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1話 朝起きたらイモムシになっていた

新連載開始しました。よろしくお願いします!

 目が覚めたら巨大なイモムシになっていた。

 多分長さで4メートル、高さでも1メートルぐらいある。

 緑色で木とか草とかにいるアイツだ。あれのデカいバージョンだ。

 英語で言うと、キャタピラーだ。


 最初、当然、俺は困惑した。


 この俺、グレゴール・田村はとある地方都市で公務員をやっている。

 国の機関の出張所で、職員数は任期つきの臨時職員を除くと、わずか4人。

 なので、俺が抜けるだけでも大幅な人数不足になってしまうのだ。


 なお、グレゴール・田村という名前は母親がヨーロッパ生まれだからついた名だ。

 とくに芸名みたいなものではない。


 せめて、俺がイモムシになっていることを事務所に伝えて、会社を休む連絡をしなければと思った。

 だが、イモムシなので手がない。

 足はあるがまだ操作方法をわかっておらず、動かそうとすると、一斉に動き出してしまう。

 とても電話をかけるなんて高等技術ができるとは思えない。

 それ以前に、携帯電話がない。


 しかも、ぱっと見、周囲は森なのだ。

 つまり、俺がイモムシになっただけではなく、違う世界に移ってきてしまったらしい。

 少なくとも、ある日、日本の地方都市が何もない森になったというよりは可能性が高かろう。


 仕方がないので、俺はのそのそと足を動かして、その場を離れた。

 ここがどういう場所かを調べないといけない。

 幸い、どうも前方に目があるらしく、視界は良好だ。

 イモムシの目なんて意識してなかったが、そういう種なのだろう。


 だが、行けども行けども森だった。

 たまにハチとかアリとかアブとかよくわからない昆虫などがいたが、サイズが明らかに俺より小さかった。


 むしろ、俺は杉の大木ほどに体が太い。

 おそらく牛なんかよりはるかにデカい。

 これ、おそらく人間を乗せて移動できるサイズだ。


 ずっと森が続いているようだ。景色が単調である。

 そりゃ、10分や20分進んだぐらいじゃ、森は抜けられんよな。


 進みながら、俺は軽く絶望していた。

 転生するにしても、もっといい選択肢はなかったのか。


 チート設定にしろとまでは言わん。

 せめて人間に近い種族にしてほしかった。

 仮にモンスターだったとしても、せめてゴブリンぐらいにしてほしかった。


 無意識のうちに葉っぱを食べていた。

 美味い。葉っぱってこんなに美味かったのか。

 だが、この巨体を維持するとなると、相当の葉っぱを食べねばなるまい。

 いくら最初美味くてもそのうち飽きるのではないだろうか。


 はぁ、これなら、公務員の生活のほうが100倍はマシだ……。


 ――と、初めて人の声らしきものが聞こえた。


「さあ、私に仕えなさい!」


 なんだ? あんまり一般の社会生活では聞かない言葉だ。

 将軍みたいなのが来ていて、在野の狩人でも将として加えようとしているのか?


 まあ、いい。行ってみよう。

 俺は足の速度をあげた。


 この体、意外と速い。

 最低でも、人間の全力疾走ぐらいまではスピードが出ることがわかってきた。

 そして、声がするほうに突っこんでいく。

 草むらを掻き分けるのが邪魔だが、しょうがない。


 そして、草むらを抜けて、視界が広がった。


 エルフの少女と、小さな子供サイズのドラゴンがいた。


 おお、ここはファンタジー世界なのかと確信した。


「くおおぉぉぉっ!」

 子供ドラゴンが俺を見て、びっくりしたのか、変な声をあげた。

 そのまま、翼を動かして、どこかに飛んでいってしまった。


 なんで、ドラゴンのくせに俺にびびるんだ。

 そっちのほうが上級の何かだろ。

 まあ、人間だって猫に近づいたらだいたい逃げられるし、こんなもんか。


 一方、エルフの少女のほうだが――

 こちらには、にらまれていた。


「あ、あなた、何してくれちゃってるんですか!」

 しかも、怒られた。


「私、ついにドラゴンを使役できるチャンスだったんですよ! 子供とはいえドラゴンだったんですよ! これで一人前の魔物使いになるはずだったんですよ! それがキャタピラーが出てきたせいで、逃げちゃったじゃないですか!」


