少年剣士の決意
『魔道士少女の憂鬱な悩み』と繋がりのある作品となります。
どうか、御一読お願いいたします。
「やくそくだよ。私もいろいろなまほうをおしえてあげるから、ぜったいに入学してきてね」
胸の高さで手を祈るように組みながら懇願した少女の目には涙が浮かんできていた。
一週間くらい前のことだ。
お婆様に連れられて名も知らない学校機関のような場所に連れて行かれた時に蒼い髪の少女と、その弟と知り合った。
「……で、お前は気になったコにチューして、ウソをついて別れてきたと」
「誤解を受けそうな言い方するなよ! 手の甲。騎士の忠誠のアレと同じヤツだよ!」
旅先で知り合った二人の交流を親友に土産話を披露するが友人は僕の意図と別な方向に受け取り、ぶっきらぼうな発言を強く訂正する。
「違わないだろう、入学予定もねぇのにウソ……悪かった、結果的にウソ言って立ち去るなんて、ズルいオトナの言い訳以外にあんのか?」
友人から出てくる言葉が予想できていたのでジト目で話を聞いていたが、彼はすぐに謝罪を入れて説き伏せてくる。
「確かに……」
「ウチの父ちゃん言ってたぜ、お前が本当に行く予定の学校って、アレだろう軍の勉強とかいっぱいしてレーギサホウってヤツもキビシイっつう」
「そう、王立仕官学校。世界中の国でお金出し合って作った学校で卒業できたら将来は困らないトコ」
しかも実家の支援……つまり、学費を出してもらえないと言う困った条件を出されているのだ、入学するには特待生試験に合格しないと何もかもが立ちいかない。
その事は公にしてない事、当然ながら今ダベり合っているダーツにも言えない非公開情報なのだ。
「……でも次男坊だからってキビシイ所に行かなくても思うんだけどよ、そんなにオメェの親戚筋ってめんどくせーの?」
「……仕方ないよ。兄さんが亡くなるなんて予想できる訳ないだろ、誰も僕に家を継がせるなんて想定してないんだ」
「まったくようトレアス。お前も大変だな、オキゾクサマってイロイロ考えてショウライセッケーしてそうなのにカンジンなところイイカゲンだよな……」
「人生何があるかわからないだから仕方ないよ、旅の途中にモンスターピードにでくわすなんて思わないだろ」
僕の両親と兄は、三年前の遠征の途中に怪物集団暴走に巻き込まれて亡くなってしまった。
当初では、亡くなった兄が家督を継ぐ事を想定で教育されていたのだが、あのような事故に遭うとは思わず、今の困った状況なのだ。
「でも、お前なら入学試験は合格できるんじゃないか? 俺たち四人の中で一番体力あるし、すばしっこい上に頭イイじゃん」
近くの噴水近くのベンチでチェスを楽しんでいる少年と少女を指差し、その後に自分と僕を指し示す。
「何か忘れてない? 僕の体質……魔法関係じゃなくて」
「あっ、そうだ。強烈な金属アレルギーだっけか」
外で遊ぶ事が多い僕たちはまず、金属に触れる事はないから安心なんだが、まったくもって不愉快だ、親友の困った情を普通忘れないと思うんだけどな。
「あ~。忘れてただろう! それでも友達かよ」
「悪い悪い。でもさ、お前んとこの婆ちゃんが昔使ってたソレ金属じゃなかったよな」
僕が携えている剣を指差しながら視線を落としながらダーツは話題をそらした。
そう、携帯武器に関しては問題がないのだ。
現実的な問題は同じ修練を受ける学生達が扱う武器で何をされるかわからない。
貴族社会というものは困った考えの奴らが多い訳で、それが学校の中にも及んでしまうのだ。
「まあね、こっちから喧嘩は売らない限り大丈夫だけど……あれ? あの二人こっち見てない」
チェスを楽しんいる二人は盤上から、こちらに視線が交差した時に手を振ってきた。
「トウヤっ! バルがルール違反するのなんとかしてよ」
