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奇怪青春期  作者: 中村龍二
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漠然とした怠惰な日々②

 六月ともなれば衣替えの時期も過ぎ去り、本格的に夏を感じさせる季節になりつつある。今は梅雨真っ只中だが、今年は例年より降水量が減少したように思える。雨が降らないと体育が外になるので是非とも降ってほしいところだ。今日もてるてる坊主を逆さに吊し上げてやったのに。拷問かよ。

 ようやく学校生活にも慣れ、いよいよクラス内格差も浮き彫りになっている。高校デビューに成功した者。オリエンテーションなど入学当初の行事で乗り遅れた者。部活動に精を出し挽回を図る者。人それぞれである。

 俺に関して言えば完全に乗り遅れた部類にカテゴリされる。むしろ流れに身を投じようとすらしなかった。

 上位カーストの連中は放課後の談笑に勤しんでいる。あ、今あいつ愛想笑いした。リアクションが大げさすぎるだろ。などと感想が湧いてくる。かつて偉人に「人生とは舞台だ」と話した人物がいる。今、俺が見ているのがまさしくそうではないだろうか。話題を振る役。反応する役。BGMとして愛想笑いをする役。そうやってあの空間は保たれているのだ。そこまでしてあの空間を壊したくないものなのだろうか。俺には分からない。

 現在進行形で教室掃除をしている俺は、その光景を尻目にだらだらと手を動かす。ていうか、あいつらなんで放課後なのに残ってるの? バレンタインの時の俺かよ。

「ちょっとごめん……小動(こゆるぎ)くん?」

 呼ばれたが、反応が遅れた。上を向くとクラスメイトの女子生徒がいた。俺の名前が呼ばれるなんて家族と部員を除けば一週間ぶりだぜ。少し疑問符が付いたことが気になるが、まあよしとしよう。……あなたも誰でしたっけ?

「私達部活があってさ……。ごめんけど、ごみ捨て行ってくれない?」

 『達』というのは、俺を除いた掃除班の連中のことだろう。一応俺も部活あるんだけど……。

 俺は渋々二つ返事で了承すると、彼女はやや小走りに俺から離れていった。

 女子から話しかけられると「こいつ俺に惚れてんじゃね?」と誤解してしまうのは童貞の悲しい性だ。女子からのアプローチは何でも好意的かつ都合良く解釈してしまう。

 ホウキを片してごみ捨てに向かおうとする俺に、またもや話しかけようとする気配を感じた。ぼっちは気配に敏感なのだ。

(ゆるぎ)ー。今日部活行くよね?」

「……陽目か」

 彼……もとい彼女は、『学生生活研究部』のメンバーである。部活ではそれなりに話す間柄なので、こちらに関しては動じない。慣れた。

 俺はごみ袋を結ぶ片手間に返事をする。

「そのつもりだけど」

「そっか。今からごみ捨て、って見れば分かるか」

「手伝ってくれんのか?」

「まさか。女の子にさせるのはどうかと思うけど」

 女の子。初見じゃ男性にしか見えなかったが、制服のおかげで間違うことはなかった。

 僅かに肩まで届く程のショートヘア。ぱっちりとした目に決め細やかな肌は、確かに『女の子』として見れば充分可愛い。だが、何故かカッコ良く見えてしまう不思議。

 身長は百六十前半くらいだろうが、何せ足がスラッとして長い。スーツが似合いそうだ。

 女性の象徴たる胸が発展途上なせいか、どうにも自己主張が乏しい。よくある隠れ巨乳ということもない。確かめたから断言できる。え?

 自己の呼称が『僕』だからという所も勿論ある。何故『僕』なのかは知らん。深夜アニメの見すぎか?だとしたらお前とは良い酒が飲めそうだ。

「まあ、行ってもどうせ暇だろうけど」

 相談者なんてちっとも来ないし、自発的に何かを成し遂げるような部でもない。普段はお菓子を食べながら談笑しているだけである。

 袋を結び終えた俺はそのまま玄関ロビーまでそれを運びに歩く。ついでに陽目もついてくる。「暇なんだから良いじゃん」とのこと。やめろ馬鹿仲良く見えるだろ!

「そう言えばもうすぐ期末テストだね」

「だな」

「僕は今回ちょっとヤバめかなー」

「そか」

「揺は成績良いから困らないだろうけどさ……。そうだ!今度教えてよ」

「やだ」

「さっきから何でそんな淡白なの?」

「そりゃお前、昨今の社会じゃ省エネがどうだの言ってんだろ?社会がその流れを作ってんだから便乗すんのは当たり前だ。まったくお前らリア充はファッションと芸能の流行しか知らんのか。ニュース見ろニュース」

「そのくせどうでもいいことはよく喋るよね」

 どうでもいいとはなんだ、失礼な!

 そうこうしているうちにごみ捨ても終わったので、いよいよ部室に向かう。

 我が高校は部活動が盛んである。おまけに部活には強制入部の校則もある。そんなのは二次元の中だけだと思ってました。

 実際入るだけで幽霊部員も多数いるのだが、それでもほんの一割程度だ。大半は真面目に活動、もとい青春してる。俺も当初はゴースト化しようと思っていたのだが、他の部員――特に横にいる陽目葵がそれを許してはくれなかった。ぐすん。

 そもそも、俺が学生生活研究部などというあいまいな部活に入部したのも意図した訳でなく、『運が悪かった』としか言いようがないわけで。『アニメ研究同好会』なんてないじゃんか。あったら絶対そっちに入ってた!

 やる気のない返事を返していると、部室棟が見えてきた。三階建てで、数にして二十近くもの部室がある。ちょっとしたマンションである。

 学生生活研究部は三階にあるのでどうにも移動が億劫だ。ほぼ毎日同じサイクルなのが特に。飽きてくる。

 教室から徒歩五分弱。ようやく学生生活研究部の扉の前まで到着した。

「…………、」

 何度も同じことを繰り返していると、そこには何かしら意味があるのではないかと思う。勉学には自身の将来のためという。仕事には自身の生活のためという。目的がある。

 なら、俺が約二ヶ月この部室に足を運び続けていることには、どんな意味があるのだろうか。もしかしたらそこには何の意味もなく、ただの徒労なのかもしれない。

 ならば、それを承知で今日もここにいる小動揺(こゆるぎゆるぎ)には何の目的意識があるのだろう。

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