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第14章:優しい時間《断章3》

【村雲夏姫】


 人は好きな人から言われた言葉ひとつで不安が消えてしまうんだ。

 私はそんな事を実感していた。

 私の心に抱いた不安。

 初恋が叶うことが幸せなことなんだって。

 明彦との遠距離恋愛を考えていて、ちょうど不安が重なっていた。

 それを彼の言葉が打ち消してくれたの。


「ふふっ」

「何か嬉しそうだな、夏姫」

「嬉しいよ。ホントに嬉しいんだもの」


 家に戻ってからリビングでアイスケーキを食べながら私は微笑する。

 帰り際に明彦に買ってもらったんだ。

 アイスの触感、ケーキ風なのでしっかりとした味わい。

 アイスケーキは美味しいけれど、それで喜んでいるんじゃないの。

 明彦の気持ちが嬉しかったから喜んでいるんだ。


「明彦は私が好きだよね?」

「……おっ、そろそろカップ麺ができたかな」

「こらぁ、私のラブ発言を無視しない?!」


 夜食で作ってたラーメンを取りにキッチンに回れ右をする明彦。

 恋人(未満?)が愛の言葉を求めてるのに何て態度なの!?

 

「ホントに明彦ってツンデレなんだから」

「だから、それは誤解だ。俺はそんな変な属性は持っていない」

「だったら、答えてくれてもいいじゃん」

「そういうものは……雰囲気で言う言葉であって常に言う事じゃないし」


 彼はカップ麺を作りながら照れくさそうに答える。

 

「明彦って素直じゃないね」

「夏姫にだけは言われたくない台詞だ」

「私は素直だよ?素直だから言える。私は明彦が好き、大好き♪」


 彼は私の顔を見て、何とも言えない表情を見せてから、


「……あー、しまった。まだ3分経ってなかった。麺が微妙に固い」

「カップ麺はいいから、私を愛して欲しいの!」

「俺の今、一番大事な事はカップ麺を作る事だ。そして、夏姫にとって大事な事は」

「大事な事は?」


 彼は私の前のテーブルを指差しながら言った。


「溶けかけているアイスケーキを食べる事だろ。早く食わんと溶けるぞ」

「うぅっ、溶けかけてる……。こ、これは食べるけど」


 私は残りのケーキを食べながら拗ねる。


「ふんっ。いいもん、明彦がそういう態度を取るならこっちだって」

「別に変な態度を取ったつもりはないが」


 カップ麺を食べてのんびりとしている彼に私は言ってあげる。


「夏姫を不安になんてさせない。俺がさせない」

「な、夏姫さん!?」


 ラーメンを吹き出しそうになった明彦が私の方を向いた。


「夏姫は俺が幸せにするから不安なんて感じなくていい」

「やめて!?人のセリフを思い出さないで!?」

「そんな恥ずかしい台詞を億面もなく私に言ってくれた明彦が冷たい」

「そんな恥ずかしい台詞を改めて言われると恥ずかしいだろうが!?」


 私にとってその言葉は本当に嬉しかったんだ。

 明彦がこんなにも私を想ってくれているなんて思っていなかったから。

 彼の気持ち、素直に胸に届いた。


「夏姫のキスするときの顔が……」

「お願いだからもうやめてくれ!?羞恥プレイか!」

「むぎゅぅ……」


 口元を明彦に押さえられてしまう。

 顔が赤い彼を見るのは何だか楽しい。


「だったら答えてよ。私の事、好き?」

「……はぁ。好きだから大人しくしていてください」

「はーい。初めからそう言ってくれたらいいんだよ」

「まったく、たった一言を言わせるために俺を恥ずかしい思いをさせるな」


 明彦はそう言うけども、私には大事なことだ。


「でも、嬉しかった。明彦の気持ち、ちゃんと言葉にしてくれて」

「もう言わない。そんな事は言わないから」

「えー。どうして?いつだって言っていいんだよ?誰だって想いを言葉にして欲しいものじゃない。私は明彦からそんな台詞が欲しいの」


 愛されているんだって気持ちの確認がしたいの。

 大好きな人から好きって言われたいのは誰だってそうでしょ?

 明彦は拗ねてしまったのか、キッチンに戻っていく。


「もうっ、ホントに素直じゃないんだから」


 私はくすっと笑いながら彼を見つめる。

 明彦に恋をした事は間違いじゃない。

 彼なら大丈夫だ。

 私を裏切ったりしないし、私の事を大切にしてくれる。


「好きになった男の子が明彦でよかったよ」


 そんな事を思いながらアイスケーキの最後の一切れを口にした。

 冷たくて、甘い味を感じながら優しい時間を過ごしていたの――。


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