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第7章:兄と妹《断章1》

【村雲明彦】


 兄と妹の関係が改善しつつあると思うのは俺だけだろうか?


「何を難しい顔をして悩んでるの、アッキー?」


 大学の食堂での昼食中、いきなり背後から朱里に声をかけられた。

 俺は食べかけていたラーメンの箸を止める。


「何だ、朱里か。いきなり、背後から声をかけるのはやめてくれ」

「ふふっ、可愛い声でびっくりした?」

「そう言うことにしておいてやる。朱里はもう昼食は終わったのか?」

「まぁね。最近、違う学科の女の子と友達になれたの」


 それは彼女にとっては大いなる前進だろう。

 学科が違うとはいえ、女友達が出来るのは良いことだ。


「朱里……」

「ん、どうしたの、アッキー?」

「誰か良い子がいたら紹介してくれよな?」

「アッキー、そればっかり。この間の子はどうしたのよ?」


 うぐっ、まだ覚えていたのか。

 朱里には夏姫と一緒にいるところを見つかってるからな。


「アレはアレで、ごにょごにょなのだよ」

「よく分からないけど、アッキーってそんなに彼女が欲しいワケ?」

「大学生になって彼女の一人もいないってのは寂しいだろ?」

「私は別に彼氏を望んでないけどね」


 今時の女子大生の発言とは思えない台詞だ。

 朱里に恋愛感情を目覚めさせる方と俺が地道に恋人を探す方、どちらが早いだろう。


「よし、朱里。何度目かの告白だが、俺と付き合おう」

「何度目かのごめんだけど、無理。私、アッキーは好きだけど、恋愛の好きじゃない」

「……ですよねぇ」

「そうなのですよ」


 なんて軽い口調で言い合う時点で俺と彼女の恋は発展しそうにない。

 まったく、朱里は容姿も性格も相性もいいのに。

 

「前向きに考えてはくれないか?」

「どう考えても、私は誰かを好きになるとは思えないし」

「俺が恋愛を教えてあげるってのは?」

「……アッキーって今まで恋人がいた経験があるの?」


 致命的なカウンターをくらい、俺は戦意を喪失した。

 

「経験値のない人に教えられても困るわ」

「もう言わないで。俺のHPは1だ」


 恋愛感情が欠落しているとは何たる残念。

 俺に惚れさせる、というのはどうだろう?

 ……無理だな、うん、これは諦めた方がよさそうだ。


「そうだ、アッキー?今日は講義が終わったら暇?」

「暇だけど?」


 今日はバイトも休みで特にする事もない。

 

「だったら、ちょっと私に付き合ってよ」

「デートのお誘い?」

「ううん、全然違う」

「そこは期待を持たせてくれ。期待を持たせる小悪魔っぷりをみせてくれ」


 本当にあらゆる意味でこの子はフラグブレイカーだな。


「だから、私にそーいうの期待するのが間違いなんだってば」

「……で、何の用なんだよ?」

「甘い物でも食べに行かない?」

「やっぱり、デートじゃん」


 男と女が遊びに行く事をデートと呼ばず何と呼ぶ?


「違うと思う。もう、アッキーがそう思いたいならそれでいいけど」

「そう思う事にする」

「……アッキーって見る目ないね?私なんかより、他にいい子いそうなのに」


 恋愛感情に疎いという欠点がなければ、朱里に俺は惚れている。

 それは別としても、朱里と一緒にいるのは楽しいからな。


「それじゃ、終わったら連絡するよ」

「うんっ」


 4限目は互いにとってる科目が違うのだ。

 朱里とデートか。


「これは本格的に彼女の攻略をしてみるのはどうだろう」


 案外、頑張ってみれば上手く行ける気がするのだ。


「朱里攻略、ちょいと頑張ってみますか」


 俺も本気で可愛い彼女が欲しいんだよな。





 大学が終わり、俺は朱里を連れて繁華街を歩いていた。

 朱里は「甘いものが食べたい」と俺を連れまわしていく。

 クレープ屋からケーキ屋までジャンルもさまざまだ。

 何かうちの妹と行動範囲が同じなのは気のせいか。


「朱里って、甘党だっけ?」

「甘いものが嫌いな女の子なんていないでしょ?」

「そういうものか」

「うん。食べ過ぎて太るのは嫌だけどね」


 細身の朱里が言うと他の女の子には嫌味でしかない発言だ。


「最近、私が気に入ってるお店はね……」


 朱里が俺を連れて来たのは「Little Peach」というお店だ。

 店内は女性が好みそうなケーキが並んでいる。


「いらっしゃいませ。……あら?」


 店員のお姉さんが俺の顔を見て、不思議そうな顔をする。

 綺麗なお姉さんだが、俺は初対面だと思うんだけど。


「あら?ら?」


 俺と朱里を見比べられても困るのだが。


「もしかして……夏姫ちゃんの?」

「え?夏姫?」


 思わぬ所で出てきた名前にドキッとする。

 隣の朱里は「夏姫?」と尋ね返される。

 待て、まさかこの店は……。


「小桃さん、そろそろ私は帰ります……ね?」


 お店の奥から出てきたのは正真正銘、俺の妹だった。

 そうか、この店が最近、夏姫が通いつめてる店だったのか!?


「はぁ?明彦?何でアンタがここに……?」

「夏姫こそ、こんなところにいたとは」

「私がどこにいてもいいでしょうが。あれ?」

「……あっ。この前、アッキーと一緒にいた女の子じゃない」


 そして、朱里も彼女を思い出したらしい。

 不機嫌そうな夏姫が俺に言い放った。


「アンタが女連れなんて良い御身分ね?誰、その人?」

「アッキー?この子、誰なの?」


 夏姫と朱里、ふたり同時に尋ねられて俺はどう説明しようか悩む。

 なぜだろう、やましい事がひとつもないのにこの微妙な空気は?


「……説明はあえてしない、というわけには?」

「ちゃんとした説明をしなさい。当然でしょ」

「ですよね。分かってますよ」


 俺の女運、そろそろプラスになってくれないだろうか?


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