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No.8 日常に一滴のインクを


No.8 日常に一滴のインクを





ー レオニア王国:西方都市:シルビア ー


同都市内:冒険者ギルド『フォートレス』




俺の名前はジルニード=ヴィクター。

5年程前に冒険者ギルドに所属。それまでの経緯は・・・いや、あまり必要な情報でも無いな。


朝日も登り切り、たっぷりと1時間。

時間に縛られない所が冒険者ならではと、最近思う。


冒険者になった直後はランクを上げる為に朝早くから、ギルド受付に顔を出し片っ端から依頼を受けていた。


最下であるE級は受けられる依頼も少なく、アイテム収集が主で報酬も微々たるもの。

数をこなして一つ上のD級になれば戦闘や護衛と言った任務も受けられるようになる。

したがって、なりたての新米はだれよりも早く受付に来る事がセオリーと言える。


平たく言えば“さっさと依頼を受けなければ他の奴らに取られて、一生E級人生だぞ”だそうだ。


とは言え、それも5年前の話でA級の上になるS級になった今は、超難易度で貰い手の無い依頼か、日数を取る長期的な物、緊急の穴埋めか・・・

要するに人気の無いが故に残った依頼をこなす事がメインとなっている。

したがって、冒険者が溢れかえる朝のピークが過ぎてから受付に出向いても、なんら変わらないのである。



この都市に創設されたギルド《フォートレス》国全体のギルドの中でも規模はトップクラス。主な理由としては、この都市が国の境目、つまり国境に1番近い街と言う事に起因する。


王都に次いで守備が固く、自警団が守る近隣の町とは違い、国直轄の部隊が配備されていて、有事の際にはギルド所属の冒険者の手も借りる。

そう言う体制が組まれている。


立派な佇まいをしたギルドの重厚な扉を押す。



「おはようございます!!」


「あぁ、おはよう」


受付カウンターには顔馴染みのハンドラーが笑顔で挨拶をくれる。


このギルド館は、巨大なホールの1階を受付と食堂、2階を冒険者ギルド、3階〜4階を商業ギルドを兼ね備えている。

2階はギルドマスター室やギルドチームの貸し部屋があるが、ソロ冒険者の俺には余り関係無く、もっぱら1階にしか用は無い。



「先に朝食を摂られますか?」


「あぁ、今日は何か込み入った依頼は?」


「いえ、昨日ジルニードさんが超難易度依頼を完了させてからは、まだ入って来てはいませんね。ふふっ、そう毎日貴方の手を借りる依頼が舞い込んできたら、ギルドとしても困ってしまいます」


「それもそうだな・・・なら、暫くは食堂に居る。何かあったら声を掛けてくれ」



人気の無い依頼や超難易度の依頼は重複してギルドに登録される時もあれば、全く無い日もある。

こう言う特殊な物はS級が処理を行う。

俺のクラスの更に上、最上級のSS級はクラスとしては存在するが、大概はギルドマスターが冒険者引退前に短期間腰を据えるレベルの物で、実質はS級が1番上の扱いになっている。


まぁ、いざなってみたら“面倒な依頼を解消してギルドに貢献!”

もはや何でも屋クラスと言っても過言では無いかもしれない。



冒険者らしい依頼を受けて華々しくやって行くなら、A級で止まっておく方が賢い。

そう言った華々しい立ち位置を目指して冒険者になった訳では無いので、俺的には丁度良い等級と言う訳だ。




食堂カウンターで朝食を受け取り席に着く。

他のテーブルはまばらに埋まっており、一杯やっている卓もある。

朝から酒盛りは冒険者において珍しくも無いが、装備の汚れや摩耗を見るに、恐らく朝方に任務から帰還してそのまま飲み始めたのだろう。

今彼らは任務達成の興奮の余韻で活気があるが、昼前にはあの卓の冒険者は全員天板に突っ伏していると容易に想像出来た。



その活気を横目に、パンを口に運びつつ今日の予定を思料する。

このまま昼過ぎ迄何も無ければ、待機は切り上げて武器屋に行こうか。

前回の超難易度任務で、メイン武器をかなり消耗したにも関わらず、メンテナンスを行なっていなかった事を思い出したのだ。

普段なら早々に行っているのだが、任務帰還後に立ち寄った所、馴染みの武器屋が臨時休業でその日と翌日は店が閉められていた。


運悪く、翌々日は任務が入り、そこからタイミングを逃し今日に至る訳だ。



「まぁ、そうそう壊れるシロモノでも無いしな・・・」



そう呟いた直後だった、正面扉が勢いよく開き、馬ごとギルド館に転がり込んで来た1人の男がホール全体に響き渡る程の大声を上げた。



「助けっ・・・!助けてくれぇぇえ!!!」





この日の事は忘れる事は無いだろう。


俺の人生と言う羊皮紙に一滴のインクが落とされ、瞬く間に拡がり始める・・・

嚆矢の日として。





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