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第1章:妹と暮らす?《断章1》

【村雲明彦】


 俺の妹、夏姫が家出をしたとの情報を聞いてから数時間。

 多少の心配をしていた俺なのだが、思いもよらない場所で見つかった。

 我が家のある地方から程遠い東京のど真ん中。

 目の前で警察に補導寸前の少女がまさかうちの妹だと誰が予想できただろうか。


「えぇ!?何でお前がここにいるんだよ、夏姫!?」


 彼女がここにいる理由がワケが分からない。


「――最悪、こんな場所で“アンタ”に出会うなんて」


 嫌そうな顔をしやがって、俺も嫌だっての。


「夏姫っ。お前、今までどこに……っと、その前に」


 俺は呆気にとられる警察官に説明をする。

 さすがにこのまま妹を連れて行かれるのも悪い。

 彼女が家出中で探していた事を告げると彼らも納得してくれたようだ。


「キミ、家族を困らせてはいけないよ。さっさと家に帰りなさい」

「本当にご迷惑をかけました」

「妹さんが無事に見つかってよかったね」


 俺が頭を下げるのを妹は「余計な事をしなくても」と愚痴る。

 

「……誰のためにこんな事をしてやってると思ってるんだ」


 警察官達が立ち去ってから俺は妹に向き合う。


「おい、夏姫。親から連絡があった。お前、家出をしてるそうだな」

「ふんっ。そんなの、アンタに言う必要ある?」

「……相変わらず可愛くない奴だ。まぁいい。とりあえず、飯でも食いに行くぞ」


 こんな場所で立ち話して言う内容でもない。

 腹も減ったので無理やりにも彼女をファミレスに連れて行く。

 彼女もお腹が空いていたのか、逆らうことなく俺についてきた。

 ファミレスで適当なメニューを注文する。


「俺はステーキにしておくか。夏姫は何がいい?何でもいいから食べたいものを頼め」

「このハンバーグセットとドリンクバー、デザートは……」


 こちらのおごりと知るや、好き放題に注文する彼女。

 東京に来るだけでお金の心配もあったのだろう。

 ちゃんと食事も食べていないのかもしれない。


「俺、ちょっとトイレに行くから。逃げるなよ?」

「……ふんっ」


 今、逃げても意味はないと悟ったらしい。

 既に12時を過ぎた深夜で今晩の寝床もないのだ。

 そして、手持ちのお金も残り少ないと予想できる。

 ここで無理やり逃げても意味はない。

 とはいえ、明日の朝辺りが怪しいのでそちらは警戒しておくことにしよう。

 俺はトイレに行くふりをして、親に連絡を入れておく。


「あっ、母さん。こんな夜遅くで悪い。実は夏姫だけど、見つかったんだ」

『え?本当に?東京にいたの?』


 彼らも心配していたのかホッとした様子だ。

 ったく、夏姫も迷惑をかけているんじゃないよ。

 

「あぁ、何でか知らないけど、夏姫をこっちで見つけて、今、一緒に飯を食ってる所。家出理由とか、全然話さないけど、今晩はうちで泊めるから」

『分かったわ。あの子、元気そう?』

「顔色を見るだけなら元気そうだよ。逃げ出さないようにだけは気をつけるよ。あと、詳しい話は明日にでもするから。それまでこっちで世話するよ」


 なぜ家出をしたのか、なんて彼女から話すとは思えない。


『……夏姫は明彦を頼りにそちらへ行ったのかしら?』

「俺を?ありえないって。俺の顔をみるやいなや、嫌な顔をしやがったんだぞ」

『それでも、あの子が貴方を頼りにしているのは事実よ』


 俺を頼りにしてるって?


