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辺境のあざとい魔導士は禁忌の術式で死を欺く ―最強の盾と歩む理外の成り上がり譚―  作者: ゆっきー
第1章:始まりの王都

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第12話:「深淵の咆哮と絶望の涙」

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

知らず知らずのうちに中層へと足を踏み入れてしまったエレン。

レベル3の彼女を襲うのは、本能が拒絶するほどの死の気配でした。しかし、規格外の勇者たちにとって、その「絶望」はあまりに矮小な存在で……。


「4階層か5階層……?」


 エドが何気なく口にしたその言葉を聞いた瞬間、エレンの膝から力が抜けた。

 石畳の床に崩れ落ち、震える指先で自分の腕を強く掴む。


(嘘……嘘でしょ。私、レベル3なのよ? HPだって40しかないのに……)


 カインが命を落とした3階層よりもさらに深い、中層。

 そこにいるという事実だけで、エレンの生存本能が激しい警鐘を鳴らし続ける。

 いくら目の前の二人が規格外に強いとはいえ、この場所では空気そのものが毒のように彼女の精神を蝕んでいた。


「ひっ……う、うあぁぁっ……!」


 目から大粒の涙が溢れ出し、止まらなくなる。

 あざとく計算して立ち回る余裕など、微塵も残っていなかった。

 エレンは子供のように声を上げて泣き出し、ガタガタと歯を鳴らしながら取り乱した。


「嫌だ、嫌だ嫌だ……っ! 帰りたぃ、お家に帰らせて……っ! 死にたくないよぉ……!!」


「ちょ、ちょっとエレンちゃん!? 大丈夫だよ、私たちがいるってばー!」


 レノアが慌てて駆け寄ろうとした、その時だった。




「――グルルル……ッ!!ガアァァァ!!」




 大きな咆哮を出したのは、3本の角を持つ巨大な魔獣、キマイラ。

 その巨体は通路を埋め尽くさんばかりに大きく、全身から放たれるどす黒い魔力は、エレンの呼吸を止めるのに十分な威圧感を持っていた。


「ひ……あ……」


 エレンは泣き叫ぶことすら忘れ、ただその魔獣を見上げた。

 それは、言葉では言い表せないほど純粋な『威圧感』と『死』の具現だった。

 カインを襲ったホブゴブリンが可愛く見えるほどの、圧倒的な捕食者の気配。

 エレンの心は、あまりの恐怖に体が硬直するという矛盾した感情に支配され、ただ呆然と涙を流し続けるしかなかった。


 しかし。

 エレンが魂を凍りつかせているその横で、エドは欠伸でもしそうなほど退屈そうに鼻を鳴らした。


「なんだ、こいつか。レノア、ささっと片付けるぞ!」


「えーっと、あっ、はーい!」


 レノアはペットを見るように眉を下げ、腰に手を当てて笑っている。

 エレンが死を覚悟した「世界の終わり」のような化け物は、彼らにとっては「弱すぎて話にならない」存在でしかなかった。


「……一瞬で終わらせる。エレン、そこで座ってていいぞ?」


 エドは剣を抜くことすら面倒だと言わんばかりに、鞘に収まったままの剣を軽く手にした。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

レベル3のエレンが見る絶望と、レベル70の勇者が見る日常。そのあまりに残酷なまでの対比を描写しました。

次回、エドがその圧倒的な力の一端を見せつけます。

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