半べそを描きながら訴えてくるスアンが仕切りに手招きを始める。
少女の呼ぶ『トウヤ』は僕達四人の集まりで決めた通り名だ、貴族階級の激しい風習のあるここ、ラファーナ王国では貴族が平民を弾圧とまでは行かないまでも、支配傾向にある。
僕だけが貴族の家に生まれであるが故に稀有な目で見られる事を防ぐために皆で考えた名前だ
「酷いな。トウヤからも言ってくれよ、プロモーションは違反じゃないって」
説明に疲労を感じた表情を浮かべながらバルが救援を求める。
「トレアス。スアンにはプロモーションを教えてなかったのかよ」
ダーツは頭かきながら、呆れ顔を浮かべながら話しかけてくる。
「この前、バルが1人で遊びに来た時に教えたんだよ、スアンと喧嘩したとか言ってさ」
スアンのチェスの強さに愚痴を溢しに来たバルは僕の家まで押しかけてきて手ほどきをした時にプロモーションと言うポーンの昇格ルールを使わざる得ない状況に落ち入り、やむを得ずポーンを昇格させて勝利戦況を作り上げたのだ。
「バル。相手がルール内の戦法を知らなければ、ルール違反と同じだぞ」
この集まりのまとめ役になりつつあるダーツは優しく諭しながら戦況を有利に進めた少年に声をかける。
「わかったよ。スアン、ごめんな」
バルはチェス盤を挟んだ先の正面に座って半べそをかくスアンに頭を下げる。
「ううん。新しい事を知れたから、気にしないでいいよっ……ヒッ!」
バルの謝罪を受けて笑顔を向けたスアンは「これでいい?」という表情を浮かべながら、僕とダーツに返答を求めてきたが視線の先を僕達の後方に向いたかと思うとバケモノでも見つけたかのように顔を強張らせている。
スアンの反応を見て振り返ろうとした瞬間、ギルツは襟を掴まれながら屈強そうな男に持ち上げられていた。
「こら! トレアス様を連れ出したかと思えば、女の子を泣かしてるいるとは何事だ、そんな息子に育てた覚えはないぞダーツよ」
「兵士長、誤解だよ。ダーツは悪い事はしていないし、もう解決している事だからダーツを離してあげてよっ」
僕の弁護を受け入れ、兵士長と呼ばれた男はダーツをゆっくりと降ろす。
「このクソオヤジ! 友達を泣かして喜んでると思ってるのかよっ」
抵抗の正拳突きを向けるが掌で受け止められて悔し紛れの笑顔を浮かべるながら父親を見上げるダーツ。
「8歳とは言え、お前の拳を受けるほどジジイじゃねぇからな、もっと鍛錬に励むんだな」
「それとトレアス様。お爺様とお婆様が呼んでおられますぞ、お帰りの前に私から一撃を取ってみなさい、遊びに出ていたことは不問にいたしましょう」
僕はギルツの父である兵士長に剣技を教わっているのだが、家を抜け出して見つかると、組み手をさせられる。
三人の友人達はチェスを片付けて、ベンチに座り始める。
勝った場合は課外授業と称して不問としてもらえているが、負けた場合は報告されて説教が始まるのだ。
「了解しました。よろしく、お願い……」
勝負の前にお辞儀をする事が兵士長との決め事だが、頭を下げると同時に腰の剣に手をかけて鳥が飛び抜けるかの如く前進すると抜刀はせず、中年の男の横腹に向けて一撃を入れる。
「……?」
一瞬の出来事ではあるが、身体の動きがいつもと違う事に気が付いた。
普段より身体が軽く感じるような足の動きも旅に出る前と雲泥の差を感じるくらいに速かったのだ。
いつもと違う感覚を感じていると背後の対戦相手が声をかけてくる。
「トウヤ様、不意打ちとは卑怯ですぞ。ふふっ、また腕を上げられましたな」
豪快に笑いながら、負けを認める兵士長。
勝負の時に彼が愛称呼びの時は自分の負けを認める時で、逆に兵士長が勝ちの場合は本名の「トレアス様」と呼ばれる場合は僕の負けと見做され、きついお説教の未来が待っている。
