第二話
「雨で冷えたでしょう。ご注文は何になされますか?」
白くてふわふわなタオルを差し出しながら、青年はいう。
私はタオルを受け取ってお礼をいい、顔や腕を軽く拭いて肩にかけさせてもらった。ふんわりとしたタオルが私を包んでくれて、温かい。
メニューを探すが見当たらず、特にコーヒーに好き嫌いもなかったので青年に任せることに決めた。
「おすすめとかあればそれをお願いします」
「かしこまりました」
青年はにこやかにいうと、豆を選んでミルで豆を挽き始める。
初めての場所。初めて会う人。今の私にとっては落ち着かず、店に入ったことを後悔して早く帰りたいと思ってもよさそうなものなのに、なぜか落ち着いていた。居心地が不思議と良かったのだ。
「それにしても準備がいいんですね」
何気なく私は青年に話しかけていた。
豆を真剣に挽いていた青年は顔をあげて私を見る。私は肩にかけたタオルを振って見せた。
「あぁ、ここにくるお客さんは必要なことが多いので」
それだけいうと青年はまた作業に戻った。
雨の日のお客さんが多いということだろうか。そんなことを考えながら、青年が豆を挽く音に耳を傾ける。
いつの間にか私が耳を傾けている音は雨音になっていた。
窓が空いているわけでもないのに、この店は雨音がよく聞こえる。
最近はただうっとうしく陰鬱な気持ちをかきたてるだけのこの雨やこの雨音が、昔は好きだったんだよなと幼い頃を思い出す。
「雨の音は好きですか?」
雨に紛れるような声だった。目の前に湯気の立つカップが置かれる。
「カフェモカです」
喫茶店のおすすめのコーヒーがカフェモカだとは思ってなかったが、カップを手に取り一口すすると、
「甘くて、美味しい」
思わず声が漏れていた。
甘いのにちゃんとコーヒーの苦みもある。ミルクのまろやかさが私を包んで全身の力を程よく抜かせていく。
「あなたへのおすすめですから」
そっと漏らした青年の言葉が引っかかったけれど、柔らかな笑みを受かべる青年にどういうことかと聞く気はわかなかった。
甘く温かな液体はお腹から指先までをじんわりと温めて、心をほぐしてくれる。
「雨の音、昔は好きでした」
グラスを磨いている青年はこちらに反応を示すでもなかったけれど、私は気にせず話し続けた。青年なら聞いてくれているだろう思ったから。
「暖かく安全な部屋で一人で聞く雨音は、世界を遮断してくれてるような気がしました。自分だけで世界が完結しているみたいな。寂しいはずなのに大丈夫だと思えた」
青年を見るとどこか懐かしそうに微笑んでいる。
私の話しを笑っているようにもとらえそうなのに、悪い気はしなかった。




