No.34 私の所為です・・・
No.34 私の所為です・・・
「待たせたな」
そう声が掛かったのは、待ち始めて1時間くらい後だった。戻って来た門番の後ろには、街の人だろうか?テアドルさんよりも少し若い男性が立っている。
「お前達がこの斡旋状を持って来たと聞いたが?」
「あぁ、そうだ・・・」
「あのバカ息子、久々に寄越して来た手紙が仕事の内容とは・・・・・・」
「息子?」
カイルさんからの斡旋状を片手に項垂れる男性。その口から呟かれた"息子"と言う言葉。
「おうよ、俺の名前はモーゼ。この国で鍛冶屋を営んでいる。カイルは俺の息子だ、世話になってるみてぇだな」
────斡旋先の鍛治師はカイルさんのお父さんでした。
「・・・あいつ・・・いや、確かにカイルなら自分の親父さんを紹介して来るか・・・」
「そうなんですか?」
「カイルは、自他共に認める親父さん至上主義だ。"鍛治師としての能力は、父さんの右に出る者は居ない"あいつの口癖だ・・・」
「あいつ、そんな風に言ってんのか!︎」
驚きと気恥ずかしさが混ざった表情。
息子に褒められた事がとても嬉しかった様で、何とも微笑ましい。
「それより、入国の件はどうなった?」
「ん?おぉ、俺への来客って事で、良いよな?」
「上からの許可は得た。訪問先の者が来客者を歓迎するのならば入国を許容する。ただし、それらが問題を起こした場合はその者にも責任を科す。以上が許可に当たる条件だ」
門番が条件を我々に念押しする。入国し辛い時期に来てしまった中での特例措置と言う事だ。厄介事を起こしたら、それなりの覚悟をして置けと。
「あんがとよ!てな訳で、若ぇの2人歓迎するぜ」
「ジルニード=ヴィクターだ、入国の助力感謝する。よろしく頼む」
「メグミです!社会見学に来ました!よろしくお願いします」
軽い握手と共に自己紹介を済ませる。
「ここで話すのも何だしな、さっさと入国しちまいな。俺の家でゆっくりと話そうや」
親指で背後の門を示し、促される。
一度許可が下りて仕舞えば、入国の手続きはあっという間だった。身分証の付けた掌を壁に付いた魔導板に合わせると腕輪の魔法石が光る。
「我々、ドルガニルはあなた方を歓迎します」
魔導板と腕輪それぞれに情報が登録されたのか、ものの数十秒で私達は門の内側へと迎え入れられる。無事、目的地へと到着したのだった。
ドワーフの街は、石やレンガ造りの建物が多く、少しだけシルビアの雰囲気を感じる。
ヴィクターさん曰く、シルビアは防壁都市としての役割がある為に、燃え難い素材を重視して建てられていると言われていたが、ドワーフの街もまた、火を扱う関係でそう言った素材を使用しているのかも知れない。
だがやはり、外から見た時同様に煙突からは蒸気は上がらず、金属のぶつかる音も聞こえない。
街には人通りもあり、寂しい閑散とした雰囲気と言う訳では無いが、どことなく街行く人の表情は覚束ない。
先を行くモーゼさんの後を追いかけ、キョロキョロと街を見渡しながら歩く事少し。モーゼさんは一軒のお店の前で立ち止まる。
「ここが俺の店だ。さ、入った入った」
「は、はい!お邪魔します」
ドルガニルの建物はシルビアと似ていると思ったが、明確に違う所があった。建物自体とそれに付随する扉だ。人の住む建物よりも低く建築されている。
ドワーフ全員がそうとは限らないと思うが、商人のテアドルさんもモーゼさんも、門番の兵士も私より小柄だった。
したがって、玄関の扉がやや低いのは利用するニーズに合わせて誂えてあるのだと思う。
私だと少し首を下げる程度の高さなので、問題無く潜り抜けられたが、後ろのヴィクターさんは人間としても高い方なので、しっかりと腰を折っていた。
「ただいま、帰ったぞ。妻のラナだ」