「ダーツを背後から摘み上げてるんですから、問題はないですよね? ギルツ兵士長」
一息つき、再びお婆様から受け継いだ剣を腰に戻すと睨みながら姿勢を正しながら巨漢に向き直った。
「ふむ、一理あります。感服いたしました、これなら私もお役御免ですな」
ベンチに座っている三人は拍手喝采で勝利を祝ってくれている。
ギルツ兵士長は一対一の模擬戦を持ちかけてきた時に勝敗に関わらず、必ずと言って良いほどに説教めいた感想戦を始めるのだが、今回に限り完全敗北をという意思を示してきた。
「兵士長。つまり、アレが決まったのかい?」
いつもの状況と違う反応に気がついた僕は日にちが決まらないまま先延ばしになっていた事を思い出しながら尋ねた。
「それはお爺様から伺いください」
ギルツ兵士長は敬礼をしながら明言をひかえた。
兵士長は普段着に着替えていて、仕事から外れているであろうときにも関わず、敬意を払ってくれている子供の僕に。
それを意味する事はおそらく決まってしまったのだろう。
貴族は本来一人で下町に足を踏み入れない。
僕は何があっても成人までは貴族扱いを止めるよう命じていたのだが、兵士長と言う立場を持つ彼が、形式に則った作法を向けてくる以上間違いないのだ。
「トウヤ様、何かあったの?」
「スアン、トウヤは住み込みの学校に入学するんだよ」
バルは状況を飲み込めないまま、あたふたしているスアンに短く簡潔に答えた。
「トレアス、しばらく顔を見れなくなるんだな」
ダーツも表情を暗くしながら一言。
二人の友人と円陣を組むように肩を組む。
「長期の休みには戻ってくるよ」
「「頑張ってこいよっ」」
円陣から外れたところで笑顔を浮かべながら見守っている少女に僕は近寄りながら目線をあわせる。
「スアン。バルと仲良くするんだよ、頭は良くて少し意地悪なとこあるけど、君が大事で仕方ないからだよ。ケンカは程々にね」
バルはスアンの事が好きで、スアンもバルの事が好きだけど、決定的な言葉を二人は交わしていない。
女の友達が少ない僕でも彼と彼女の間を間違えないように今まで接してきたつもりだ。
「はい。トウヤ様も元気でね」
親指を立てながら、涙交じりの笑顔で答えるスアンへ同じように指を立てながら笑いかける。
これをしながら笑顔を送り合う事が僕達四人が決めた友情の証だ。
「トウヤ様。あちらに迎えの馬車を待たせております、夕方にはお戻りになるように承っておりますので」
ギルツ兵士長は後方を指差す。離れた場所には雨を凌ぎながら移動をできる馬車が止まっている。
迎えの馬車が来ていると言う事に全てを察して「すまない」一言。
四人に別れの挨拶を済ませると馬車に乗り込み、友人達と一人の男に手を振ると馬車は動き始め、進路を街の中心に位置する大きな建物に向けて移動する。
街のどこからも見えるほどに大きく絢爛で城の大半を占める白い大理石は太陽の光を受けて淡く輝き、屋根は空の色と見間違うほどに青い。
おそらく、数日後にはこの国を出発する事になるだろう。
世界中の人達が認めるような戦士か騎士に慣れれば、誰にも文句を言われる事はないと思いたいが、お婆様との旅で訪れた場所で出会った少女と少年には何が何でも再開したいところだ。
その為に入学する予定の士官学校の特待生試験結果が重要になるのだが、早く戻るように言われると言う事は合否は喜ばしい事になっているのだろう。
厳格な学校と有名な王立士官学校にはどういう生活が今から楽しみでしかない。
(おわり)
読了ありがとうございます。
本来ならば、前後編になる程長い作品です。
1話で完結させるために登場キャラを1名変更していますが、正式なストーリーを創作する機会に恵まれましたら書いていきたいと思います。




