第5話:「裏表と本音」
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探索を重ねるうち、エレンとノルンの関係にも変化が。エレンの「あざとさ」と「素の顔」の使い分けにご注目ください。
王都の地下ダンジョン1階層。数匹のスライムとゴブリンを討伐した二人は、安全な通路の隅で休憩を取っていた。
「ふぅ……。はい、ノルンちゃん。水飲む?」
「あ、ありがとうエレンちゃん! 助かるー!」
ノルンが水筒を受け取り、勢いよく水を飲む。その無防備な姿を見て、エレンはふっと肩の力を抜いて地べたに座り込んだ。
「本当に体力おばけだよね、ノルンちゃんって。私はもう足がパンパンで動けないよ」
「えへへ、元農婦だからね! でもエレンちゃんも、魔法のタイミングすっごく上手になったよ!」
「そう? ……まあ、死にたくないから必死なだけだけどね」
エレンは飾らない口調で苦笑いする。
出会った当初の『か弱くておっとりした少女』の完璧な演技は、すっかり鳴りを潜めていた。裏表がなく、自分のために必死に剣を振るってくれるノルンと一緒にいると、計算してあざとく振る舞うのが馬鹿らしくなってくるのだ。
その時、通りがかった見知らぬ男の冒険者が、二人を見てニヤリと下卑た笑いを向けてきた。
「おいおい、こんな浅い階層でへばってるのか? 初心者のお嬢ちゃんたち。俺が奥の効率のいい狩場を案内してやろうか?」
下心丸出しの軽薄な声。
その瞬間、エレンの纏う空気がガラリと変わった。
「えっ……ほんとですかぁ?」
エレンはパッと立ち上がり、上目遣いで男を見つめる。声のトーンは二段階上がり、潤んだ瞳で小首を傾げた。
「でも私たち、まだ本当に弱くて……。強いお兄さんの足手まといになっちゃうから、やっぱり申し訳ないですっ……」
「お、おう? そ、そうか……? まあ、怪我しないようにな!」
エレンの完璧な『可憐で控えめな美少女』の圧に気圧され、男は鼻の下を伸ばしながらそそくさと立ち去っていった。
男の背中が見えなくなった瞬間、エレンはすんと真顔に戻り、大きなため息をつく。
「……あー、気持ち悪っ。あんなのに付いていったら、絶対ろくなことにならないわよ。身ぐるみ剥がされるのがオチね」
「えっ? そうなの? 親切な人かと思ったけど……」
キョトンとするノルンを見て、エレンは毒気を抜かれたようにクスッと笑った。
「ノルンちゃんは素直すぎ。王都は怖いところなんだから、変な虫がつかないように私がちゃんと守ってあげるからね」
「うんっ! エレンちゃん、すっごく頼りになるー!」
(……ほんと、この子の前だと素が出ちゃうな)
エレンはノルンの頭を優しく撫でた。
他人の前ではあざとく、計算高く。けれど、たった一人の相棒の前では、ただの素直な女の子でいられる。それが今のエレンにとって、何よりの居場所になっていた。
最後までお読みいただきありがとうございます!
他人の前では完璧な演技をこなしつつ、ノルンの前では年相応の顔を見せるようになったエレンでした。
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