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No.31 縄張り


No.31 縄張り






「かなりの悪路ですね・・・勾配も地味にキツい・・・」


「正式な道ではあるが、整備はされていないからな・・・」



翌朝目覚め、朝食を手早く済ませて我々は出発した。

草原地帯を抜け、景色は次第に岩肌が剥き出しの荒野へと姿を変える。草木は多少生えてはいるものの、ほとんどが枯れかかった物で、どこか寂しさを感じた。


路面も景色に合わせるかの様に悪くなり、砂利や転がる石も大きくなって行く。

馬や車輪への影響を鑑みて、私とヴィクターさんは荷台から降りて馬車後方を歩いている状態だ。


「魔物とか、出て来そうですね・・・」


「勘が良いな。そろそろ縄張りに入るぞ」


辺りが大きな岩だらけの場所で、視界も足場も悪い。地形だけで見るならば、住んでいる生き物の方が圧倒的に有利だ。


不安感から警戒を強め、気配を探る。と同時に、何かが上空よりこちらに向かって来ているビリビリとした感覚。

赤いモヤを纏った大きなそれは、明らかにこちらに対して、敵意を向けている。



「ヴィクターさっ・・・!!」


声を掛けるより早く、スライムと戦った時に見た風の壁が、ヴィクターさんと私達の間に張られる。


「お前は馬車に付いていろ!無闇にそこから出ようとするなよ」


「私は、どうすれば!」


「俺の戦闘を見ている事。それだけで十分な学びがある」



剣を構えるヴィクターさんは、昨日の蛇の時に比べ声が低い。集中している時の声なのだろう。


「来るぞ」


消魂しく岩場に反響する鳴き声、辺りに粉塵を巻き上げる程の風圧と羽音。

我々の前に現れたのは、巨大な鷲だ。


「ひっ・・・!大きな鷲っ!?」


「おや・・・見るのは初めてかね?ロック鳥と言う魔物だ。非常に獰猛で、マウンテンバイソンすら爪で持ち上げ巣まで持ち帰る・・・」


風の壁に一緒に隔離されたテアドルさんが、驚く私に教えてくれる。

マウンテンバイソンがどのくらいのサイズの生き物なのかは分からないが、恐らく牛を食糧として運べる程に強靭な魔物だと言う事は分かった。


生命の危機を感じているのだろう、ここまで荷車を引いてくれた馬は震え、身を小さくしている。



「・・・あの鳥、どのくらい強いのでしょうか?」


「魔物としてはB級の冒険者が受けられる依頼と言われている。だが、ロック鳥は今が繁殖期になる・・・気が立ったロック鳥となると、A級相当の討伐難易度になると見た方が良いだろうな」


