第四話
その日も雨だった。
母はフルタイムでパートをしていたけど、その日は体調を崩して休んでいた。
父が出勤前に作っていってくれた雑炊をお昼に母と食べたけれど、もう十八時近い。お腹がすいてたまらくて食べれるものをキッチンで探してみるもご飯しかなかった。
いつもは母がお弁当や総菜を買ってきてくれたり、父が作り置きしてくれてるものを温めて出してくれる。
料理ができても忙しい父と料理が苦手な母。料理を習う機会がなかなかなくて、私は火を使うものはまだ何もできなくて、冷蔵庫に食材があってもどうしようもなかった。
ふと目に入った鮭フレークの瓶と冷凍庫にしまわれている味付けのりを取り出す。
保温されたままのご飯をボウルに移して、鮭フレークを混ぜて母の真似をしておにぎりを握った。
熱くて、手のひらは真っ赤になったけど、それでも母の分と私の分を頑張って握って、母の枕元まで持って行った。
「一人で作ってくれたの?」
驚く母に私は、のりのはがれかけたいびつなおにぎりが乗った皿を手渡す。
「お母さんみたいに綺麗にできなかったけど。お薬、ご飯食べてからじゃないと飲めないでしょ?」
母はまだ熱が高いのか時間をかけて起き上がって、皿からひとつおにぎりを取った。一口食べるとぽろぽろ涙を流しながら二つ目まで食べてくれた。
「こんなに美味しいおにぎりは初めて。お母さんとはちがって、お料理がきっと上手になるわよ」
母はそういって薬を飲んで寝て、父に何度も私がおにぎりを作ってくれたと話して、何度も褒めてくれた。
それから私は父に教えてもらって見守られながら、料理を作るようになった。
記憶力はあんまりよくないからレシピが手放せないけれど、作った料理を美味しいと食べてくれることが私は嬉しくて、料理をふるまうのが好きになった。
最近は無心になるためにしていたけど、料理が好きだったことを思い出して、少し世界が色づいた気がした。
目の前の青年もさっきよりも鮮明にかっこよく見えるようなと思いながら、また雨の音が大きくなったことに気づく。
新しいお客さんが来そうな気配はなく、この世界に青年と私しかいないみたいだ。
「料理するの得意というか、好きです」
青年との会話が弾んだ。人と話すのが楽しいのは久しぶりだった。
一人寂しく閉じこもっていたあの部屋に帰りたくないと、私はこの店内と青年が作り出す温かな空間から出たくないと強く思う。
また一人になりたくないこの温かさに触れていたい。
全てを拒絶していた私の殻にヒビが入る。
青年の言葉がこの店の雰囲気が私を温かな羽毛で包んで、優しい記憶の扉をノックしては開かせていく。




