第15章:明日への翼《断章1》
【村雲夏姫】
「……んーっ」
私は珍しく寝起きのいい朝を迎えていた。
自分で言うのも何だけど、私は寝相が悪い。
ちゃんと起きられた事なんてほとんどないもん。
明彦が私と一緒に寝たがらないのはそう言う理由何だと最近気づいた。
でも、今日はしっかりと寝像も悪くなく、起きられたの。
「明彦は……まだ寝てる?」
そっと真横を見て見ると、彼はぐっすりと眠っている。
私が明彦の寝顔を見るのはあまりない。
「男の子の寝顔って可愛い♪」
そんな事を思いながら、私はほっぺたをつついてみる。
「……っ……」
彼は起きる気配もない。
「明彦、起きて?」
ゆさぶってみると、彼は小さく唸る。
ベッドに寝転がりながら、うっすらと目を開けた彼と目があう。
「あ?……もう、朝か?」
「朝だよ、明彦。目、覚めた?」
「夏姫!?俺より、早く夏姫が起きてるとは……」
そこで驚かれるとちょっと傷付く。
「おはよう、明彦」
「おぅ、おはよう。まだ6時半か。夏姫にしては朝が早いな」
「たまには早起きするよ。1年と2ヶ月ぶりくらい」
「……ダメじゃん。で、お前は何をしてたんだ?」
呆れた顔を見せる彼。
「明彦の寝顔を見て、悪戯をしようと思ってたの?」
「やめなさい。ていうか、女の寝顔ならともかく、むさくるしい男の寝顔なんて見てもつまらないだろう。まったく……」
「そんなことないよ」
そう呟いた明彦は起き上がろうとする。
「あっ、もう起きちゃうんだ?」
「起きるっての。起きないでベッドでごろごろしてろ、と?」
「ラブラブはしていたいかな」
私は彼の腕に抱きつく。
こうやって、彼にくっついてるだけでも私の心は満たされる。
好きな人の傍にいたい。
私はこの気持ちが満たされる感じが好きだ。
「……夏姫、腕を離してくれ」
「い・や・だ。もう少し、いいじゃない」
「……頼むからさ?」
困った顔をする彼。
「どうして?私がくっつくと嫌なの?」
軽く拗ねて見ると彼は大げさにため息をついた。
「あのなぁ、夏姫。自分が今、どんな状況か言ってみな」
「え?私?」
「……その辺が鈍いんだよなぁ、夏姫って。わざとか?わざとなのか?」
むぅ、明彦に鈍いと言われると何だか嫌だ。
私は自分の格好を見ながら状況を言葉にしてみる。
「パジャマ姿で明彦と同じベッドの中?」
「そこまで言ったら分かるよな?」
「ハッ!?ま、まさか……実は明彦って透けたネグリジェの方が好み!?」
明彦ってそっちの方が好みだったの?
「残念ながら可愛いネグリジェはもってません」
「誰も聞いてない!っていうか、勝手に俺をそっちの趣味にするな」
「だったら、何なの?男の子なんだからはっきり言いなさいっ!」
彼は私の肩を軽く掴みながら言ったんだ。
「あのなぁ、俺も普通の男なわけだ。いい加減、そんな無防備な格好で俺に触れるのは勘弁ねがいたい、と言いたいんだよ。何だ、それとも、夏姫は俺を誘惑してるのか?誘ってるのを乗った方がいいのか?」
「……へ?さ、誘う?誘惑?」
思わぬ言葉にちょっと動揺。
誘惑……つまり、そういうこと?
「ち、違うしっ!?明彦のエッチ!?」
「だから、夏姫のせいだろうが」
「私のせいじゃないもんっ。わ、私は……明彦と一緒にいたいだけで」
「だったら、その格好をどうにかしろ。それとも、ここで夏姫を襲っちゃってもいいわけだが?その辺の覚悟もできているということだよな?」
いきなり明彦が私に覆いかぶさるように身体を乗せてくる。
きしむベッドの音にドキッとしてしまう。
「え?ちょ、ちょっと、明彦?」
「……俺も年頃の男なわけで。好きな女が目の前でそんなに無謀にな姿をさらしているのに、手も出さないほどヘタレでもないつもりだ」
顔が近い、動けない~っ!?
手を押さえられてしまって、完全に押し倒されている状態に戸惑う。
明彦ってこんなキャラだっけ?
「んっ!?」
彼は私の唇を強引に奪う。
やだぁ、何か押し倒されてると変な気持ちになる。
明彦の事は好きだけど、そこまでの勇気はないっていうか。
「だ、ダメだよ」
「何がダメなんだ?俺達は好きあってるんだし、キス以上だって望めば……できる」
彼が私の首筋にキスをおとす。
うわぁ!?
明彦ってば、本気なの!?
ど、どうしよう。
今日の下着はあんまり可愛くないのに。
いや、違うってば……そこが問題じゃなくて。
えっと、私はまだそんな関係には早いのに!?
完全に動揺してしまう私を見つめていた彼は苦笑を浮かべた。
「なんてな。……お前も俺の理性を試すのはほどほどにしておけ」
「えー!?冗談だったの?」
「ということにしておく。一応、言っておくけどさ。次、そんなことしたら、もう我慢なんてしないから。俺も今の関係で手をだすつもりはないけども、理性が抑えられない事もあるんだって。その辺だけ、分かっておいてくれ」
明彦は私の耳元に囁いて、ベッドからおりる。
身体を解放された私は上半身だけ起き上がると、
「あ、あの、明彦?」
私はドキドキが止まらない状態で彼を見つめる。
身体が熱くて、顔が真っ赤に違いない。
「……お前が可愛過ぎて、何もできなことが辛い」
そう、彼も照れくさそうに呟いて、部屋から出ていく。
「……ふぇ?」
私は力が抜けて、ベッドに座ったまま立ち上がれない。
明彦があんな風に私にしてくるなんて思いもしなくて。
「……男の子は、大変だ」
改めて、明彦も男の子なんだって思い知らされた。
私だって彼の言葉を使うなら“お年頃の女の子”だ。
「明彦ともっと深い関係に……キス以上の事を……」
想像してしまって、私は「うわっ」と思わず両手で顔を覆う。
「だ、ダメ!?想像しちゃダメだってば!?」
初めての恋は私をおかしくしていく。
ううん、これが普通の事なのかもしれない。
人が人を好きになって。
キスだけじゃ満足できなくなって。
……それじゃ、その先は?
「とりあえず、起きよう」
私は首を横に振って考えるのをやめた。
今は、今の状況で私は満足してる。
それでいいし、それで満足できなくなった時に考えることにする。
「でも、明彦はどうなんだろう?」
私はよくても彼は……男の子だもん。
いろいろとあるよね、きっと。
そんな事を考えて立ち上がろうとする。
「あ、あれ?」
だけど、足に力が入らなくて、私はベッドから立ち上がれない。
「……うぅ、明彦のせいだよ」
私は布団にくるまって、わきあがる恥ずかしさに悩まされる。
でも、嫌じゃない。
好きな男の子から求められるって、嫌じゃないよ。
むしろ、それって嬉しいことだよね――。




