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滴る

作者: 秋澤 えで
掲載日:2026/07/26

 子供の時、不思議なことがありましてね。


 夏休み、プールバッグを持ちながら登下校していたようなとき、不思議な手形を見つけたんです。

 電柱にね、小さな手の跡が一つ、ついてるんです。道にある電柱一つ一つに、ぺたっと、押し当てたように。


 いやね、それだけならいたずらだと思うんですよ。

 でもそれが不思議なのは、それが毎日なんです。


 小さな濡れた手の跡なんて、きっと夏の炎天下に晒されればあっという間に乾くはずなんです。

 なのにそれが同じ位置に、たくさんの電柱に。


 ええ、毎日。

 ただまあそれが何のかという話で。

 結局それが何なのかはわからなかったんです。

 そんなことがあったなあ、と。

 いつも間にかなくなったのか、それともそれは今もずっとあって、ただ私が忘れてしまっただけなのか。


 昔の話、思い違いだって?

 ええ、それだけならきっとそう思ったでしょう。

 でもね、それが最近また私の周りで現れだしたんです。



 きっかけなんて、きっとありません。

 ふと、私が気づいただけで。それができて、私が気づいたのか、気づく前からあったのか。ああいやそれは、どうでも良いことです。


 休日に近くのコンビニに出かけたとき、確か晩酌のあてでも買いに行ったんです。暑い、暑い日でした。私が子供の時よりもきっと暑くなってる。通りがかった電柱にね、あったんですよ。


 手の跡が。


 濡らした手を押し付けたみたいに、灰色の電柱に黒い手が。


 それで私は思い出しました。子供のころにもそんなことがあったな、と。ただそれにそんなに驚きもしませんでした。手形がある、けれどそれがどうしたのか、と。実際子供のころにそれを見つけたことがあったけれど、それで何かが起こったわけではなく、ただ日常の一部として流されてしまっただけでした。

だからまた、そんな風に忘れていくんだろうな、と。


 けれどそれ以降、その手の跡が気になってしょうがないんです。


 手がね、増えてるんです。


 どれも電柱についていたんですが、その手が徐々に増えていて。


 そして私の家へと近づいてるんです。


 それに気づいた途端急に不安になりました。


 子供のころ、なんとなく見ていたあれも、実は誰かの家へと向かっていたのではないかと。

 そしてその手形がなくなったとき、何が起こったのかと。



 私の家の前には電柱があるんですよ。今朝、その電柱に手形を見つけました。



 ねえ、明日から、どうなるんでしょう。






 ……今、何か滴る音が聞こえませんでしたか?


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― 新着の感想 ―
語り口に引き込まれました。 思わず手形を探してしまいそうになるくらい、日常に溶け込む怖さが印象的でした。
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