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第12章:超える一線《断章3》

【村雲夏姫】


 部屋にひとつのベッドで明彦と一緒に眠る。

 ちょっとせまいけど、触れ合う距離が近くて私は好きだ。


「明彦……?」


 しばらくして、尋ねて見ても返事はなし。

 眠っているのかな?

 でも、明彦の場合、寝たふりもあるし。

 とりあえず、ピタッと身体にすり寄ってみる。

 肌から伝わる体温が心地よくて気持ちいいの。


「……好き」


 ぎゅってしてながら、私は明彦に身をゆだねていた。

 昨日よりも、もっと幸せ。


「帰りたくないなぁ」


 あと3日、それで私達は離れ離れになってしまう。

 そう考えるとすごく嫌な気持ちになる。


「……帰らないで、ここで暮らそうかな」

「いや、そこは大人しく帰れよ」

「あっ。明彦、起きてるじゃない」

「……ぐぅ」


 やっぱり、寝たふりだったのね。

 私は背を向けている彼に問いかける。


「だって、明彦は寂しくないの?」

「電話すればいいだろ?」

「コミュニケーションがそれだけなのは嫌なの。遠距離恋愛って、大変だって聞くし。ハッ、まさか……私がいない間に朱里さんと深い仲に!?」

「なるわけないから……多分」

「今、多分って言った!?うぇーん、明彦の浮気者~っ」


 私が彼の背中を叩くと彼はため息をつきながら、


「冗談だって。朱里とは……色々とあるけど、多分、何も起こらないから」

「そう断言できるの?」

「多分ね」

「断言してくれないところが怪しい」


 私が拗ねていると、彼は苦笑いをした。

 

「夏姫ってさ、結構、嫉妬するんだな」

「当たり前じゃない。だって、朱里さんは……」


 明彦に対して好意を持っているっぽい。

 はっきりとした事は分からないけども、女の勘って言うので分かるの。


「それに、明彦だって朱里さんのこと、それなりに好きだし。明彦も告白だってするくらいだもん。もしも、私がここに来なかったら、絶対にクリスマスまでに恋人になってたに違いないよ。そうに違いない」

「どうだろうな?」


 はぐらかす口調の明彦に私はムッとしながら拗ねる。


「だから、心配なの。明彦の気持ちが移っちゃうのが怖いから」

「そこは俺を信用してくれ」


 遠距離恋愛なんて私には無理だ。

 だって、手を伸ばせばそこにいる。

 今の幸せを手放したくないもん。

 こんな風に触れることもできない。

 私自身が一番、不安になる。


「明彦は離れたままでもいいの?」

「……長期休暇には実家に帰るからさ」

「ホントに?」

「あぁ。クリスマスだって一緒に過ごせるように努力する。心配するな」


 明彦は私を安心させるためか、優しい声色で囁いた。

 実際はアルバイトもあるし、そう簡単じゃないのは分かる。


「それじゃ、満足なんてできないよ。明彦は本当にそれでいいの?」

「俺だってさびしいけどな。仕方ない事だろ」

「……分かった。それじゃ、卒業後にここに住むことにする」


 彼はこちらを向くと、「は?」と呆れた表情を見せた。


「だって、どちらにしても東京の専門学校にするつもりだったし。いいよね?」

「……い、いや、さすがにそれはどうかと?」

「なんで?明彦だって、私の事が好きなんでしょ?」


 私の気持ちとしてはそこを否定されるとすごく悲しくなる。


「夏姫の事は好きだが、一緒に住むのはまた別の問題だろ?」

「ぐすっ、明彦が冷たい……」

「えー。何か俺がダメ男的な扱いなんだが」

「だったら、私と一緒に暮らそう?ふたりで暮らした方が色々と良いに決まってる」


 私はただ、明彦に必要とされたかった。

 明彦も私と同じ気持ちでい続けてくれるっていう確証が欲しかったの。


「……分かった。夏姫の高校卒業後までは考えておくよ」

「ホントに?」

「そもそも、親が認めてくれるのか、それが目下の問題だからな」


 彼にとって大事なのはそこらしい。

 うーん、単純に恋を楽しんでいる私には明彦の悩みは理解しかしてあげられない。

 明彦の立場を考えたら、それが大事なのも分かるんだけどね。


「未来の話はここまで。ねぇ、明後日の土曜日は暇だよね?」


 明日は金曜、明後日は土曜日。

 そして、日曜日には私は東京から実家に帰る事になっているの。

 残り3日しかここにいられないんだ。

 明日は小桃さんとも別れの挨拶をしなきゃいけないから、明後日はデートをしたいと思っていたの。


「暇だけど、デートでもするか?」

「うんっ。当然、一緒に遊びたいよ。予定はないよね?バイトは?」

「いれてないな。そういや、何だかんだで、夏姫と遊びに行くって事はあんまりなかったよな。俺達、お互いに忙しかったわけだし」


 思い返せば、明彦は大学とバイト、私は小桃さんのパティスリーに通い、お互いに一緒にどこかへ遊びに行った記憶はほとんどない。


「デートらしいデートがしたいの」

「それじゃ、プランを考えておくよ」

「うんっ」


 デートの約束をして、私たちは時間も時間なので眠りにつくことに。

 明彦に寄り添いながら私は眠る。

 限られた時間、残された時間が少ないからすごく焦っている。

 ここにいられる最後の時まで、私は明彦の温もりを感じ続けていたい。

 もちろん、これが最後の別れじゃないのに。

 焦ってしまうのは、どうしてなのかな?

 その答えは私が自分に素直になった気持ちのせいだ。

 ここに来るまでは明彦に対して、素直になれていなかった。

 その気持ちの反動が今の私なんだって。

 もっと傍にいたいよ。


「……明彦が好き、大好きなの」


 そう呟いた声が彼に届いたか、どうか分からないけども。


「すぅ……」


 私はやがて、眠りに落ちていた。

 彼の夢を見られる事を祈りながら――。


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