16話 ギルド登録
そのあと、森を抜けた俺たちは街道に出て、人や馬車にぶつからないように注意しながら、ナンヴァー王国の王都まで進んだ。
ナンヴァー王国までは速度を上げて進めば、1時間ほどで着いた。
といっても、時速60キロぐらいの速度で進んでいたつもりなので、60キロは離れているとも言えるが。
キャタピラーの足の使い方もかなり習熟してきた。
もう、車を運転した頃の感覚で使いこなせる。
車は地方で公務員をやっていたから、仕事柄、乗りまくっていた。
鉄道はあったけど、一時間に一本あればいいほうというダイヤだったから、それをメインに据えられなかったのだ。もっぱら車だった。
だから、その頃の生活に戻ったような気もしている。
むしろ、こっちの世界は平原が多いので、走るのも気持ちがいい。
王都には今度は無事に入ることができた。
ナンヴァー王国のほうが検問がゆるい。
国によってそのあたりのルールが違うのも当然と言えば当然か。
あと、前の国は王が犯罪者みたいなものだったから、気をつけていたのかもしれない。
なお、自分がしゃべることは黙っていることにした。
特殊なモンスターだという余計な情報は与えないほうがいい。
「よーし、早速冒険者ギルドに行きますよ!」
フィーナはかなり張り切っていた。
集落でずっと暮らしていたフィーナとしては、冒険者というのが憧れらしい。
おそらく、旅に憧れるのと同じ延長線上にあるのだろう。
王都の中を歩く時はやっぱり人目についた。
まあ、キャタピラーに何の反応も示さない奴がいたら、かえって不自然だけど。
「あんなデカいキャタピラー見たことないわ」
「珍しい種類なのか?」
「変わったペットだな」
そんな言葉が聞こえてくる。
「ふふふ、私たち、注目を集めてますね」
あまり俺に話しかけるな。人前ではしゃべらないんだから。
あと、注目を集めてるのは俺だけだ。
ギルドは王都にあるだけあって、こぎれいな建物だった。
ドアが広かったので、俺もどうにか中に入ることができた。
相当、場がざわついたが、そこはしょうがない。
「あ、あの……そのキャタピラーは何でしょうか……?」
受付の20歳ぐらいの女性は顔を青くしていた。異常事態もいいところだろう。
「私は魔物使いなんです。ギルドに登録に来ました!」
「まだお若いようですけど……。ああ、エルフの方はみんな若く見えますね」
「私は15歳ですから本当に若いですよ」
そういえばずっと年齢聞いてなかったけど、15歳なのか。
「でも、魔物使いの実績はあります。さあ、登録させてください!」
「わかりました……。じゃあ、ここにお名前を……」
なかば強引にフィーナは登録をすませた。
それから、初級冒険者のどどめ色のバッジを渡された。
「バッジの色は冒険者の階級によって変わります。初級のあとは銅ランク冒険者、銀ランク、金ランク、ドラゴンランクと変わっていきます。ぜひ、ドラゴンランクを目指して頑張ってくださいね」
「最後がドラゴンですか。なんか腑に落ちないですね。キャタピラーではダメなんですか?
ダメに決まってるだろ……。
地を這う奴が最上級というのは無理がある。
「ギルドの依頼を受けたりしてポイントが上がれば、徐々にランクが上がっていきます。検討をお祈りします」
「わかりました。グレゴールがいれば楽勝です♪」
フィーナは有頂天だったが、だからこそ俺は嫌な予感がした。
ただでさえ小娘が一人で冒険者ギルドに来ているのだ。
ちょっかいをかけてくる奴がいるだろう。
だろう、というか絶対にいる。
これは虫の感覚なのかもしれないが、フィーナに対する悪意を持ってる奴を感じるのだ。
「せっかくだから、あの酒場でレモン水でももらいましょう」
たたたっとフィーナはそちらに向かって走っていく。
そのフィーナが誰かにぶつかった。
酒が入っていたらしいグラスが倒れる。
「おいおい、服にかかっちまったぞ!」
いかつい男が叫ぶ。
これはおそらくヤクザ者だ。腕にタトゥーのようなものもしている。
「これは弁償してもらわないといけねえなあ。どうしてくれるんだ?」
すごまれたフィーナがびくっと体をふるわせる。
「ご、ごめんなさい……見てなくて……」
ああ、ダメダメ。全然ダメ。
そういうのにビビったらますます舐められる。
だいたい、今のだって、わざとぶつかるようにフィーナのほうに体を近づけてたのが見えたぞ。因縁をつけるのが目的の連中だ。
「これ、銀貨50枚はする高級な革なんだけど、どうしてくれんだよ」
そんな値段がするとは思えんな。やっぱりふっかけてきてる。
「あ、ああ……すいません……ちゃんと働いて稼いで払いますから……」
カモすぎる!
もうちょっと、おかしいって気づけよ!
そうか、フィーナはエルフの集落という、いわば田舎にずっと住んでいたのだ。
顔なんてみんな知ってるような空間だから、明らかな悪意持った存在に慣れてないんだな。意地悪な奴はいても、犯罪者みたいなマインドの奴はいなかったのだろう。
「これは体で払ってもらうしかねえかもな」
「体で? じゃあ、その労働で払います!」
いいわけないだろ!
それ、肉体労働すればいいって意味じゃねえよ!
これは俺がどうにかするしかない。
俺はフィーナと男の間に入っていった。
ご主人様は守らないとな。