17話 弁償回避のために
すいません、ちょっと更新遅れました。
「うわ、なんだ、このキャタピラー!」
イチャモンをつけた男が変な声をあげた。
やっぱり、このキャタピラーにはみんな驚くらしい。
ほかの客が「ご主人様の危険を察知したんじゃねえのか」と笑っている。
ナイスアシストだ。まさにそういう意味合いなのだ。
「なんだよ! キャタピラー風情に用はねえんだよ!」
男が俺の体を蹴る。
「とっととそこをどけよ!」
いいぞ、いいぞ。
俺は蹴られながら喜んでいた。
マゾなのではない。作戦だ。
そうやって暴力に訴えてくれれば、ケンカだと認識される。
ケンカなら、勝った側が正義になる。
そして、俺のレベルはかなり高い。こんなイチャモンをつけてくる奴に負けることなど、そうそうありえないはずだ。
しかし、このキャタピラーの体というのはなかなか融通が利かない。
あと、男が乱暴に蹴りすぎた。
――ぷしゅうううううううううううう!!!!!
俺の体が命の危険だと判断して、毒ガスを出した。
しかもLv36だからにおいもきつくなっている。
「くっさ!」「なんだ、これ!」「気分悪くなってきた……」
広範囲に影響が出ていた。
「グレゴールは攻撃をされると、毒ガスを出す体なんです! ここは一度逃げないとまずいです!」
「え、そんな危険なレベルなのか?」
イチャモンをつけた男も話が大きくなりすぎていてビビッていた。
「最悪、死者が出ますよ!」
そうだよな。それぐらいなりかねないよな……。
結局、毒ガスによってギルドと併設している酒場は営業中止となった。
仮に健康被害がなかったとしても、においのせいで店は続けられないだろう。
俺はフィーナの近くでそうっとつぶやく。喧騒のせいで俺がしゃべることもばれんだろう。
「いいか? 大都市にはさっきみたいな悪い奴がいるから、気をつけるんだぞ。お前、思った以上に純朴だからな」
「わかりました……。騙されないようにします……」
よし、アクシデントはあったが、これで無事に――
「あ~、すいません」
そこに、つかつかとギルドの受付嬢の子がやってきた。
「あの、この毒ガス被害なんですが、原因は何なんですかね?」
この人も、職場が汚染されてふんだりけったりだろうな。すいません。
避難していた連中がイチャモンつけた男のほうに目をやった。
「えっ!? 俺が悪いのかよ! 毒ガスが出るだなんて知らねえよ!」
「いきなりパートナーのグレゴールを蹴るほうが悪いに決まってます!」
これにはフィーナもちゃんと意見を主張してくれた。
俺を守ろうとはしてくれるらしい。正直、うれしい。
「ふざけんな! そんな危ないモンスターをギルドに入れるほうにも責任があるだろ!」
男も言い返す。
そりゃ、ここであっさり非を認めるような奴なわけがないよな。
「どっちでもいいですけど、責任者の方が営業できない分の損害額を払ってくださいね。ギルドはともかくとして、酒場はもしかすると数日使えないかもしれません。においが残りそうですし」
まずいぞ。けっこうな額の損害になるかもしれん。
「も、もろもろでいくらになるんですかね……?」
フィーナがおそるおそる尋ねた。
「銀貨100枚分です」
イチャモンつけられた時の額の倍になった!
外野から「おとなしく折半したらどうだ?」なんて声がする。
ふざけるな! どうして因縁つけられて銀貨50枚も払わないといけないのだ! それ、おそらく日本円で50万ほどの額だぞ!
男のほうも青い顔をしていた。ギルドにいる以上、登録ぐらいはしてる可能性が高い。逃げるに逃げられないのだろう。
「くそっ! じゃあ、弁償費用をかけて決闘しようじゃねえか!」
男が叫んだ。
「それで負けたほうが全額払う! これでどうだ!」
苦肉の策でそう言ったのだろうが、こっちとしてもありがたい。
つまり勝てば何の問題もなくなるのだ。
俺は男の前に出て、こくこくとうなずいた。
「うわあ! 虫は出てくるんじゃねえよ!」
「グレゴールもそれでいいと言ってますね」
「おい! 俺はキャタピラーとは戦いたくねえぞ!」
「私は魔物使いですので、モンスターに戦わせるのが自然です」
たしかに矛盾はしていない。
「わかったよ……。そいつと戦ってやる……」
こうして、俺と男が戦うことになった。
もし俺が負けた場合、フィーナが多額の借金を背負うことになってしまう。
なので地味に重要な試合である。
ヤクザ者は円月刀だろうか、大きく反り返った刃物を持っていた。
げっ、ザコが持ってる武器とは違うぞ……。
あれでざっくり斬られたらすごく痛そうだ……。
「おい、キャタピラー! お前なんて輪切りにしてやるからな!」
なんか物騒なことを言われている。
そんなの困る……。俺はキャタピラーとして天寿をまっとうしたい。いや、キャタピラーのまま死ぬってサナギになって羽化できてないみたいだけど。
当たり前と言えば当たり前なのだが、この姿では鎧で防御するようなことができない。
おそらく、体力は高いから問題ないという設計なのだろうが、もうちょっとどうにかできないのか。
戦闘が開始されると、俺は尻を向けて動きだした。
切られないためである。
「おい! 逃げるなよ!」
男が無論追いかける。
俺も無論逃げる。