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第11章:嫉妬する妹《断章3》

【村雲明彦】


 俺が家に戻ると、夏姫は大人しくソファーに座って待っていた。


「あっ、明彦。おかえり」


 そわそわとした様子の夏姫。

 俺の顔を見るとホッとした表情を浮かべる。


「さ、さっきのこと、何だったの?」

「その事を含めて、話をしようか」


 俺は夏姫の隣に座り、ソファーに並んで話をする。


「朱里とは恋人じゃない。これだけはまず言っておくな」

「本当に?違うの?」

「その、変な勘違いをさせたことは謝るよ。ごめんな」


 彼女を泣かせてしまったことに対する後悔。

 泣かせるつもりはなかったんだ。

 ただ、俺は彼女のホントの気持ちを知りたかっただけだから。


「明彦と朱里さんが付き合っていなくてよかった……」

「……」

「でも、告白しまくってたのはホントじゃないの?」


――ギクッ。


 俺は図星をつかれて首を横に振って否定する。


「そんな事はないぞ」

「嘘だ、今、目が泳いだもん。そうだよね、私がいなかったからきっと、ふたりは付き合ってたんじゃないかな?」

「それは……どうだろうな?」


 可能性としてありえたかもしれない。

 先ほどの朱里の行動を思い出して、俺はそんな事を思った。


「ありえた可能性は否定しない」


 でも、それは、もしもの事であり、あくまでも仮定の話だ。

 俺は夏姫が好きだ。

 この気持ちに気づいた。

 他の誰かを好きになる事はない。


「うぅ、明彦って地味にモテるんだ?」

「モテるも何も、朱里以外に女の子の友達は大学にいないから」

「嘘ついてない?誤魔化そうとしてない?他に誰かいたりしてない?」

「そんな事実はないよ」


 悲しいけど合コンも失敗続きだったし。

 朱里と出会う前なんて女に縁のない大学生活だったのだ。


「よく聞いて欲しい。夏姫、俺は……」


 そっと夏姫の手をとり、俺は想いを口にする。


「俺は夏姫が好きなんだ」

「えっ……?」

「女の子として、好きだ。それが俺の答えだよ」


 夏姫が実妹じゃないことも、俺への想いに悩んでいたことも。

 俺は夏姫の想いを知って、自分の想いに気づいた。

 

「夏姫?」


 夏姫が俯いてしまったので気になる。


「びっくりした……。私、夢見ている?」

「ちゃんとした現実だってば」

「だって、明彦が私を好きってこんなに簡単に言ってくれるはずがないよ。何年も、仲の悪い関係を続けてきたの。私、明彦に嫌われることばかりしてきた。ずっと、明彦にひどいことをしてきたの。それなのに……」


 今にも泣きそうな夏姫。

 どうやら、素直になってからは少し涙もろくなっているのかもしれない。

 その瞳にたまる涙に男は弱い。


「な、泣かないでくれ。夏姫に泣かれると弱いんだよ」

「う、うん。我慢する。だって、好きって言われて嬉しいんだもん」


 こちらに顔をあげた夏姫は嬉しそうに笑う。


「……私が好きなの?ずっと生意気だったよね?それなのに、どうして?」

「俺が好きだと思うようになったのは、お前がここに来てからだよ。家出した夏姫を捕まえて、この家で一緒に暮らしたこの1週間と少し。俺はお前の知らない所を知ることができた」


 夢を持ってたり、料理が上手だったり……寝相が悪いのは昔からだけど。

 些細なすれ違いで距離が離れていからこそ、それはすごく新鮮にも思えた。


「そうしてるうちにさ、俺もお前の事が気になっていたんだ。でも、妹だから意識しないようにしてきた。夏姫がホントの妹じゃないって知って、夏姫に告白されて……俺もお前が好きなんだって、その時になって気づいた」


 夏姫の泣き顔を見た時、俺は思った。

 この子を泣かせたくない、泣いて欲しくないって。


「最近の変化には正直、戸惑ったけど、俺も自分の気持ちに戸惑ったからな」


 俺にとっての夏姫への想い。


「そうなんだ。えへへっ、明彦が私を好きって言ってくれた。嬉しい、すごく嬉しい」


 俺に甘えるように夏姫が寄り添ってくる。


「……明彦」

「夏姫……」

「あれ?くんくん……何だか、服から香水の匂いがする」


――ギクッ!?


