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第16章:互いの想い《断章1》

【村雲夏姫】


 朱里さんは明彦をどう思ってるのかが知りたい。

 だって、あと数日で私はここからいなくなる。

 そうなると、明彦と朱里さんの関係が進展してしまう可能性がゼロじゃない。

 遠距離の難しさってのは想像するだけでも分かるもの。

 だから、不安の種はひとつずつ消していきたかったの。

 テーブル席で向かいあう私達。


「やだぁ、女の子に見つめられてもあんまり嬉しくないな」

「見つめ合ってませんから」

「冗談よ。夏姫さんは私にお話しって何なのかな?」

「明彦の事です。正直に答えてください。朱里さんは明彦の事をどう思ってるんですか」


 私は悩んでいた。

 もしも、ここで認められても困るもの。

 でも、朱里さんは私と明彦が付き合うことになったきっかけをくれた。

 明彦からそう聞いているけど、本当の事は分からない。

 どういう気持なのか、はっきりと聞いておきたかったの。

 

「私がアッキーの事をどう思ってるかが知りたいの?」

「女の子なら知りたいと思うのが普通ではないですか?」

「そうだねぇ。そっか、知りたいなら教えてあげる。私は、アッキーの事が……」


 彼女は軽い口調で私に言い放つ。


「アッキーが好きよ。恋愛の意味で愛してる」

「え?」

「本当なら私が彼の恋人になりたかった。今も諦めることなくその想いを抱き続けている。彼が好きだから、今日も、明日も、私は彼の傍にいたい」


 思わぬ発言に私は固まってしまった。

 

「どうしたの?」

「……冗談ですよね?」

「冗談?正直に話して欲しいって言ったのは夏姫さんじゃない?」


 朱里さんは意味深な言葉を呟きながら、空になった紅茶のカップをいじる。

 その反応だけじゃ本当かどうか判断できない。

 

「もう一度だけ聞きます。冗談ですよね?」

「同じ台詞を二回言うあたり、かなり動揺してる?冗談であってほしい、と願ってるだけ。キミとアッキーは実の兄妹じゃないのにどこか似てるわ」


 彼女は微笑を浮かべながら紅茶のおかわりを注文する。


「相手の反応に期待しすぎ。相手は自分の思うがままに行動して、発言してくれると思ってない?自分の望む応えしか求めてないのは悪い癖ね」

「……ホントに明彦が好きなんですか?」

「好きか嫌いか、どちらでしょう?キミが望むのはどちら?」

「私が望む方なんて、意味ないじゃないですか」


 彼女は「そうかなぁ?」と嫌味っぽく笑われる。


「夏姫さんは答えを求めてる。私の口から、『ごめんね、冗談だよ』って言葉を待ち望んでいる。だから、望む答えは言ってあげないよ?私は意地悪な性格をしてるかな?」

「……意地悪いと思いますよ」

「ふふっ。ねぇ、夏姫さん。私は恋愛に一度失望してるんだ。勝手に勘違いして、相手の想いに誤解して、自分の気持ちを偽った」


 彼女は急に真面目な顔をする。


「自分の気持ちに素直にならなきゃいけない。これが私が過去の恋愛で学んだ教訓」

「……朱里さんは恋愛が嫌いなんですか?」

「人を好きになること。他人を信じる事。私はきっと、そういう意味じゃ嫌いなの。傍にいて、安心できて、笑いあう事が出来る関係しか興味ない」

「恋愛は良い意味だけじゃないですよね」


 ようやく、紅茶のおかわりが運ばれてくる。

 彼女はそれを受け取ると、砂糖を入れる。

 

「失恋、浮気、嫉妬。人は恋をすると周りが見えなくなるもの。心を痛めることもある。心が満たされて幸せになることもあれば苦しむ事もある。それが恋愛だもの」

「……朱里さん」

「夏姫さんだって思い知ったでしょ?私の存在に気持ちが焦り、裏切られたのかもしれないと恐怖して、心の底からアッキーを信じられなくなった。違う?」


 何も言い返せずに黙り込んでしまう。

 紅茶に口づけながら「まるで、私が悪役みたい」と自嘲気味に言う。

 

「私は別に意地悪したいわけじゃないのよ」

「十分にひどい人だと思います」

「あははっ。それは誤解だってば。それじゃ、望む答えを言ってあげるから許して。ごめんね、さっきの言葉は冗談だよ?」

「……信じられません」


 コロコロと自分の発言を変える人の言葉は信じられない。

 

「ホント、ホント。私はアッキーが好き。恋愛の好きかどうか、それは分からない。でもね、傍にいて笑いあえることが幸せだと思う。これが本音よ」


 嘘か本当か、私は不満な顔で朱里さんを見つめることしかできなかった。


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