 そんなこと言われても不可抗力だしなあ……。


「はぁ……私、ずっとおちこぼれのままなんだ……。手で抱きかかえられるアルミラージすら使役できない糞ザコ魔物使いのままなんだ……。どっかのキャタピラーのせいでおちこぼれのままなんだ……」


 このエルフ少女、こちらに罪をすべてなすりつけるつもりだな……。

 それだけずっとおちこぼれなんだったら、半分以上は君の素質のせいではないのか。


「けど、キャタピラーにそんなこと言っても無駄ですよね。謝罪しろって言ったって、ごめんの一言だって言えないですもんね。はいはい、アクシデントを予想できなかった私のせいですよ~」


「すまなかったな」


「いや、いいんですよ。今更謝られても――――って、ええ!? 今、しゃべった?」


 少女が驚いている。俺もまあまあ驚いた。


「そうか、この体、発声できるのだな。絶対しゃべれんと思っていた」

「うわ、本当にしゃべってる! しかも、規格外に大きい体ですし、もしかして森のヌシみたいな存在なんですか?」

「知らん。とにかく気づいたらこの格好になっていたのだ」


 俺は自分の事情を説明した。

 かなりの残業をこなして死んだように眠って、起きたら、キャタピラー(そう少女も呼んでるし、こちらの呼称で統一する)になっていたこと。


 ついでに係長のポストなのに部下が一人もいないので、結局ヒラと大差ないじゃん、組織の逆ピラミッド化みたいなの困るわ~ということも話した。


「じゃあ、私も話しますか」

 少女も身の上話をした。


 名前はフィーナ。

 彼女はエルフの中でもサラーフ族という部族で、部族の大半が魔物使いになって生きていくそうだ。

 つまり、モンスターを使役して、芸をさせたり、戦わせたりする職業だ。

 しかし、この子がおちこぼれで何のモンスターも使役できてないというのはさっき聞いた通り。


「しょうがないですね……。使役できそうなしょぼいモンスターでも探すことにしますか……。森を探せばマタンゴぐらいいるでしょう」

 エルフが座っていた切り株から腰を浮かした。

 その時、俺はひらめいた。


「そうだ、エルフの娘」

「何です?」

「魔物使いなんだろう? じゃあ、俺を使うというのはどうだ?」


 こっちは行き場所がないし、ずっと森に一人というのはきついので、話し相手がいてくれるだけでもうれしい。

 そして、エルフ少女フィーナも魔物使いの格好がつく。

 これぞ、ウィンウィンの関係だ。


 だが――

 フィーナの顔はすごく嫌そうだった。


「だって、所詮、キャタピラーじゃないですか……。ドラゴンとかワイヴァーンの代わりにはならないでしょ……」

「ま、待て! 実はすごく強いかもしれないぞ! ほら、人語をしゃべれるし、デカいし!」


「デカいとはいえ、キャタピラーってスペシャル感がないんですよね……。たとえば、魔物使いが主人公のお話があったとしましょう。絶対に主人公はキャタピラーを連れて歩いてないでしょ」

「そう言われると否定は難しい」


 俺もキャタピラーのかっこよさをアピールする言葉を持たない。

 ドラゴンだったらいいなとか思うし。


 しばらく、フィーナは悩んでいたが――

「そうか!」

 と威勢のいい声を上げた。


「な、なんだ?」

「あなた、種族的にそのうちサナギになって蝶とか蛾とかになるんですよね?」

「なったことがないからわからんが、多分そうなるんじゃなかろうか」

「キャタピラーがこのサイズなら、すごく立派な蝶が生まれる可能性があります! それなら、私のステータスもアップです!」


 こいつ、価値観が世俗的すぎるぞ!


「そうですね、まずは魔物使いの人生をスタートさせることのほうが大事です。よし、私が飼ってあげます! キャタピラー、私を出世させるのです!」


 なんか、どうせエルフならもっと心の清らかな奴の下につきたかったな……。


 とはいえ、背に腹は替えられない。


 俺はエルフ少女フィーナに飼われることになった。

明日は3回更新の予定です。12時、夜6時、夜11時更新の予定です。

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