 それは先ほど、軽く朱里に抱き疲れた時についたものだろうか。

 

「これ、朱里さんのつけてた香水の匂いだ。ねぇ、明彦?本当に朱里さんとは何もないんだよね?何か変な関係だったとかじゃないよね?」

「ち、違うって……告白したのに、そこは信じてくれ」

「……だって、こんな風に香水がつくのって……抱きついてないと無理だし」


 やばい、夏姫に変な所で勘ぐられた。

 俺は念のために頬を拭うが口紅はついてなさそうだ。

 ここは甘い展開になるはずなのに、浮気を疑われた人みたいな展開になるなんて……。


「気にするな。ただの事故だ。夏姫、好きだぞ」


 俺は変に疑われないように夏姫を抱きしめた。

 彼女は不満そうながらも、その行為を受け入れる。


「まぁ、いいや。今回だけは許してあげる」

「……はい」

「次はないからね?疑われるようなことしちゃ許さないんだから」


 夏姫はギュッと抱きつくと、俺の胸に顔をうずめる。

 

「好き。明彦、大好き」

「夏姫……」


 想いを確認しあいながら、俺は大事な事を口にする。

 

「あのさ。夏姫、ひとつだけ言っておきたいんだが」

「なぁに?」

「恋人になるのだけは待ってくれないか?」


 俺の一言に夏姫は呆然とした様子を見せた。


「え?そ、それって、どうして?私じゃダメ?好きなのに恋人にはなれないの!?」

「ち、違う、落ち着け」

「落ちついて何かいられないよ。だって、せっかく両思いになれたのに恋人になれないってどういうことなの!?」


 夏姫が動揺する気持ちもよく分かる。

 けれど、これには理由があるんだ。


「今は、だ。俺だって、夏姫と恋人になりたいよ」

「だったら……何で……?」

「だからこそ、かな。俺と夏姫が両思いだってことを、両親に認めて欲しいから。あの人達に認めてもらわないといけないんだ」


 これはけじめの問題でもある。

 俺は養子で、両親にとっては子供のひとりなんだ。

 俺とは血の繋がりがないとはいえ、夏姫は両親にとって実の娘。

 子供同士が好きになったことを簡単に受け止められるかどうか。


「親に認めさせるってこと?」

「そうだ。俺から説明して、夏姫との関係を認めてもらわなきゃいけない。そうじゃないと、俺達は交際できない。分かるよな?」

「それは分かるけど。で、でも……」


 夏姫が不安になるのも分かる。

 こういうのはダメだとか言われて、別れさせられるってのがドラマや漫画の展開だ。

 素直に認めてしまえる理解のある親は少ないだろう。


「だけど、俺はあの人達に認めてもらいたい。時間がかかっても、俺が夏姫が好きだって事を理解して欲しいんだ。本当に夏姫が好きだから……」

「明彦。そこまで私の事を考えてくれてたんだ」


 夏姫はそう呟くと、彼女も決意をしてくれた。


「うん、分かった。恋人になるのは我慢する。ふたりが認めてくれたら恋人になれる。それでいいよ。それまでは……両思いでも兄妹のままでいい」

「夏姫には悪いって思ってる。けれど、大事なことだから」

「それだけ本気で私達の事を考えてくれているんだもん。嬉しいよ、明彦」


 夏姫が笑みを浮かべてくれるのでこちらも安心した。


「……でもね、それじゃ……き、キスはできないの?」


 頬を真っ赤にして夏姫は俺に言った。

 その可愛さに俺はドキっとさせられる。


「キスくらいなら、いいんじゃないかな?」

「ホント?だったら、しよ?」


 キスはお互いに初めての経験……だと思う。


「キス、しようか」


 見つめ合う俺達はやがてどちらからともなく唇を重ね合わせていた。

 初めて女の子と交わすキス。


「んぅっ……ぁっ……」


 小さく声を出す夏姫が可愛くて。

 柔らかな唇の感触に酔いしれながら、俺達の関係が大きく変わったのを実感する。


「好きだよ、明彦……私、今、人生で一番幸せだもん」


 甘く囁く夏姫に俺はもう一度、その愛らしい唇を奪った――。


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