滴る
子供の時、不思議なことがありましてね。
夏休み、プールバッグを持ちながら登下校していたようなとき、不思議な手形を見つけたんです。
電柱にね、小さな手の跡が一つ、ついてるんです。道にある電柱一つ一つに、ぺたっと、押し当てたように。
いやね、それだけならいたずらだと思うんですよ。
でもそれが不思議なのは、それが毎日なんです。
小さな濡れた手の跡なんて、きっと夏の炎天下に晒されればあっという間に乾くはずなんです。
なのにそれが同じ位置に、たくさんの電柱に。
ええ、毎日。
ただまあそれが何のかという話で。
結局それが何なのかはわからなかったんです。
そんなことがあったなあ、と。
いつも間にかなくなったのか、それともそれは今もずっとあって、ただ私が忘れてしまっただけなのか。
昔の話、思い違いだって?
ええ、それだけならきっとそう思ったでしょう。
でもね、それが最近また私の周りで現れだしたんです。
きっかけなんて、きっとありません。
ふと、私が気づいただけで。それができて、私が気づいたのか、気づく前からあったのか。ああいやそれは、どうでも良いことです。
休日に近くのコンビニに出かけたとき、確か晩酌のあてでも買いに行ったんです。暑い、暑い日でした。私が子供の時よりもきっと暑くなってる。通りがかった電柱にね、あったんですよ。
手の跡が。
濡らした手を押し付けたみたいに、灰色の電柱に黒い手が。
それで私は思い出しました。子供のころにもそんなことがあったな、と。ただそれにそんなに驚きもしませんでした。手形がある、けれどそれがどうしたのか、と。実際子供のころにそれを見つけたことがあったけれど、それで何かが起こったわけではなく、ただ日常の一部として流されてしまっただけでした。
だからまた、そんな風に忘れていくんだろうな、と。
けれどそれ以降、その手の跡が気になってしょうがないんです。
手がね、増えてるんです。
どれも電柱についていたんですが、その手が徐々に増えていて。
そして私の家へと近づいてるんです。
それに気づいた途端急に不安になりました。
子供のころ、なんとなく見ていたあれも、実は誰かの家へと向かっていたのではないかと。
そしてその手形がなくなったとき、何が起こったのかと。
私の家の前には電柱があるんですよ。今朝、その電柱に手形を見つけました。
ねえ、明日から、どうなるんでしょう。
……今、何か滴る音が聞こえませんでしたか?




