15話 こっちのほうがサービスシーン
今回ちょっとだけえっちいです。まあ、イモムシだから問題ないですけどね!
キャタピラーのメスたちは食事を終えると、ぞろぞろと帰っていった。むしろ、のそのそととでも言ったほうが正確かもしれないが。
フィーナもキャタピラーたちに「ばいばーい」と手を振っていた。魔物使いだけあって、モンスターとの順応が早い。
「しかし、グレゴールも隅に置けないですね~」
にやにやしながら、フィーナが俺を突っつく。
「モテモテじゃないですか。そうか、グレゴールはキャタピラーの中ではモテ容姿だったんですね!」
「そうみたいだな。でも、俺はとくにうれしくないんだけど。だいたい、どこでかわいいとか美しいとか判断すればいいんだ」
全部キャタピラーというふうにしか見えんぞ。
オスとメスの区別すらつかん。
「グレゴールの目は節穴なんですか?」
「じゃあ、お前はキャタピラーの容姿なんてわかるのかよ?」
「私、キャタピラーじゃないですもん」
言われてみれば、そうか。
人間がこのミミズとあっちのミミズ、どっちがかわいいとかなんてわからんよな。
せいぜい猫とか哺乳類の近いものぐらいだ。
それだって人間から見た基準にすぎないから、猫同士でどういう扱いになるかなんてことはわからん。
だとすると、キャタピラーなのにキャタピラーの美しさがわからない俺がやっぱり変なのかもしれない。
少なくとも、サイズが大きいほうがかっこいいという認識はない。
まあ、小さいよりはいいかもしれんが。
「そういえば食べるものがないですね」
オークの町から逃げてきたので、食料の用意はなかった。
俺は森に入ったので逆に餌だらけなのだが。
「あっ、いい木の実がありました。グレゴール、とってください」
俺は木に登って、めあての木の実をとってやった。
エルフだから木には詳しいのだろう。
そういう意味ではキャタピラーの俺とのタッグは悪いものじゃないはずだ。
フィーナは腕を伸ばして、木の実を二つとった。
「うん、なかなかおいしいです。あと、久しぶりにゆったりできている気がします」
フィーナは俺にもたれかかりながら、朝食をとる。
「たしかに逃げ出さないといけない事態ばかりだったもんな」
「次の国こそ冒険者ギルドに登録しますよ。私は美少女冒険者として独り立ちするんです!」
「だから、自分であんまり美少女って言うな」
俺は元日本人なので多少の謙虚を美徳としている。
「本当のことを言ってるだけですからね~」
「調子のいい奴だ」
でも、まあ、中学生か高校生かって年で、旅をしてるんだから、なかなか度胸はあるのかな。
木の実を食べ終えると、フィーナはくんくんと自分の腕に鼻を近づけた。
「なんだ? 俺はガスは出してないぞ」
それとも近づくだけで変なにおいが移るのだろうか。だとしたら地味にショックだ。
「違います。昨日、体を洗うタイミングがなかったので、気になってるんですよ。男の冒険者じゃないですから、気もつかいます」
「そうか、きれい好きなのはいいことだ」
「このあたりに泉はありませんでしたか? 水浴びをしたいのですが」
ちょうどいい葉っぱがあると案内される途中に、小さな泉があるのは見つけていた。
ただ、水浴びという表現に少しどきりとした。
「じゃあ、俺が場所を教えるから行ってこい」
「いや、グレゴールも来てくださいよ。どんなモンスターが森に棲んでるかわからないんですから」
結局、俺はフィーナを乗せて泉に向かった。
「うん、なかなかの透明度ですね! 合格です!」
フィーナは泉のほとりで早速服を脱ぎだした。
やはり、裸を見るべきではないと思ったので、顔をそらした。
「ちょっと、冷たいから。ゆっくり入らないと体がびっくりしますね」
フィーナは足をつけて、そろそろと入っていったらしい。
らしい、というのはじっとその様子を見るのは悪いと思ったからだ。
やはり、俺はキャタピラーというよりは人間の時代の価値観が強いようだ。
かといって、肉体はキャタピラーなので、エルフの裸を見ても欲情などはしない。
それはいわば肉体的な問題だからだ。
一応、泉にはつかったらしいので俺も顔を向けた。
「うん、体の汗ぐらいはこれで落ちましたね」
フィーナは髪も泉につけていた。
濡れた髪のフィーナもなかなか美しい。まるで泉の精霊みたいだ。
しゃべってる内容がいい加減だったり自信過剰だったりするけど、見た目だけならたしかに美少女で通じるな。
美しさというものは俺でも認識できるのだ。
いわゆる肉感的な体ではないが、細身のきれいな体っていうか。
あんまり感想をつけると、いろいろとまずいし、あんまり考えないでおくか……。
「ふう、ひとまず私はこれでいいです」
ざばぁっとフィーナが泉からあがってきた。
「そうか、水もあるし食べる物もあるし、野宿するにはいい環境だな」
モロにフィーナの全身を見るかっこうになったので、また俺は顔をそらす。
「グレゴール、照れてますか?」
いたずらっぽくフィーナが言った。
もしかすると、俺は本当に照れているのかもしれない。
「さ、さあな……。単純に俺はマナーを守っているだけだ……」
「キャタピラーが恥ずかしがるのもおかしいですよ。それとも、、もしかしてキャタピラーにも私の美しさが通じているんですか?」
「変なこと言ってないで、とっとと服を着ろ」
「ああ、でも、その前についでにグレゴールも洗っておきますよ」
濡らしたタオルを手にとると、それに植物性の脂を固めたせっけんで泡をつけるフィーナ。
「モンスターをきれいにするのも魔物使いの役目ですからね。グレゴールの体はきれいにしておくと、いい緑色になるんですよ。埃で黒ずんでたりするともったいないです」
フィーナはそのタオルで俺の体を拭いていく。
愛車の洗車みたいなものか。車みたいな速度で動くしな。
でも、問題もある。
フィーナが泉からあがったまま、それをやっているのだ。
つまり、裸のままで俺にひっつくようにして洗っているのだ。
「なあ……体を拭いてもらうのはいいんだけど、服着てからのほうがよくないか……」
「何を言ってるんですか。そしたら、服が濡れちゃうかもしれないでしょうが。それにグレゴールをしっかり拭くには、グレゴールに密着しながらのほうが力が入っていいんですよ」
「そ、そうか……」
「そうですよ。うん、あざやかな緑色になってきましたね!」
ちょくちょくフィーナの肌が当たる。
多分だけど、胸も当たっている。
キャタピラーでよかったかもしれないと思った。
これ、人間のままだったら、おそらく妙な気分になっていただろう……。
もっとも、人間だったら絶対にフィーナがこんなことしないから、その仮定法に意味はないが……。
俺は拭かれている間、ずっと落ち着かなかった。