 だとしたら、それはいいことだ。家族からも虐げられてるみたいな設定は俺も見たくない。


 でも、友達はあまりいないのかもな。


 おそらくフィーナと同世代と思われる(エルフは見た目で世代がわかりづらい)男女のグループがやってきた。


「やっとモンスターを仲間にできたと思ったらキャタピラーかよ」

「そりゃ、Lv3でドラゴン種族を使役するなんて無理に決まってるわよ」

「逆に飼われる側ならありうるかもしれないけどね」


 うわ、わかりやすいイジメだ……。

 その他失礼なことだけ言って、連中は去っていった。


「仕方ないんです」

 フィーナが切なそうに俺に言った。


「この歳だと、せめてマタンゴとかアルミラージとかお化け羊とか、そういうモンスター程度は使役できないとダメなんです。私、エルフの学校でもおちこぼれだったから……」

「見返してやりなさい。キャタピラーの次はドラゴンよ! どっちも似たようなもんよ!」

 姉がフォローを入れたが、フィーナは力なく家の中に入っていってしまった。あと、さすがに似てないと思う。


 正直、フィーナをバカにする奴らに腹が立った。

 義憤ではない。


 だって、フィーナがバカにされるのは俺がモンスターとしてしょぼいことと同義だからだ。

 じゃあ、俺が強かったら笑われることはないはずなのだ。


 どうにかして、連中を見返してやりたい。


 俺は集落を勝手にうろちょろすることにした。

 何かヒントがあるかもしれない。

 通行人のエルフに驚かれはしたが、攻撃を加えられることはないようなので、まあ、いいだろう。


 たしかに魔物使いの集落だ。

 ドラゴンの小さいやつみたいなのがいろんなところにいる。

 尻尾が何本もある犬みたいのもいる。


 ――と、よそ見をしていたせいで、建物の壁に激突した。

 まだ、キャタピラーの体に慣れきっていないせいだな。

 体力がとてつもなく高いせいか痛みはほぼないし、こっちの攻撃力も低いせいか、建物にも被害がなくてよかった。


 だが、その時、俺は変なにおいがするのを感じた。

 どこに鼻があるのかよくわからないのだが、とにかくにおいを感じた。


 もしかすると、これは――


 俺はフィーナをバカにする奴らをこらしめる方法を思いついた。

次回は本日夜6時の更新予定です! その次は夜11時の予定です。

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