No.32 雪山でもう一晩
No.32 雪山でもう一晩
ロック鳥の縄張りを抜け、更に山を登る。
今までとは違い勾配は緩やかになったものの、道は限り無く狭まり馬車の車輪ギリギリの幅しか無い。
こんな道が正規のルートなのかとテアドルさんに聞くと、そもそもドワーフの街を交易に訪れる商人は、マジックバッグに荷物を入れて馬に跨る場合が多く、こんな風に道幅チャレンジする人の方が珍しいのだと笑っていた。
商人ジョークなのだろう。慣れた道としているテアドルさんだから笑い飛ばせる訳で・・・
初めて通る私は、運悪く脱輪して左の崖から転落するのでは無いかとヒヤヒヤしている。
「この断壁を超えたら、今夜の野営の場所を探す」
「それなら、開けて直ぐにある洞窟を寝ぐらににしよう。ワシら商人はよくそこを利用する」
この状況に怯む事なく、普段通りに段取りを組む2人には感心する・・・これが経験から来る余裕なのだと。いや、馬も含め2人と1頭か。
「ここを抜けると、ドルガニルまでもう直ぐなんでしょうか?」
「あぁ、もう間も無く開けた場所に出る。見てみろ」
岩壁が空からの光を遮り、薄暗い道を進んでいたが、前方に外からの光が差し込むのが見える。
あの場所が、この壁の終わりなのだと知る。
近づくにつれ次第に光はより明るく差し込み、数時間ぶりの外の光に目を細めた。
「────わっ!!」
完全に抜け切ると、陽の光が反射する真っ白な雪原が姿を現す。
テレビで見る降雪地域の映像を見ている様だ。
借りたままの外套のおかげで寒さは然程感じていないが、顔に当たる風は雪を連れてひんやりと冷たい。
「こんなに壮大な雪景色、初めてです・・・」
「ここは、この大陸でも数少ない雪の掛かる山脈だ。レオニア王国では見られない景色だから目に焼き付けておくと良い」
俺達も任務が絡まなければ、早々見れる景色でも無いからな、俺も久しぶりだ。そう言いヴィクターさんは僅かに笑う。
「水魔法が得意だと、派生で氷魔法も可能になり、その副産物として雪が降る事もあるらしい・・・氷を操る魔物も居るから、雪自体は見る事は平原でも可能だが、辺り一面に積もる雪は希少だ」
心なしか、ヴィクターさんも雪景色を楽しんでいる、そんな気がした。
「テアドル殿、馬車の調子はどうだ?雪が深ければ風魔法で排雪し路面を確保も出来るが」
「いやいや、この位なら問題なく進めるさ。今晩更に降り積もる様なら、明日の旅路には頼むよ。さて、そろそろ今晩を過ごす洞窟が見えて来るはずだ」
ザクザクと、雪を踏み締めて進む馬車の左手に洞穴が開いた小山が現れた。馬車ごと中に入ってもまだ余裕がある程に大きい物だ。
中には確かに焚き火の後が残っていて、他の誰かがここで休んだり、一夜を明かしたりしていた形跡がある。
「これなら、十分な休息が取れるな」
「あ!薪木出しますね」
昨日大樹の下で集めていた余りの木や枝をマジックバックから取り出す。
煤で黒くなった地面に被せる様に配置すると、ヴィクターさんが魔法石で火を点ける。
「昨日はそちらの肉を頂いたからな、今日はワシが食事を提供しようかの」
焚き火の前に座り、テアドルさんは自身のバッグから今釣って来たと見紛う程に新鮮な魚を取り出す。
内臓も処理してあり、数匹がバラバラにならない様に綺麗に縄で纏められている。
「美味しそうなお魚ですね・・・!」
「街を出る前に買っておいたのさ、マジックバッグなら状態を保つ事が出来て、傷む心配も無い。旅は道中の食事も楽しむ事が大事でね」
ナイフで縄を解き、串を刺して行く。私も手伝おうとしたのだが、クルリと捻る所が上手く行かずに、あえ無く塩振りの担当になった。
塩はそこそこ貴重品らしく、溢して無駄にしない様丁寧に塗し、火のそばに立てる。
6本立て終わる頃には最初の魚に火が入り始め、洞穴内は香ばしい魚の匂いが立ち込めて来た。
「良い匂いがして来ましたね」
「じっくり焼いた方が美味いからの」
生唾を飲み込み、ジッと魚を眺める私とは対照的にヴィクターさんは黙々と剣の手入れを行っていた。
「───さて、頃合いかの。戴こう」
「頂きます!」
美味しい匂いに焦らされた胃は早く食べろと、空腹を訴えて来る。
しっかりと焼けた魚を手に取り、ヴィクターさんとテアドルさんが口を付けたのを確認して齧り付く。
パリッと鳴る皮目、中の身はふっくらと柔らかい。
「お、美味しいー・・・!」
火から上げたばかりで熱さはあるが、それよりも焼きたての魚の美味しさに感動した。
川魚の様な歯切れの良さもあるが、けして淡白では無く脂味もきちんと感じられる。
「気に入って貰えたようで良かった」
にんまりとした笑みを浮かべるテアドルさんに「はい!」と返事をしつつ夢中で食べ、2本目もあっという間に完食した。
全員が食べ終わると、ヴィクターさんがお茶を淹れてくれて、飲みながら談笑をする。
「明日は旅の終わりになる・・・短い間じゃったが、ありがとう」
「え!いえ!こちらこそ!ここ迄運んで来て貰えて、すっごく助かりました!ありがとうございました!」
「良い旅路だった。新人の研修もさせて貰えた事も含めて、恩に着る」
「ほほっ、お嬢さん良い冒険者になるんじゃぞ」
「はい!」
お別れは明日街に着いてからになるが、先に感謝を伝える。
冒険者と商人、決まった長期契約が無い限りこうした出会いも一期一会なのかもしれない。
「テアドルさんは、ドルガニルに着いたらまた違う街へ?」
「いや、旅は今回で終わりだ。ドルガニルが終着点になるからの」
どう言う事だろう?商人が旅を終えるとは・・・
「ワシはドワーフとして商人をしておったが、そろそろ畳もうかと思っていてな・・・歳ももう若く無い。余生はゆっくりと生まれ故郷へと帰るつもりでいたのさ」
「辞めてしまわれるんですか?」
「うむ、いつ帰郷しようかと考えていた。そんな矢先、そこの若いのにレオノラで話しかけられた。聞けば行き先はドルガニルで、警護もしてくれると来たもんでな。渡りに船と快諾した訳だ」
成る程、マリーさんがヴィクターさんにヒントをくれた夜、もしかしたらテアドルさんの事情を知っていての事だったのか。
ドルガニルへ帰りたい者と、向かいたい者をタイミング良く引き合わせた。
「そう言う事情があったのか・・・マリーにも帰ったら礼を言わなければならないな」
「はい!お土産のお酒も忘れずに、ですね」
「帰郷して終えばもう、あの店に通う機会も恐らく無いだろうから、ワシからの礼も伝えておいて貰えると助かる。また改めて手紙は送ろうと思うが、先んじて頼みたい」
「お任せ下さい!」
「すまないね、ありがとう」
それから暫く、眠気が来るまで3人で色々な話をしたのだった。
.
この回で、念願の10万文字を突破致しました!!!
ここ迄読んで下さって、ありがとうございます・:*+.\(( °ω° ))/.:+
有難い事にリアクションを沢山頂き、とても励みになっています!
今後も引き続き、楽しく書いて行けると良いなと思います!よろしくお願いします(*´◒`*)