「母さんから見れば俺と夏姫は仲良く見えるのだろうか?」


 俺から言わせてもらうならばありえないとしか言いようがない。

 兄妹仲は悪いし、今も悪態つく妹と言い争いをしている。

 トイレから戻ったら、夏姫は不機嫌な顔をしていた。


「アンタのことだもの、どうせ親に連絡したんでしょ?」


 と、見抜かれていたようだ。

 それでも、すぐに逃げ出す気配がないのはこいつも落ち着いている証拠だろう。


「聞きたいことは色々とあるが、今は飯を食え」

「……」


 彼女は黙り込んだままに食事を始める。

 お腹がすいていたのは事実のようで、すぐにデザートまで完食。

 どこかホッとした様子を見せる彼女に俺は何も言わずにいた。

 可愛げなんてない妹でも、自分の妹であることに変わりはない。

 気にしてやるのは当然のことだろう。






 帰り際にコンビニによって彼女はいくつかの物を買う。

 着替えなどは鞄に入ってるようだが、女の子にはいろいろと必要らしい。


「……あとは、これとこれ。それとプリン」

「いろいろと、ね?プリンはお前のおやつだろ」

「そんなのはいいからお金を払って」


 さらにここまで俺持ちかよ。

 プリンが好物なのは小さな頃から変わらないようだ。


「お前、ここまできて金も尽きたのか?」


 俺の言葉を無視する妹。

 元々バイトもしていないはず、手持ちの金は限られているだろう。

 まったく、素直じゃないって言うか。

 俺はそれを払ってやり、俺の家に彼女を連れていくことにした。


「俺の住んでるマンションはここだ」

「へぇ、見かけはいいじゃない。まだ新しいの?」

「それなりに。学生向けだから家賃も低めだし、良い物件だよ」


 これで駅までもう少し近ければ言う事なしなのだが。

 俺が部屋のカギを開けると、まず最初に言った言葉。


「うわっ、汚い。女っ気もなさそうだし」

「余計な御世話だ。文句は良いから中に入れ」


 言うほど汚くはないつもりだ。

 さほどゴミが散らかっているわけでもない。


「……リビングと部屋が一部屋?わりと狭いんだね」

「一人暮らしの部屋だとこんなものだ」

「ふーん。それじゃ、新しいシーツをだして」


 俺は言われるがままに新品のシーツを出してやると、彼女は俺の部屋を勝手に開けてベッドをいじり始める。


「おい、何をやってる?」

「ベッドメイキング。見て分からない?」

「それは分かるが、何で……おい、待て。まさか?」


 嫌な予感は的中、彼女は横暴なまでの口調で言い切った。


「今日はここで私が寝るわ。アンタはその辺で寝れば?」

「……人様の家に上がり込んで来て、この堂々とした態度は何なのだ」

「それとも女の子にその辺で寝ろ、って言うの?」


 仕方ない。ここは譲歩はしてやろう。


「ただし、部屋の物には触るな」

「別にアンタの性癖にも趣味にも興味ない。実家であったみたいに、迂闊に触って変なDVDとか本とか見つけたくないもの」


 そう呟くと彼女は足元のDVDを俺の方へと蹴り飛ばす。


「おい、人の部屋のものに乱暴にするなよ」

「ちっ……変なモノを見せないで。少しだけ時間をあげるわ。シャワー浴びてくる」


 そう言って舌打ちをして部屋を出て行く夏姫。

 なるほど、夏姫が不機嫌になる理由が分かった。

 色々とその辺りに置いてあったアダルト系DVDや雑誌を仕方なく箱にまとめて詰め込み、押し入れの中に突っ込んでおく。


「妹が来ると分かっていれば多少は整理していたのに。ていうか、アイツの荷物、結構少ないな。こんなものかよ」


 少なくとも5日間、行方をくらましたにしては手荷物はほとんどない。

 替えの着替え程度が入ったバッグがひとつ。


「うーん。夏姫は何をしに家出をしたんだ?」


 理由くらいはあるはずなのだ。

 わざわざ家出をしてまで何か意思表示を親に見せたかったとか?


「……まぁ、その辺は後で適当に聞く事にしよう」


 俺は部屋の片づけを終えて、リビングへと出る。

 夏姫が俺の部屋を使うと言う事は俺の寝床はこのソファーと言うことになる。

 寝心地悪いからあまり寝たくないが仕方ない。

 予備の布団を用意して俺は簡単な寝床を作っていた。


「……タオル、どこ?」


 カチャッと風呂場の扉が開いて、こちらへ顔だけを覗かせる夏姫。


「タオル?タオルならその洗面台の下に……」

「ちょっと!?こっちに近づかないでよ、変態っ!」

「おっ、悪い。まだ裸だったか。その洗面台の下の棚に入ってるのを使え」


 慌てて扉の影に隠れる彼女に教えてやる。

 ……ちらっとお尻見ちゃったよ。


「妹の裸なんて見る気もしない。心配するな」

「……ふんっ。この変態、油断ならないわ」

「無防備だったお前が悪いんだろうが。俺を責められても困る」


 というか、タオルの場所を教えてなかった俺も悪いけどさ。

 俺は深いため息をついてソファーにもたれる。

 妹とこうやって接するのは久々な事もあり、少し疲れる。

 そういや、夏休みも実家に帰ったが彼女とはほとんど過ごさなかったからなぁ。


「とりあえずは見つかった事だけ安心しておくとしよう。後はどうにでもなるか」


 変な犯罪に巻き込まれていなかったのは良しとしておこう。


「もしかして、ホントに俺を頼って東京に出て来たとか?」


 そうだとすると少しだけ嬉しい気持ちはあるが、あの夏姫だけにありえなさそうだ。


「何にしても面倒なことになりそうだな」


 これから俺を巻き込むある事件が起きることで俺は後悔をするとは知らない――。


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