Scena3 吸血行為
整理しよう。
『血……頂戴?』俺の変換ミスか、変換ミスだな、変換ミスだろ、変換ミス……じゃない?
『ちちょうだい』『父よ、うだい?』『地蝶大?』
何に変換しても意味が通らないそれは、目の前の男が、その口から吐き出した言葉だ。ってか、え?
その、藍川の口から覗いてるのは何!? 牙!?
「ちょ、藍川!?」
「イタダキマース」
アキラはいきなり飛びついてくる藍川を避けようとするが、バランスを崩して逆に押し倒されてしまった。そして、一番上のボタンはもとより、だらしなく二つ目、三つ目も開けていたアキラのワイシャツのボタンを、更に二つ開けて首筋を指でなぞり始めた。
「は…ぁ……っ」
その冷たく、くすぐったい感触が何とも言えず、アキラは少し変な声を出してしまった。その反応を気に入ったのか、藍川は更に指を胸の方までもっていき、首筋をペロッと一舐めして、アキラの瞳を覗いて来た。その瞳は血のように紅く底光りしていた。
慣れない感触に、抵抗しようと体を動かすも、力では藍川に勝てないようだ。
「おい、藍川! 何やってるんだ!?」
覗き込んできた藍川の視線を捉えて睨み付けながらそう怒鳴ってみるものの、藍川は一向に気にした様子もなくまたアキラの首筋に唇をもって行った。
そして容赦なく穿たれた鈍い痛みに、アキラは声にならない叫びをあげた。
首から流れているであろう血を、藍川は優しく舐めとり、そして溢れ出てくるものを吸い始めた。
アキラはまたも慣れない感覚に、何度か声を出しそうになったが、自分の理性が止めた。しかしその最中、藍川に抵抗しようとする気など失せていた。
藍川が満足げに笑いながら、真紅に染まる唇を舌で舐めた。
「ぁ……い、かわ……」
アキラが倒れたまま、力なく藍川の名を呼ぶと、藍川は満面の笑みのまま「何?」と小首をかしげた。
―――第一印象も、アイツの情報も覆された……
アキラは貧血気味な体を無理やり起こし、ふらついたがしっかりと立って藍川に向き直った。
「お前……何、悪魔? いや、吸血鬼か?」
「うん、俺吸血鬼」
こんなことをされてもなお、信じがたいアキラに、藍川は簡単に言ってのけた。
何だ、この世界。俺のいた世界ってここか? こんな生物生息してたかぁ!?
そうだ、アイツの情報力もまだまだどころか間違いだらけじゃねえか、後で絞めてやらんと……
「なぁ、アキラ」
「アんだよ」
アキラが様々なものに突っ込んでいる間に、藍川が話しかけてきた。もちろんそれどころではない(現実逃避中)アキラはイライラしながらも返事をした。
「アキラって、人間じゃないんだね」
アキラはいろいろなことを考えていたが、それらがすべて吹っ飛ぶほど衝撃的な言葉を聞いた。