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第1章:妹と暮らす?《断章2》

【村雲明彦】


 お風呂上がりの夏姫はタオルで髪を拭きながら、パジャマ姿で出てきた。

 家出をしたにしてはずいぶんと用意がいい。

 あの少ない荷物の一つか。


「そんなのも持っていたんだな」

「……だから、何?」


 夏姫が色々と用意していたのは理解した。

 計画性を持っての家出、突発性ではないということだ。

 俺は勝手に冷蔵庫を開けて適当に飲み物を出してやる。


「……お前、この5日間はどこにいて、どこに泊まっていたんだ?」

「そんなのアンタに話す必要ないでしょ」

「文句を言わずに話せ。お前が話すのを嫌がる家出理由をきいているわけじゃない。それくらいなら話せるだろ。それとも、最初から話を聞いてもいいんだが?」


 くっと彼女は嫌そうに顔を俯かせる。


「根掘り葉掘り聞くのは夏姫にとっても嫌なことだろう?」


 俺が逆の立場ならそうだ。

 彼女の性格的にも、そうされるくらいなら譲歩くらいはするはずだ。

 俺の言葉に彼女はムッとしつつも答えた。


「いろいろと、寝る場所くらいならお金を出せばあるでしょ。ホテルだったり、夜行バスの中だったり……。最初の3日間ほどは地元周辺、昨日、東京についたの」

「夜行バスか。何で東京に来た?」

「東京の方が動きがとりやすいじゃない。あんな田舎じゃ泊るのも、何をするも不自由だもの。それに、東京なら夜の一人歩きも珍しくはない」


 確かに田舎だと女の子の一人歩きも目立つ。

 結局、東京だろうか童顔の彼女にはあまり意味はなく警察の面倒になりかけていたが。

 夏姫は高校3年生だと言うのに、どう見ても女子中学生にしか見えない。

 体格もそうだが、顔が童顔で幼く見えるのだ。


「……それで俺に見つかり今に至るわけだ」

「アンタがこの街にいるなんて知らなかったのよ。東京は広いし、アンタとなんか会うこともないって思いこんでたのに……はぁ」


 世の中、考えているより狭いものだ。

 案外、思わぬ所で人と人は繋がっていたりする。


「てっきり、俺を頼りに東京に来たのだと思ったぞ」

「ありえない寝言はさっさと寝て言えば?」


 容赦なくそう告げる彼女。

 

「自分で言ってそう思ったよ」

「ふんっ」


 しれっとした態度で俺の部屋の方へと歩き出す。

 

