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第一話

 裏切られた。

 十年、高校生の時に初めて付き合った人と十年付き合った。フリーターで適当に働いている彼を経済的にも精神的にも支えてきたのに、彼は逆玉の輿だといって私の元を去った。

 何もやる気が起きず、彼のためにと一生懸命働いてきた仕事も無断欠勤を続けて、貯金もたいしてないのに家に引きこもって過ごしていた。

 誰にも会いたくない。心にも体にも触れられたくないし、誰かに触れたいとも思わない。

 私は全てを拒絶していた。

 今日は雨。

 こんな日は特に気持ちが沈みこむ。


 起きた時は晴れていた。知らずにできたカーテンの隙間から差し込む光がうっとうしい。

 昨日わずかに残る食料を使い切ったので、買い物に出なければならないのに身体が重い。

 ベッドから出るのが憂鬱でしかたない。

 それでも、難しい料理のレシピを見ながら真剣に料理を作るのは無心になれる貴重な時間だから、食材を買いに行かないともっとしんどくなってしまう。

 身体を引きずるように身支度を整えて、外に出ると空はどんより曇っていた。


 セルフレジのあるスーパーで手早く買い物を済ませて外に出ると、雨がザーザーと全てを覆い隠すように降っている。

 たまの買い出しの日に限って大雨が降るなんてついてない。

 自宅からこのスーパーまで歩いて二十分。走って十五分くらいにはなるだろうか。でも、最近運動不足ってレベルじゃないくらいに、動いていないからそもそもたいして走れないかも。

 そんなことをスーパーの出入り口で考えていたが、雨は弱まりそうにない。

 確か狭いけど近道があったよな、とふと思い出す。廃屋とかもあって雰囲気が怖かったから一度しか通ったことないけれど。

 長いこと雨に当たって一人風邪を引いて寝込んでしまうよりもましだと思って、私は意を決して走り出した。

 できる限り雨除けがあるところを選んで休み休み走るが、服はあっという間に雨がしみて、久々にダッシュした体はしんどく、息が上がる。

 もうこのままゆっくり濡れながら帰るか。

 そう思っていた時に喫茶店の明かりを見つける。

 店に近寄って、こんな素敵な喫茶店なんてあったかなと思いながら、看板に目を向けた。

 看板には「喫茶『雨音』」とあって、柔らかな光が店の外に漏れ、私はその明かりに引き寄せられるように扉を押していた。

 カランコロンと優しく響く音に歓迎されているような気がする。雨に濡れて冷えた身体に、温かい空気が触れコーヒーの香りが私を包んだ。

 カウンターには青年が静かに立っていた。

 私に気づいた青年は柔和な笑みを浮かべながら、

「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」

 と柔らかな声で招いて並ぶ空席を手の甲でさっと撫でる。

 店内に他に客はいない。テーブル席が三つとカウンター席が五つほど。こじんまりとして、常連になればさぞかし落ち着ける空間なのだろうと思う。

 普段なら店内奥の窓際なんかの席を選ぶのに、私は気づけば青年の目の前のカウンター席に腰を下していた。

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