表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/26

17話 弁償回避のために

すいません、ちょっと更新遅れました。

「うわ、なんだ、このキャタピラー!」

 イチャモンをつけた男が変な声をあげた。

 やっぱり、このキャタピラーにはみんな驚くらしい。


 ほかの客が「ご主人様の危険を察知したんじゃねえのか」と笑っている。

 ナイスアシストだ。まさにそういう意味合いなのだ。


「なんだよ! キャタピラー風情に用はねえんだよ!」

 男が俺の体を蹴る。

「とっととそこをどけよ!」


 いいぞ、いいぞ。

 俺は蹴られながら喜んでいた。

 マゾなのではない。作戦だ。


 そうやって暴力に訴えてくれれば、ケンカだと認識される。

 ケンカなら、勝った側が正義になる。


 そして、俺のレベルはかなり高い。こんなイチャモンをつけてくる奴に負けることなど、そうそうありえないはずだ。


 しかし、このキャタピラーの体というのはなかなか融通が利かない。

 あと、男が乱暴に蹴りすぎた。


 ――ぷしゅうううううううううううう!!!!!


 俺の体が命の危険だと判断して、毒ガスを出した。

 しかもLv36だからにおいもきつくなっている。


「くっさ!」「なんだ、これ!」「気分悪くなってきた……」

 広範囲に影響が出ていた。

「グレゴールは攻撃をされると、毒ガスを出す体なんです! ここは一度逃げないとまずいです!」


「え、そんな危険なレベルなのか?」

 イチャモンをつけた男も話が大きくなりすぎていてビビッていた。

「最悪、死者が出ますよ!」

 そうだよな。それぐらいなりかねないよな……。


 結局、毒ガスによってギルドと併設している酒場は営業中止となった。

 仮に健康被害がなかったとしても、においのせいで店は続けられないだろう。


 俺はフィーナの近くでそうっとつぶやく。喧騒のせいで俺がしゃべることもばれんだろう。

「いいか? 大都市にはさっきみたいな悪い奴がいるから、気をつけるんだぞ。お前、思った以上に純朴だからな」

「わかりました……。騙されないようにします……」

 よし、アクシデントはあったが、これで無事に――


「あ~、すいません」

 そこに、つかつかとギルドの受付嬢の子がやってきた。


「あの、この毒ガス被害なんですが、原因は何なんですかね?」

 この人も、職場が汚染されてふんだりけったりだろうな。すいません。


 避難していた連中がイチャモンつけた男のほうに目をやった。

「えっ!? 俺が悪いのかよ! 毒ガスが出るだなんて知らねえよ!」

「いきなりパートナーのグレゴールを蹴るほうが悪いに決まってます!」

 これにはフィーナもちゃんと意見を主張してくれた。

 俺を守ろうとはしてくれるらしい。正直、うれしい。


「ふざけんな! そんな危ないモンスターをギルドに入れるほうにも責任があるだろ!」

 男も言い返す。

 そりゃ、ここであっさり非を認めるような奴なわけがないよな。


「どっちでもいいですけど、責任者の方が営業できない分の損害額を払ってくださいね。ギルドはともかくとして、酒場はもしかすると数日使えないかもしれません。においが残りそうですし」

 まずいぞ。けっこうな額の損害になるかもしれん。


「も、もろもろでいくらになるんですかね……?」

 フィーナがおそるおそる尋ねた。

「銀貨100枚分です」

 イチャモンつけられた時の額の倍になった!


 外野から「おとなしく折半したらどうだ?」なんて声がする。

 ふざけるな! どうして因縁つけられて銀貨50枚も払わないといけないのだ! それ、おそらく日本円で50万ほどの額だぞ!


 男のほうも青い顔をしていた。ギルドにいる以上、登録ぐらいはしてる可能性が高い。逃げるに逃げられないのだろう。


「くそっ! じゃあ、弁償費用をかけて決闘しようじゃねえか!」

 男が叫んだ。

「それで負けたほうが全額払う! これでどうだ!」

 苦肉の策でそう言ったのだろうが、こっちとしてもありがたい。


 つまり勝てば何の問題もなくなるのだ。

 俺は男の前に出て、こくこくとうなずいた。


「うわあ! 虫は出てくるんじゃねえよ!」

「グレゴールもそれでいいと言ってますね」

「おい! 俺はキャタピラーとは戦いたくねえぞ!」

「私は魔物使いですので、モンスターに戦わせるのが自然です」


 たしかに矛盾はしていない。

「わかったよ……。そいつと戦ってやる……」


 こうして、俺と男が戦うことになった。


 もし俺が負けた場合、フィーナが多額の借金を背負うことになってしまう。


 なので地味に重要な試合である。

 ヤクザ者は円月刀だろうか、大きく反り返った刃物を持っていた。


 げっ、ザコが持ってる武器とは違うぞ……。

 あれでざっくり斬られたらすごく痛そうだ……。


「おい、キャタピラー! お前なんて輪切りにしてやるからな!」

 なんか物騒なことを言われている。

 そんなの困る……。俺はキャタピラーとして天寿をまっとうしたい。いや、キャタピラーのまま死ぬってサナギになって羽化できてないみたいだけど。


 当たり前と言えば当たり前なのだが、この姿では鎧で防御するようなことができない。

 おそらく、体力は高いから問題ないという設計なのだろうが、もうちょっとどうにかできないのか。


 戦闘が開始されると、俺は尻を向けて動きだした。

 切られないためである。

「おい! 逃げるなよ!」

 男が無論追いかける。

 俺も無論逃げる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