14話 ハーレム展開がうれしくなさすぎる
この無数の視線。
しかも敵意すら感じさせる視線。
まさか、敵なのか!? 囲まれたのか!?
俺はここに案内してきたストライプのキャタピラーの顔をもう一度見た。
こいつが、俺をハメるために、ここに呼んだのか!?
――ど、どうでしょうか? 私じゃダメでしょうか……?
……違う気がする。
キャタピラーの常識はあまりわからないので、感覚的なものだが、このキャタピラーは本当に俺に好意を持っている気がする。
――もし、かなうなら……一緒に森を二人で寄り添いながら歩きたいです……。それで、たまに顔と顔をぶつけあったりとか……。
それってキスみたいなものなのだろうか。まあ、それはどうでもいい。
――ごめん、回答の前にこの事態をどうにかしないといけない。
――えっ? どういうことです?
――俺たち、明らかに囲まれてるんだ。
そして、目を外側に向けた。
キャタピラーの目は割と広範囲を視界に入れることができる。
森にはいろんなモンスターがいる可能性は高い。
キャタピラーを捕食する奴がいても何一つおかしくない。
フィーナが載っているから抵抗はあるが、場合によっては戦うしかないな。
そして、俺の目に入ったのは――
無数のキャタピラーたちだった。
――あれ、キャタピラーかよ……。
色も緑のもいれば黄色のも、赤いのもいて、カラフルだ。
こっちが気づいたことに連中も気づいたのか、ずいずいと近寄ってくる。
狂暴そうな奴らじゃないからちょっと気が抜けたが、敵意は感じるのだよな。
もしかして縄張りも持ってない奴が入ってきたから締められるのか?
結論からいくと違った。
――シロクロ! あなた、抜け駆けしようとしてるわね!
――そうよ! 大きいオスを見つけたからって、すぐさまアタックってどういうこと!
――あなた、純真そうな顔してすぐに体の大きさだけで判断するんだから!
シロクロというのはこのストライプのキャタピラーの名前なのだろう。
――あの、この子はオスの前でだけかわいい子ぶってるけど、性格は悪いんですよ。あっさり騙されないでくださいね。あなたがすごく大きいから、即座に狙ってきたんですよ。
赤いキャタピラーが俺に言ってきた。
――そうですわよ。この葉っぱだってみんなの共有財産なのに、さも自分だけの秘密の場所みたいな顔して、オスに媚びを売るんですもの。
今度は黄色のキャタピラーが言ってきた。
どうやら、キャタピラー女子の集まりらしい。
――すいません、俺、遠くからきてそのへんの価値観がわからないんですけど、大きいとかっこいいんですか……?
――それはそうよ。
――とくにあなたなんて最高よ。
――どこに行っても絶対にモテますよ。
ストライプのキャタピラーは「ちぇ、邪魔が入った……」というふうにうなだれていた。
――どっちにしても、俺、旅をしてるんで、ここにはとどまれないんだ。悪いな。
彼女たちは残念がっていたが、「ある意味、争いにならなくてちょうどいいわ」ともテレパシーで言われた。たしかにそうかもしれない。
――あの、せっかくなんで、私たちがここで食事をする間、お話でもしてくれませんか?
赤いキャタピラーに言われた。
――かっこいいオスと一緒に食べるほうが、食事も楽しいんで。お願いします。
――は、はあ……。それぐらいはどうぞご自由に……。
結局、そこで俺を中心に据えた食事会がはじまった。
ハーレムのはずなのだが、かわいさが理解できないので、とくにうれしくはない。
シロクロというキャタピラーにはまた何か困ったことがあったらこの森に来てくださいねと言われた。
まだ狙っているらしい。
――ていうか、成虫じゃないのに恋愛事情はあるんだな。
――ほら、人間だってかっこいい子供はかっこいい大人になる確率が高いでしょう。それと同じですよ。
なるほど。一理ある。
「ふあ~あ。あれ、グレゴール、移動したんですか? ――うわ~! キャタピラーだらけです!」
目を覚ましたフィーナがものすごくびっくりして、俺から転落した。
まあ、下は草地だから問題ないだろう。
「びっくりさせないでくださいよ……。なんですか、この異様な光景は……」
「実はお前を食べる計画を立てていたのだ」
ぽかんと軽くフィーナに叩かれた。
「ご主人様に失礼な冗談はダメですよ」
なるほど。フィーナの言うとおりだ。
「ごめん。以後気をつける」
「わかればいいんですよ」
今度からほどほどにご主人様はおだてることにしよう。
「ところで、このキャタピラーたちは何なんですか?」
ああ、フィーナはキャタピラーのテレパシーは聞こえないんだな。
「俺って、キャタピラーの中ではかっこいいらしい」
「キャタピラーの中でのかっこよさなんて枝一本ほどの興味もないですよ」
「俺も逆の立場ならそう思う」
次回は夜11時の更新予定です!