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第9章:真実、告白《断章2》

【村雲明彦】


 家に帰った俺を待ちうけていたのは……。


「おかえりなさいっ」


 満面の笑みの妹。

 ……待て、これは夢か、幻か?


「どこに行ってたの?」

「……実家に戻ってた。話があるって言われてな」

「そうなんだ。……あっ。ご飯は?もう食べた?」


 俺は「まだ」と答えるとすぐに用意をしてくれる。

 あの生意気を絵にかいたような妹がここまで素直になるものなのか?


「何だろう、すごく夏姫が丸くなった感があるのだが」


 とりあえず、リビングに行くと夕食の準備がしてある。

 テーブルの上には美味しそうなケーキがのっていた。


「あれ、ケーキか?」

「うんっ。明彦のために作ってみたの。まずは夕食の方を食べて」

「あ、うん」

「いただきます」


 今日のメニューは俺が好きな料理ばかりだ。

 ……夏姫、やけに機嫌が良いのは気のせいではない。

 昨日、泣いて謝って来た彼女の顔を思い出す。


「アイツのあんな顔は見たくないから」


 今は様子を見ることにするか。






「本当にごめんなさいっ」


 夕食後、夏姫は俺に頭を下げてきた。

 

「えっと、夏姫?」

「私、ずっと明彦の事……誤解していたの」

「誤解ってどういうことだ?」


 夏姫は全ての始まりの日について語りだす。

 

「明彦が14歳の誕生日。私、両親が話しているのを聞いたの」

「俺の事についてか?」

「うん。本当の兄じゃなくて、他人だってことを……」


 当時の彼女がそれがどれほど傷付いたのか。


「私、ショックだった。そして、他人である明彦が怖いって思って」

「……それで、あんなことに?」

「私自身、子供だったから……今もそうだけど」


 ちょうど夏姫も思春期と言うか、反抗期に入ったタイミングで荒れたわけだ。


「俺の事を嫌ってた理由は分かったよ」

「ごめんなさい。嫌ってたんじゃないの」

「違うのか?」

「他人だって言われて、ショックだったのはきっと……」


 黙りこんでしまう夏姫に俺はどう言葉をかけていいのか迷う。

 彼女にとっても、あの日から苦しんでいたのかもしれない。

 血の繋がらない兄がいる。

 真実も分からずにいた夏姫にとっては複雑だったに違いない。

 

「私ね、明彦が好きなんだと思う」

「……は?」


 複雑だったに違いない……?


「だから、明彦が好きなのっ!!」


 顔を真っ赤にさせて俺に告白する夏姫。

 俺は思わぬ事で思考がフリーズしていた。


「えっと……夏姫?」

「……小さい頃から兄としてなんか見てなかった。男の子として好きだったの」

「お、おいおい……?」

「だから、実兄じゃないって知って。私、どうすればいいか分からなくて。でも、


 昨日、私は両親から話を聞いたの。本当に血の繋がりがないって」

 昨日の謝罪の意味はそれなのか?

 きっとこの子は不安だったんだろう。

 目の前の男は兄じゃないかもしれない。

 じゃないかもしれない、その言葉に悩まされて続けてきたんだ。

 

「……って、俺が好き!?」

「うん。好き……今ならはっきり言える。私は明彦が好き」


 気持ちが吹っ切れたんだろうか。

 ここまで素直に夏姫に告白されるとは……。

 そりゃ、可愛い女の子ではあるけど、俺にとっては妹だし。


「明彦がすぐに私を女の子扱いしてくれるなんて思ってないよ」

「夏姫……」

「だって、明彦にとっては昨日今日知った事でしょう。だから、時間をあげる。私がここから家に帰るまでに答えが欲しいの」

「答えって、俺との関係の事か?」


 彼女は頷くと、笑みを浮かべて言うんだ。


「私は……明彦と恋人になりたいんだ」

「こ、恋人!?」

「好きになってくれたら嬉しいな」


 信じられない現実が目の前にある。

 あの夏姫が俺に好きだと告白し、恋人になりたいんだと言う。


「マジかよ、そんなバカな……」


 俺は混乱状況の中、夏姫手作りのケーキを食べる。

 小桃さんに教えてもらったケーキらしくて、いつもよりも美味しく思えた。


「とりあえず、仲直りがしたいな」

「あ、あぁ……そっちなら、気にしなくて良いから」

「本当に?明彦は私を許してくれるの?」

「許すも何も……夏姫は悪くなんてない」


 ただ、全ての誤解と言えない真実があっただけ。

 それに今のこの子を見たら許せないわけがない。


「ありがとう」


 微笑む夏姫が可愛い。

 夏姫ってこんなに可愛かったっけ。


「私、お風呂に入ってくるから」


 そう言ってお風呂へ行ってしまう。

 残された俺は深いため息をついた。


「あの夏姫が……ここまで変わるとは……」


 ある意味、衝撃と言うしかあるまい。


「しかも、俺が好き?ありえないだろ?」


 昨日までの夏姫を知るのなら、誰が俺を好きだと思うか?

 そりゃ、あの子にも事情があったんだけどな。


「落ち着け、俺……今、混乱しすぎだ」


 俺は残りのケーキを食べながら夏姫の事を考える。

 甘いクリームの味。

 口に残る甘さを感じながら俺は呟いた。


「人が変わったようだ。というか、まるで別人。ホントにあの夏姫なのか?」


 中学時代の素直な時代の夏姫が成長したらあんな感じだろう。

 ……今までのやさぐれ妹の印象が強すぎて忘れていた。

 夏姫の滞在日時は残り6日。

 それまでに俺は答えを出せるのだろうか?

 その時の俺は気づいていなかったのだ。

 あの夏姫がただ、告白してくるだけですむはずがないことを――。


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