「……でも、ひとつだけ。感謝はしておく。警察の世話にはなりたくなかったから」

「俺も目の前で妹が補導されるのは勘弁して欲しい」

「予想外だったのよ。私も、もう少し歳相応な外見をしていればよかったのに。まさか中学生に間違えられてアイツらに捕まるなんてね。屈辱だわ」


 それだけ見た目が子供っぽいと言う事なのだが素直に言えばパンチが飛んでくる。


「……じゃ、寝るわ」


 小さく彼女は俺の方を見ずにそう呟くと、扉を閉める。


「おやすみ、くらい言えよ」


 素っ気ない妹の態度は以前と何も変わらない。

 俺も早く寝ようとシャワーを浴びることにした。

 熱いシャワーを頭から浴びながら俺は考えていた。


「夏姫のやつ、俺を頼りに来たってわけではなさそうだな」


 アイツの態度から察するにその線は消えた。

 素直じゃない性格、と言うのを差し引いても兄を頼りにする妹ではない。


「……本当に無計画に都会へ出てきただけか」


 だとするのなら、偶然にも夏姫と会えたのは運が良かったとしか言えない。

 俺は別に夏姫とは不仲だし、あまり何か思う事はないが両親は心配していただろう。


「家出するくらいの出来事が何かあった。それが何なのか知らないが、早めに実家に戻してやらないとな。俺の家に置いておくわけにもいかない」


 この部屋は一人暮らし用の部屋で二人で暮らすには狭い。

 ていうか、俺も忙しいから正直に言えばさっさと夏姫には帰って欲しい。


「明日の話しあいで解決するだろ」


 俺は楽観的に考えてシャワーを止めて風呂から出た。

 風呂場で着替えていると見なれない物が洗面台に置かれている。

 女物のネックレス、花の形をした飾りがついている。


「夏姫の私物か?こういうの、アイツつけてたんだ」


 俺はどこかで見たような気がするそれを手にしてみた。


「まぁ、何でもいいや。明日、渡してやることにしよう」


 俺はそれを回収しておいた。

 下手に失くして騒がれても面倒だからな。

 俺は疲れもあって、ソファーに寝そべる。

 俺の部屋で寝ているはずの夏姫も大人しく寝ているようだ。


「……やれやれ。面倒事は勘弁してくれよ」


 リビングにいれば、逃げ出すことも容易ではないので安心だろう。






 翌朝、目が覚めた俺はいつもよりも起きるのが早かった。

 眠りにつくのが浅かったせいもあり、眠気がとれない。

 普段なら昼過ぎまで寝ていたいがそうも言えない。


「……寝ていてもしょうがないし、起きるか」


 俺はのろのろと起き上がり、洗面所で顔を洗ってくる。

 すっきりしたところで俺はちらっと俺の部屋の方を見た。


「逃げてないよな?」


 あの妹がここで逃亡する可能性がないわけではない。

 わざわざ家出した事を考えても、両親との対話を望んでるとも思えない。


「……逃げるより対話を選んで両親から譲歩を引き出す、というのも作戦かもしれないが、あの夏姫にそんな考えがあるとは思えない」


 頭が悪いわけではないが、夏姫はどうにも思った事を即行動するタイプだ。

 今回の事もムカつく事があり、荷物をまとめて外に出てみたと言う所だろう。

 感情に任せて家出をした結果、こうやって俺に捕まった。

 俺達はいがみ合っていても家族だし、他人よりは心を許せる間柄。

 少しくらい冷静になっているとは見ていいはずだ。


「とりあえず、確認だけしておくか」


 寝ているのなら起こすにはまだ早い。

 いるかどうかの確認だけはしておこうとドアを開けようとする。

 ガチャガチャ……。


「んっ?鍵がかかってるのか」


 どうやら、ドアの鍵が閉まっているために開けられない。

 俺を警戒しての行動か、まったく兄をなめるな。

 あんなお子様体型の妹に欲情する事もなければ、そんなつもりは毛頭ない。


「余計なことをさせるなよ、っと」


 俺は財布から10円玉を取り出すと鍵の場所にそっと触れさせて回す。

 この鍵は外からドライバーかお金で鍵の部分を回せば簡単に開くように出来ている。

 俺は鍵を開けるとベッドに寝ている夏姫を確認する。


「すぅ……」


 ぐっすりと熟睡中の夏姫は起きる気配もない。

 こっちはソファーで寝づらいってのに、ベッドを占拠しやがって。


「無防備に寝やがって。いい御身分だな」


 寝相の悪さのためか、布団がめくれてパジャマがのぞいてる。

 

「お腹出して寝ると風邪ひくぞ」


 白い肌をさらす妹に俺は呆れつつ、ずれた布団を直してやる。

 黙っていれば可愛い顔をしている、寝顔だけは可愛いのにな。

 性格が最悪なので容姿の良さを気にする事がない。


「起きるまで放っておくとするか」


 女の子ひとりで家出などして緊張感くらい張り詰めていただろう。

 それを考えると俺はどうにもいつものように強い態度とはいかない。

 俺は部屋を出るとカップラーメンでも食べながら、テレビをつけて見ていた。

 朝のニュースが一通り終わり、最後の占いコーナーへとさしかかる。

 俺の星座の運勢は3位と上々、ラッキーカラーは白。


『思わぬアクシデントに巻き込まれるかも。でも、対応次第では幸運に変わるよ』


 占いに罪はない、だが、あまりにもタイミングが悪い。

 思わぬアクシデント=家出妹の確保。

 それをどうしろと言うのだ。


「そうだ、一応、母さんに話だけでも聞いておくか」


 俺はそう思って携帯電話を手にとろうとしたその時、


「ちょ、ちょっと、どういうつもりなのよ……!!」


 何とも言えない驚いた顔をした妹が部屋から出てくる。


「私が寝ている間に私の部屋に入ったでしょ!」

「いつからお前の部屋になったのか知らないが、何でそう思う?」

「だ、だって、鍵開いていたし、いつもはグチャってなってるはずの布団がちゃんと私の上にかかっていたのよ。そんなのありえないわっ」

「自分の寝相の悪さにそこまで自信を持って言える奴を俺は初めて見たよ」


 そこまで自虐して、寝相の悪さを気にしなくてもいいだろうに。


「どうなのよ?アンタが部屋に入って、そ、その、布団とか触ったに決まってる」

「んー。まぁな。だが、そんなことはどうもでいい」

「どうでもよくないわよ。女の子の寝顔を見ておいてよく言うわ」


 朝からうるさい妹に俺は呆れつつも、通常通りでホッとした。

 

「はいはい。そんなに言うほど可愛い寝顔じゃなかったから安心しろ」

「そこはお世辞でも可愛くて天使みたいだって言いなさいよ!」

「見れば怒るくせに、褒めて欲しいとはどれだけお前は自己中なんだ」


 それが乙女心だと言うのなら俺は一生、乙女心など分からない男だ。


「もぅ、最悪……。あ、アンタになんか寝顔を見られるなんて」


 顔を赤らめて恥ずかしがり、怒りを見せる妹。

 怒るか、恥ずかしがるか、どちらかにして欲しいぜ。


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