19話 水を売る
俺とフィーナは森と王都を往復する生活を送るようになった。
ギルドの仕事は用心棒を中心にやるようになった。
なんでかというと、俺が立っていれば、たいていの悪人はビビって行動を起こさないからである。
しかも、一般人も俺には意識が向くので余計に犯罪者の抑止力になる。
ただ、この仕事にも難点はあった。それは――
「あ~、暇ですね~」
「お前、今日だけで34回目の発言だぞ」
「本当に暇だからしょうがないじゃないですか」
そう、暇なのだ。
俺たちが用心棒としてよく機能しているということは不届き者が何もせずに諦めるということを意味する。
でも、そうなると俺たちは馬車の横を歩いているだけだとか、門の前で立っているだけとかいうことになる。
その日もフィーナと屋敷の裏門のところでぼうっと立ち尽くしていた。無事に仕事としては成功しそうだ。
「冒険者の日々ってもっと血湧き肉躍ると思ってたんですけど、地味な仕事ばっかりです。もう飽きました」
「まだ二週間ぐらいしかしてないぞ」
「それだけやれば充分です」
フィーナはビンに入った水を飲む。
「ああ、鉄っぽい味がしてまずいです……」
煮沸したあと冷ました水らしい。
「王都は水が悪いからな。あまりよくない水を当たらないように沸騰させるしかないんだな」
「とはいえ、この不味さは犯罪級ですよ。明日から森の泉の水を持ってきましょう」
たしかに森は水がじゃぶじゃぶ沸いている。だから、豊かな森があるわけでもあるのだが――
待てよ。
「そうか! いいことを思いついたぞ!」
「いったい、何ですか? 声が大きいですよ」
「泉の水を売ればいいんだよ! そしたら楽に儲かる!」
それならタダで取り放題だ。王都に運べばきっと売れる。
「でも、それぐらい誰でも考えつきそうですよ。なのにやってないってことは利益が出ないってことですよ」
「それは輸送コストが割にあわないからだ。馬は荷物を積むと速く走れないからな」
しかし、俺は違う――はずだ。
ステータス的にも馬の比ではないはずだ。
まさに車のごとく往復ができる。
速度をあげれば2時間で1往復できる。
「ふ~む、半信半疑ですけど、やるだけやってみましょうか」
狙いは当たった。
まずビンを購入し、荷車に関しては余っているものを借りることにした。
荷車を買い取るほどのお金がまだ俺たちにはなかったのだ。
まったく利益がないようならすぐに返せばダメージも少ない。
そして「森の泉のおいしい水」を売りはじめた。
宣伝文には「2時間前にビンに詰めたばかり。王都で一番新鮮でうまい」と書いた。
すぐに完売した。
ああ、これが壁サークルの気分かというほどに売れた。
そう、みんな、水に飢えていたのだ。
もちろん中には水なんて安くて不味いものでいいという層もいるだろうが、王都は人口も多いから高い金を出してもいい水がほしい人間もたくさんいた。
「これ、ボロい商売になりそうですね」
「お前、すごく悪い顔してるぞ」
こうして、俺たちはタダの水を売ることで一気に富を拡大させていった。
何往復もやると、さすがに疲れたが――
「はい、回復は任せてくださいね」
フィーナの回復の魔法で気力を取り戻すと、再び働き出す。
しかし、いくら俺を使えば大量輸送ができるといっても、俺だけのピストン運行では限界があった。
事業をやるにしてはこのボトルネックをどうにかしたいところだ。だが――
「グレゴール、任せてください。お金を稼ぐことなら私は全力を尽くします」
そこで頑張るのかよ……。
フィーナは森のキャタピラーたちを集めた。
「私はLv36の魔物使いなんですよ」
翌日から数匹のキャタピラーがのんびりと水の入ったビンや皮袋の入った荷車一つをのんびり引く光景が見られた。
これが何チームも一斉に動いているので壮観だ。
俺と比べれば水の到着は遅れるが、輸送量は劇的に増えた。
「しかし、よくこんなこと、みんな、手伝ってくれたな」
「グレゴールと一緒に食事できる権を出しました」
「おい、聞いてないぞ……」
とにかくお金はどんどん儲かって、俺たちは王都にも家を買うようになった。
そして、だんだんと全国魔物使い大会の日が近づいてくるようになった。
今日は二回更新予定です。