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第5章:夢への一歩《断章1》

【村雲明彦】


 大学の授業中、教授に見つからないように小声で女の子が俺に話しかけてくる。


「昨日、アッキーが可愛い女の子と一緒に歩いてたのは目撃済みなんだからね?その子は誰かしら?すごく気になる」

「さぁ、誰だろうな。それと、アッキー言うな」

「可愛いからいいじゃない。それと誰か言わないとこのレポート、破っちゃうわよ」


 俺のレポートをモノ質にとり、俺を脅す目の前の少女。

 

「……卑怯者って呼んでいいっすか?」

「あら、女の子はいつだってずるいもの。ずるい女ほど、可愛いものでしょ?」


 しれっと言いやがる彼女に俺は呆れつつあった。

 彼女は加藤朱里(かとう しゅり)。

 “あかり”ではなく“しゅり”と読ませる。

 明るめの茶髪が印象的な少女である。

 俺の大学で唯一の女子の知り合い。

 悲しいがこの学科は本当に女子がほとんどいないのだ。

 俺自身、彼女と知り合ったのはここ数週間のこと。

 夏季休暇前のテストで同じようにテスト勉強をしていた時に、向こうから声を掛けられて知り合ったと言う微妙な間柄だった。

 

『ねぇねぇ、この問題が分からないんだけど教えてくれないかな?』


 分からない所があるというので適当に教えてあげて、それから何度か同じ図書館で勉強をしたり、雑談したりした仲だった。


『アッキーは頭がいいね。教え方も上手だし』

『そんなことないよ』

『それに優しくて面倒見もいい。そういう男の子、好きだな』


 とにかく笑顔の可愛い子だった。

 滅多に訪れない女子との触れ合いに心を和ませていた。

 テストが終わり、それで終わると思っていた関係が、休暇明け、さっそく親しげに話しかけてきてくれた時は嬉しかったものさ。

 何せ、今までの人生で女の子とほとんど縁と言うものがなかったのだから。

 ……とはいえ、別に恋愛に発展する気配はない。

 ただの友人程度の関係だ、それでも女友達は大事にするべきだろう。

 そんな朱里に俺は昨日、妹と一緒にいる所を見つかったらしい。

 多分、マンション近くのコンビニによった時に見つかったんだと思う。

 あの辺は朱里の住むマンションも近いのだ。


「今まで女っ気のなかったアッキーに女の影が、何て言えば芸能レポーター並に気になる話題じゃない。可愛い子だったよね。年下かな。それとも……」

「ご、合コンで知り合った子だ。家が近いらしくて送って行っただけだよ」

「ふーん。その様子だと合コンは失敗したのかな?」

「それは余計なお世話だ。ほら、いいからレポートを返してくれ」


 書きかけのレポートを何とか無事に回収する。

 

「それは残念な結果ですねぇ」

「笑うなよ。もうっ」


 朱里はくすっと可愛く笑う。

 

「一度や二度の失敗で諦めちゃダメだよ?」

「それを笑って言うのはどうかと思う」

「え?笑ってる?自覚なかったなぁ、ごめんね?悪気はないんだよ?」

「だから笑って言うなってば。ちくしょう」


 あー、この子、顔は可愛いのになぁ。

 最初は俺も美少女と知り合いになれたと喜んだが、中身は悪戯好きの女子大生だ。


「アッキーってばホント、女の子相手だとダメだ」

「うるさいなぁ。どうにも運がないだけだ」


 朱里が恋愛相手になってくれると言う展開がくれば悪くはない。

 だが、あいにくと朱里は恋愛に全く興味がない。

 男女交際は中学で卒業したらしい。

 早すぎだろう。

 それゆえに男女気にすることなく俺と話せているわけだが、何とも惜しい事だ。


「この際だ。朱里、可愛い子を紹介してくれ」

「実家のある福岡の子なら紹介してあげられるけど?」

「遠距離は無理なので諦めます」


 大学に女の子が少ないと言う事は、朱里の女友達も必然的に少ないのだ。


「お友達を紹介するほどいないのが私の切なる悩みです。理系女子は少ないし」


 バイトもしていないらしいので、こちらでは女の知り合いはあまりいないそうだ。

 そういうのは寂しくないかと尋ねると、こちらに上京してる姉と二人暮らしなので寂しくないと言っていた。


「じゃ、妥協して朱里と付き合うのはどうだ?」

「ごめんなさい。私、アッキーのような子は友達として頼りになるけど、好みじゃないの。気持ちだけは嬉しいから受け取るね。これからもいい友達でいてください」

「冗談を素で返されるとめっちゃ傷つくわ!?」


 お友達でいてくれと言われることほど辛いものはない。


「あははっ。アッキー、いつかいい恋人ができるといいね」

「俺の心配より、お前の方が心配だぞ」

「私はいいの。別に恋愛なんて興味ないから」


 朱里に俺は微笑されてしまう。


「いい年頃の娘が枯れた発言しないでくれ」

「世間一般みたいに合コンばかりして、相手を探しまくるのも嫌なのよ。私は恋をするのなら真剣な恋しかしないの。遊びは嫌なの」

「……さいですか」


 普通の女子大生みたいに遊びまくられても嫌なのだけど。

 朱里は朱里のままでいてもらいたいものだ。

 とにかく、妹の事は何とか誤魔化せた、はず。

 あんまりアイツの事は知られたくないんだよな。

 これからは外を出歩く時は気をつける事にしよう。

 

「おっと、そろそろ講義のノートを書かないと」

「あとで写させて。あの教授、書いて消すのが早いから写すのが面倒なの」

「朱里ってば、面倒くさがり屋だな」

「信頼出来るお友達がいると言って欲しいな」


 そういう何気ない言い方が俺にはドキッとさせられる。

 相手に他意がないと分かってるのに。

 

「はぁ、朱里よ、ちょっと恋愛心に目覚めてくれ」

「世界が平和になるのとどちらが先かな?」

「そこまで遠いのか!?」


 俺はノートを書き写しながら、朱里の恋愛を憂いていた。

 そういや、うちの妹はどこで何をしてるんだろうな。

 どうせ、洋菓子店巡りをしているのだと思う。

 本当にお菓子作りが好きだよなぁ。

 あの子がパティシエになる夢を叶えられることを兄として祈ってやる。

 ……目下の心配はアイツのせいで膨れ上がる生活費の方だな、はぁ。

 

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