「あらあらあら、お帰りなさい。そちらがお客様?」
「ジルニード=ヴィクター、冒険者をしている。こっちは弟子のメグミ。急な来訪失礼する」
「初めましてメグミです!お邪魔します」
ドアを開けると直ぐにリビングでラナさんに迎え入れられる。
「人族のお客様は初めてだわ!初めまして、ラナよ。この街に住んでいる数少ない人族なの、宜しくね」
そうだ、カイルさんはハーフドワーフだと言っていた。カイルさんの見た目が、私達人間と見分けが付かなかったから、もしかして・・・と思わないでは無かったが、やはり同じ種族なのだ。
ニコニコと迎え入れられ、全員でテーブルを囲む。台所ではお湯が沸き、ラナさんお手製のお菓子と淹れたての紅茶を頂きつつ話を進める。
「2人はドルガニルに来るのは初めてか?」
「あぁ、どちらも初めてだ」
「そうか、活気に溢れた本来の国を見せてやりてぇが、今はちょいとゴタついててな・・・」
歯痒そうな表情に、事情を聞いて良いものか悩む。はっきりと明言されない所を見ると、他国に知られない方が良い物なのか。
「いや、事情を抱えた時期に来てしまったのはこちらだ。気に病むことは無い」
「───ああ。所でカイルは元気でやってるか?問題とかは起こしてねぇか?アイツは自己流というか、自分の感覚を重視しがちだからな・・・」
「今はシルビアの街中に工房を構えている。腕も確かで冒険者からの信頼も厚い。まぁ、多少・・・そうだな、好事家ではあるな」
「はははっ!!そうだろうな!!」
元気にやっている息子の近況を喜び、嬉しげに笑う豪快な声。
離れていても互いをよく理解し、親子でリスペクトし合っている事が伝わって来て、思わずこちらも口角が上がる。
「俺はギルドに所属して5年の付き合いになるが、武器や防具の調整は専らカイルに世話になっている」
「ははーん、手紙には常連が武器を壊してしまって困っているから、代わりに俺に一本誂えて欲しいって書いてあったが、何だそんなに厄介な武器を使ってんのか?」
「・・・これなのだが、この剣に匹敵する物を打っては貰えないだろうか?」
ヴィクターさんは、私が盛大に破壊したミスリル製のロングソードを取り出し、モーゼさんに手渡す。
「は?こいつは、カイルが修行の最後に打ったミスリル製の剣じゃねぇか!こんなもん早々折れるもんじゃねぇぞ・・・一体何を斬ろうとした?」
「・・・・・・・・・」
「あ?」
無言で私に視線を向けるヴィクターさん。それに続いてモーゼさんラナさんの視線も集まって来た。そうなんです、犯人は私なんです。
「いやいやいや、冗談キツいぜ。こんなほっそい嬢ちゃんがこれを壊したって?そんなの400年以上生きてて聞いた事ねぇぞ」
「色々と事情があってな・・・ミスリルは俺の風魔法と相性が良い、出来れば同等の物でお願いしたい」
「そうさなぁ・・・・・・・・・」
急に沈黙が流れ、モーゼさんは押し黙ってしまった。もしかして、貴重な息子さんの渾身の一振りを壊してしまったから、お怒りなのかも知れない・・・
ヴィクターさんが私の事を詳しく語らず、ボカした言い方をしたのは必要以上に事情を広めない様に配慮されたのだと思う。
だが、こちらの手の内を見せないまま、進めて良い物なのか・・・会話に入り込む手段も無く黙って状況を見守る。
「・・・・・・無理そうか?」
「────・・・いーや、結論から言うと出来る。が、今は出来ない・・・」
「と言うと?」
フ―――・・・と言う長い溜め息の後、重々しくモーゼさんは口を開く。
「さっき、ゴタついてるって話しただろ?今、国全体で鍛造が止まってんだ」
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