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No.7 怖がらないで、私は人間です


No.7 怖がらないで、私は人間です






「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!誰か助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


「っ!!!!!??」




夜明け前、辺りが白み始める頃合い。

静寂を切り裂くような叫び声が目蕩みの中にいた私の耳に届いた。



「人の声・・・だよね!!!間違いないっ!!!どこから!?」



寝床としていた木の枝の上に立ち上がり、徐々に明るさを帯びる景色に目をこらす。


「あ・・・!!!多分あそこだ!!!」


遥か向こう、丘に隠れてハッキリとは見えないが、僅かに土埃が上がっている。


その時の私は人に逢えるという喜びから、何が起きていて、近寄るのが危険だとかそう言った考えは頭の片隅にも無かった。


木から半ば落下するように降りて、土埃に向かって走り出す。

逸る気持ちを抑え切れず、歳も考えずに全力疾走だ。

走り出して直ぐパンプスが脱げたが、むしろ走り易くなったので、そのまま脱ぎ捨てた。



遥か遠くに見えた土埃がどんどん近付く。

丘に見えた場所は反対側が急勾配の段丘崖になっており、一段下の街道で事は起きていた。



「ひっ・・・人だ!!!人がいた!!!・・・・・・と、何?」



そこには逃げ惑う人と、それを襲う大きな熊の様な生き物が居た。


近くには馬と、車輪が壊れ横倒しになった荷台が転がっている。

通りがかった所を襲われたのだろうか。視認出来る範囲におじさん以外の人間は居ない…



────この状況で私が出来る事は限られている。

こちらに熊の注意を引き付けた後、即走って逃げる。

崖はかなり向こうまで続いているから、崖端を走れば私の逃げる姿を見失わせず誘導可能だ。


熊は背を向けた相手を追うとテレビで見た事がある。私を追わせてあのおじさんから引き離す!

十分な距離を稼ぐには、それなりの持久力が必要になって来る。この作戦はある種の賭けだ。


だが、私には確信が一つだけあった。

さっき走って来た時に思ったのだが、この世界どれだけ走っても息が上がらないどころか、疲れも大して感じないのだ。

そもそも、昨日から歩きづくめだったにも関わらず、現在のコンディションは絶好調なのだ。

身体も軽い上、生きていた頃よりも早く走れている。


「よしっ!」



大声を出してこちらに気付かせようとした直前、熊はその体格に不釣り合いな程の巨大な爪を横に薙いだ。


「ひぃっ!!」


おじさんがその場で尻餅をついた事で、爪に引き裂かれる事は無かった。タイミング良く腰が抜けたようだ。


だが、へたり込んだ事でもう目前の熊から逃げる術は無くなった。


「危ない!!!」



叫ぶと同時に私は、崖から下に飛び降りた。

殆ど無意識の行動だった。


踏み切った身体は、私の想定より大きめの軌道を描くと、熊目掛けて落下して行く。



「あれ・・・?ちょっと待って・・・」



空中で、思い出した。

昨日仮説を立てた、この世界の生き物が酷く脆い存在の可能性について。



人を襲う巨大な熊、果たしてこのままあの熊の頭の上に私が落ちたとしたら・・・どうなる?



「待って待って待って!私もしかして!!また・・・!!」



せめて、昨日の鹿よりも熊の方が体が強い事を願わずには居られない。

上に落ちて、熊さん気絶!私達も逃げられてハッピー⭐︎なんてご都合展開が起きる事を・・・!!






パァァァァァアンッッッ!!!!!





願い虚しく、全体重と加速落下分の力を乗せた足の裏が熊の頭に触れて、衝撃が伝わった直後。



風船が弾けた様な音と共に、熊の体は弾け飛んだ。

"木っ端微塵"それが現状1番適切な表現だろう。


かく言う私は熊を緩衝材代わりに衝撃を軽減。

怪我もなく地面に着地した。

数秒後、真っ赤な雨が大地に降り注いだ。

直下の私は、尻餅姿のままのおじさんと共に、ソレを浴びる。


「うぇっ・・・2日連続・・・なんですが・・・」


もう体液まみれにも慣れて来た。



「あの、大丈夫ですか・・・?」




目を瞑ったまま、真っ赤に染まるおじさんに声を掛ける。

真っ赤なのは私の所為だが・・・



「っひ・・・!!!!ババババ・・・」



「バ?」


「バケモノーーーー!!!!」



恐る恐るこちらに目を向けたおじさんは、私を見るやいなや、絶叫を上げる。


「はい??」


さっきの熊に対する悲鳴より数倍大きな絶叫だった。


「あ、いや、これは熊の血が・・・・・・化け物じゃ無いです。怖がらないで、私は人間です」


何とか対話を試みようと一歩距離を縮めるが、首を左右に振りながら拒絶を露わにする。



「ひゃぁあぁ・・・!!!く、来るなぁ!!!」



おじさんに私の声が届いて居ないのか、腰の抜けた状態で、四つん這いで馬車の方に逃げる。


火事場の馬鹿力とでも言えば良いのか、そんなヨレヨレの体付きで馬に跨り、風の様に駆けて行った。


「あ!!!待って・・・!待って下さい!!私あなたに聞きたい事が・・・!!!」



慌てて追いすがり、その背に静止を求めるが、私と言う恐怖対象から逃げるおじさんに届く筈も無かった。




「そんな・・・・・・」



残ったのは血塗れの私と、打ち捨てられた荷台。また私はこの世界で1人になってしまった。





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