11話 オークの町
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俺たちは緊急避難的にその小さな町に入った。
俺を捕まえようとしたナハト王国から相当離れているし、しばらくはここでおたずね者になることはないはずだ。
ただし、その町はちょっと問題があった。
「なんか、くさいですね……町自体に独特のにおいがあります……」
これは俺がガスを出しているからではない。
そこはオークの町だったのだ。
このにおいはオークの体臭か何かだろう。
「ああ、そうか、ここの世界はオークはモンスターじゃなくて亜人種って扱いなんだな」
俺は一応、声のトーンを落としている。
しゃべることを知られて、厄介ごとに巻き込まれた直後だ。
「オークをモンスター扱いしたら、相当怒られますよ。実際、しょぼいながらも文明も持ってますし」
たしかに市場も立っているし、町としては機能しているようだ。
だが、当たり前だが、俺は無数の視線を集めていた。
ほとんど視界に入るすべてのオークが俺を見ている。
芸能人になった感覚だが、黄色い声は飛んでこない。
これ、目立ってしょうがないな。
「ひとまず、何か食べたいです。ノドも渇きました……」
フィーナは羊の肉と水を買って、食事とした。
一方で、俺は困った。
ここ、禿山に近い土地なのか、あまり葉っぱがないのだ。
この体って飢え死にはしないよな……?
フィーナが水を買った店で聞いてきた話によると、この町はオークの自治区で、ナハト王国領と言えなくもないが、実質は治外法権らしい。
なかなか重要な情報だ。でかした。
そして、山を越えた先はナンヴァー王国という大国らしいので、とっととそっち側まで入ってしまいたい。
というのも、この町に入ってから先、やたらと強い視線を感じているのだ。
そりゃ、俺が目立つ自覚はあるが、それにしても視線が濃いと思う。
一言で言うと、落ち着かない。
こういう場所は早く離れたほうがいい。
それと、なんか市場を歩いていた時に気味の悪さを覚えた。
いわゆる虫の予感というものだ。
しかし、フィーナはそういうことはまったく感じてない。
「フィーナ、できるだけ早く峠を越えて、隣の国に行こう」
俺は小声でフィーナと会話する。
「え~、疲れたし、ここはゆっくりしましょうよ~。峠を越えるって大変ですよ」
「うん、フィーナの言うこともわかるんだが……」
「もしかして、オーク差別ですか? ここのオークはとくに荒っぽくも何ともないですよ。心配いりませんって」
「そうか、俺の杞憂なのかな……」
たしかに「気持ち悪いキャタピラーだ」なんて言葉は一回も浴びせられてないし、敵視されてる印象はない。
まあ、一日ぐらいは大丈夫かな。
「ふあ~あ、眠り足りません。ちょっと町のはずれで眠りましょう」
フィーナは俺の上に寝転がって、上からタオルケットをかぶって寝た。
キャタピラーの上で眠れるのか。
意外とこいつも順応してきたな。
俺も疲れてはいたので、眠ることにした。
走りまくったので、けっこう足が疲れていたというのもある。
ぐーぐー。
遠目では死んでるのか眠っているのかわかりづらいが、眠っている。
夢だろうか、「美味そうだな」なんて声がした気がしたが。
近くにフルーツの木でも生えてるんだろうか。
ぐーぐー。
これは俺の寝息ではなくて、フィーナのおなかの音だ。
「おなかがすいて目が覚めました」
「俺は今日何も食べてないから、もっとすいてるんだけどな」
目覚めると、日が傾きはじめていた。
町に戻ると、ちょうど食事の時間だからか、飲食店がにぎやかになってきている。
「おっ、エルフのお嬢ちゃん」
店員らしきエプロン姿のオークの女が声をかけてきた。
「女の子の旅って大変だろ? 女のよしみだ。うちの店ならサービスしとくよ。どれだけ食べても銅貨5枚だ!」
「それは安いですね!」
フィーナのテンションが上がった。
日本に住んでいた記憶から、客引きは気をつけろという印象がある。
ぼったくりの店とかだったら面倒だ。
俺は注意しとけよという意味で、軽く体をフィーナにぶつけた。
「あ、なるほど」
おっ、気づいてくれたか。
「グレゴールもごはんがほしいんですね」
違う! いや、ごはんもほしいけど、そっちじゃない!
「ああ、キャタピラーがいるんだったら、うちの店の裏手に木が生えてるから、そこの葉っぱを食べればいいよ」
それはうれしい提案だ。
「本当にいいんですか?」とフィーナのテンションがさらに上がる。
「だって、葉っぱなんて商品価値がないからね。いくらでもあげるよ」
言われてみればそうか。大半の葉っぱはただの葉っぱだもんな。
正直、食欲に負けた。
そろそろ何か葉っぱを口に入れたい。
こうして俺はオークの女に店の裏に案内されることになった。
オークって年齢不詳なので、20歳なのか50歳なのかよくわからない。
「それにしても、立派なキャタピラーだねえ」
ぽんぽんと叩かれる。
気味悪がられないのは、ありがたいかな。
そこにはたしかに青々と茂る木が何本か生えていた。
じゅるり。
ああ、こんな禿山みたいな土地にもちゃんといい葉があるんだ!
「さあ、上までのぼって食べていいよ」
俺は幹をうねうねと這いのぼり、葉っぱを口に入れていく。
うん、鮮度抜群!
このほろりとした苦味がたまらない!
このあたりの感覚はきっとキャタピラーにならないとわからないだろう。
一応、肉食もできるのだが、圧倒的に葉っぱのほうが美味と感じる。
しかし、そうやって調子よく食事を続けていた時――
ふと、湯気のようなものが当たるのを体に感じた。
地面のほうを見る。
そこにはぐつぐつと煮えたぎる巨大な鍋が置いてあった。
「さあ。ここに落ちてきな! こんな大物のキャタピラーはめったにないよ!」
さっきのオークの女がはりきって叫んでいる。
そして、その目を見て、はっきりとわかった。
そうか、オークにとってキャタピラーって食糧なんだ……。
次回は本日夜11時の更新予定です。