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18話 宿問題

「ちょっと! グレゴール! 真面目にやってください! そんな刃物怖くありませんよ! 少し血がぶしゃっと飛び出るだけです!」

 それが嫌なんだよ! なんで、自分の体を刃物で傷つけられないといけないのだ!

 かといって、全速力でこの場から逃げ去ると、試合放棄とみなされてフィーナに借金がかかるので、試合放棄にならない程度の距離を男との間にとって移動する。


「なんだよ! 待てよ!」

 待つわけないだろ!

 なかなかシュールな追いかけっこが行われている。


 途中でわざと速度を落とす。

「おっ! ばてやがったな!」

 今がチャンスとばかりに男が突っこんでくる。


 よし、今だ。

 俺は尻から糸を出した。

 溶解成分のない普通のべたつく糸だ。

 今では溶解液との出し分けができる。


「げっ! なんだよ、これ!」

 無事に効いたらしい。


 安全を確保できたようなので俺はUターンして顔を向ける。

 男はもがいて、虫みたいな動きをしていた。


「グレゴール、でかしました! さあ、そのアゴで食いちぎるのです!」

 やけにグロいことを言ってるな……。

 いくら悪い奴だからってそんなことしたらダメだろ。

 あと、フィーナもほかの冒険者から忌避されるぞ。


 とはいえ、ちょっと脅してやろうという気になったのも事実だ。


 俺は大きな口を開く。

 キャタピラーといっても俺は肉も食べれるし、太いアゴもある。

 人間の捕食程度やろうと思えば簡単だ。


 お前を食べちゃうぞアピール。

 実際はこんな不味そうな男、絶対食べたくないけどな。

 あと、人間の記憶があるからカニバリズムみたいな気持ちになりそうだ。


「うわっ! やめろ! やめてくれ!」

 さすがにビビッてくれてるらしいな。


「グオオオオオ!」

 ビビりそうな声も出しておこう。


「おい、魔物使い! こいつが食いつかないように指示を出せよ!」

 男がフィーナに叫ぶ。

「だって、決闘は真剣勝負なんですよね? つまり食うか食われるかの世界ですよ」

 とぼけた顔を作ってフィーナは言う。


「それは比喩であって、本当に食われるのはおかしいだろ!」

「グオオオオオオ!」

 さっきよりちょっと低い声を出して威嚇する。


 男も観念したらしい。

「わかった! 俺の負けだ! ギルドの弁償は俺がする! だから、この虫をどうにかしてくれ!」


「絶対ですか?」

「絶対だよ!」

「もう、私みたいなカモにイチャモンつけないと誓えますか?」

 少し男の返答が止まった。


「グレゴール、その鋭利な刃で串刺しにしてしまいなさい」

「わかった! 平和に人畜無害に生きるって誓う!」


 こうして俺たち(というか事実上俺だけ)は決闘に勝利し、借金を抱えることは回避したのだった。

 でも冷静に考えたら、借金を背負わずにすんだだけであって、ほとんど発展性がないな……。


「グレゴール、よくやりました! お尻から出す攻撃は強力ですね!」

 フィーナが抱きついてきた。

 まあ、フィーナが喜んでくれているのでよかったということにしよう。


 でも、お尻から出す攻撃っていう表現はやめてほしい。

 なんか汚い。


 決闘は見物客も多かったので、こうして俺とフィーナはなかなか有名人になった。


 しかし、ほかにも大きな問題があることを俺たちはまだ理解していなかった。


 宿泊しようとしたら、宿に片っ端から断られたのだ。


「悪いけど、キャタピラーは泊まらせられないな」

「その子、毒ガスを出すんだろ?」

「においがついたら廃業するしかない……」


 そう、キャタピラーなうえにくさいガスを出すという情報が宿のネットワークで拡散して、俺たちはブラックリスト入りを果たしていたのだ。

 いわゆる出禁である。


 俺たちはやむなく街のはずれをとぼとぼ歩いていた。ほかに歩いている人間もいない。

「はぁ……世間はキャタピラーに冷たいですね……」

「しょうがないだろ。俺も宿の側だったら泊まらせたくない」


「グレゴールの素晴らしさをわからない奴なんてこっちから願い下げです」

 ちょっと前だったら俺のせいだとか言いそうなものなのに、フィーナもちょっと成長したらしいな。

 だからこそ、フィーナをどうにか助けてやりたかった。


「なあ、俺は離れたところで夜を越すから、お前だけでも宿に泊まれ。お前一人なら絶対に泊まれる」

「ダメです」

 即答だった。


 ぽんと俺の頭にフィーナが手を置いた。

「私は魔物使いです。グレゴールと離れて暮らしたら本末転倒です」

「フィーナ、本当に偉くなったな」


「だてにレベルアップしてないですよ。あと、対処策も考えてますからね」

 俺を安心させるようにフィーナは笑った。

 フィーナも少しだけだけど大人っぽくなってきている気がする。


「あのキャタピラーだらけの森まで戻って拠点にするんです。ほら、そんなに時間をかけずにここまでたどりついたじゃないですか」

 なるほど。森から王都まで一時間で着いた。それなら通勤と大差ない。

「それに泉も湧いてますし、生活はできますよ」

「たしかに、そうだ! フィーナ、でかした!」


 フィーナは王都で野営用のテントを購入した。

 これで生活は問題ないな。


 俺たちは暗くなりきる前に一度、森に戻った。

 しばらく王都との通勤生活をすることになりそうだ。

ちょっと余裕ができてきたので明日は2回更新できたらやりたいなと思います。

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