奇怪②
翌朝。
教室に入ってみると、若干の違和感があった。
クラスメートらはいつもと変わらず過ごしている。前と同じ話題で盛り上がっている奴までいる。おい。絶対意味ない会話だろそれ。
違和感はそこではない。
「あ、揺おはよ」
「……うっす」
挨拶してきたのは陽目葵である。そうだ彼女だ。平生なら数人の女子に囲まれているはずの陽目が、何故授業の予習に取り組んでいる?
「……取り巻き連中はいないのか?」
「取り巻き? 何それ?」
本人は意識してないらしく、僅かに小首を傾げる。まあ、当たり前の出来事だから意識しないのは当然か。俺もクラスメートの名前を覚えようと意識してないからできてないのと同じだな。全然違うか。
「あ、そうだ揺。ここが分かんないんだけどさ」
「教えないぞ」
「……分からないんだ」
「バッカお前滅茶苦茶理解してるよ」
「なら教えてよ」
「それなら……っと、危ねえ」
もう少しで乗せられるところだった。ギリギリセーフ。とんだ策士だぜ。
「だから教えないって。自分で考えろ」
「えー」
ぶーっと膨れる陽目の横を通りすぎて、ほぼ中央の自席に座る。
俺が他人に勉強を教えないのは学校には教師という教育の専門家がいるからである。ならばそちらを頼るべきだろう。それに、もしも教えて結果が出なかったら俺に責任を押し付けてくるかもしれない。そんな割に合わないリスクは負うべきではない。
予習は昨日の段階で既に済ましている。あとは授業を待つだけである。暇をもて余した時は友達と話したりだとか何とかするのが普通なのだろうが、そんなのはただの時間の浪費だ。『タイム・イズ・マネー』という格言の通り、時間とはお金と同価値である。つまり、時間を無駄なく使う俺は超倹約家ということである。逆に周りの連中は浪費家だ。そんなんじゃ将来結婚できないぞ。けど俺はそもそも彼女ができないのだから、結婚云々ではないのだけれど。
ま、まあ、彼女とかいても金がかかるだけだし? 自由時間も削られるし、デメリットが多いから別に必要ないけどさ。……はあ。