「A級・・・」


「あの冒険者はS級と言っておったが、本来B級の複数のパーティで挑む魔物。ソロの実力がどれ程か・・・お手並み拝見といこうかの」




先手を取ったのは空中にいるロック鳥。大きな両翼を同時に振り、風を切ると鋭利な羽根がヴィクターさん目掛けて放たれる。


風圧を利用しているのか、そのスピードはミサイルさながらに高速で降りかかる無数の羽根は、全てが速度を落とす事なくターゲットへと向かう。


だがヴィクターさんは、その攻撃を見切っているのか剣で弾きながら身を翻し避ける。


地面に落ちた羽根で土煙が舞い上がり、ヴィクターさんの姿はこちらからは見えない。

剣に弾かれた時の閃光とキンッと言う高い音だけが、無事である事の確証になっている。



ロック鳥はと言うと、獲物の状況を確認しようとしたのだろう、攻撃の手を緩めその場に滞空する。


その隙をヴィクターさんが見逃す筈もない。

未だ姿を覆い隠す土煙を切り裂く様に、何かが飛び出して来る。

半月を描く型のそれは、様子見をしていたロック鳥の左翼を付け根から断ち切った。


浮力を失ったロック鳥は、バタバタと巨大な体を落とさないように残された片翼で抗う。


そのタイミングでヴィクターさんが辺りの岩場を足場に使い、反動を付けて一気に未だ空に居るロック鳥の高さまで跳躍した。




そこからは、早かった。


ロック鳥の背に乗った状態で残った翼も落とし、岩場に向かって急速に落下して行く。

巨体が地面に叩き付けられる前にヴィクターさんは、ひょいと飛び降り衝撃を回避。



そこで初めて知った、ヴィクターさんの風魔法は自分自身を浮かせる事も可能と言う事を。

飛び降りたのは空中で、その体はロック鳥とは対照的にゆっくりと地に降り立つ。


地上では、落下の衝撃を全身に受け弱りながらも、身を奮い立たせ威嚇するロック鳥。



「ここまでだな」



剣を腰の高さ迄下げ、姿勢を低くする。

何かの攻撃を繰り出すのだろうかと思っていた刹那、ロック鳥の首に斬撃が入り、その身はスローモーションの様に斃れる。



「・・・・・・まるで、居合みたい・・・」


剣に付着した血を振り払った後こちらに向き、掌を外に返すと私達とヴィクターさんを別つ風の壁が消え、それが解除する動作だったと分かる。



「戦い方は分かったか?」


「何となくですが・・・」


「俺の場合は、高度を下げさせる為に風魔法を飛ばすやり方が1段階目に入るが、お前の場合は初手で飛び上がれるだろう?高過ぎず丁度羽根に手が届くくらい迄跳躍すれば、後は似た様なやり方で倒せる」



避ける、飛ぶ、乗る、攻撃、頃合いを見て離脱。段階としてはこの流れだった。理解は出来る、実践となると全く別の話にはなって来るが・・・


「一体倒した事で、他のロック鳥は俺達に対して無闇に攻撃して来る可能性は低くなった。が、警戒は続けるように。帰りに、もしまたこちらに威嚇をして来るなら、その時は今見たやり方で倒してみると良い」


「え゛?!E級の私がB級の魔物を?!」


「・・・クローベアも序列としては下だが、一応B級の枠内だぞ?」


「あれは不意打ちに等しい状況だったから出来た話でして!相手に認識された状態で開始するとなると・・・!」



そうなると一気にハードルが上がる。D級のスライムを倒したばかりにも関わらず、運良く倒した事例を引き合いに出されると非常に困る。



こう見えて、仕事は段階を踏んで徐々にスキルアップして行きたい派だ。1日でも早く使える様になりたいが、数段飛ばしで上がる階段ほど怖い物は無い。後々の障害になるのは目に見えている。


丁寧に迅速に・・・私の体質が丁寧に向いていない事は承知の上での話である。



「い、いずれは倒して見せたい所ですね・・・」


「あぁ、ちなみにだがロック鳥は買取の素材が豊富で、かつ需要が高いからなるべく綺麗に狩ると良い」


私が頭の中で返事を何て返そうと模索している間に、ヴィクターさんはロック鳥の素材をマジックバックへと早々に入れ終わっていた。



「馬も落ち着いてきたので、そろそろ出発出来そうだが、いかがかな?」


ロック鳥に怯えていた馬も一先ずの危険が去った後、テアドルさんに撫でられた事で平静を取り戻し、荷車を引ける状態に回復したみたいだ。


「こちらは問題無いが・・・警護配置を変える。俺が前方を歩くから、馬車を挟んで後方はお前に任せる」


「・・・は、はい!」


ヴィクターさん曰く、自分が前を歩く事で威圧し、戦意を削ぐ作戦だそうだ。



その作戦は見事に的中し、道の両サイドに聳え立つ岩場からこちらを睨み付けるロック鳥が攻撃態勢をとる事は無く、ヴィクターさん、馬車、私を並び通りに熟視はしていたものの、我々が縄張りを抜けるまで攻撃して来る事も無かった。





.

【備考】

ロック鳥は本来、羽以外にも突進、骨をも砕く爪、肉を引き千切る嘴と、攻撃は多彩で冒険者にとっては、鬼門の討伐依頼とされているが、ヴィクターが対峙すると攻撃方法を変える間も無く、狩られてしまう。

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