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No.29 私、役にたっていますか?


No.29 私、役にたっていますか?






結局、その日に出くわしたのは蛇だけで、遠巻きに魔物の姿は確認出来たが、害はなさそうだと判断。

ひたすら進み続け、そのまま日が暮れた。


「今日はこの辺りで野営としよう」


ヴィクターさんの指示のもと、大きな木の下で幹を背にして、正面に落ちた葉っぱを退かしたり、枝を拾って座りやすい様に整える。

拾った枝や葉は、焚き火用に纏めて山にしておいた。


「こんな物かな・・・?」


割り振られた仕事が終わり、他に何か出来る事は無いかと打診をしたが、特に無いので座っていろと言われ、石を椅子代わりにして現在待機状態だ。


目の前ではヴィクターさんが火を起こし、鍋を吊るす。中は当然空で、何を入れるのだろうと見ていたのだが、鍋に翳されたヴィクターさんの手が少し光り、次の瞬間鍋に水が湧いた。


「えぇ?!」


手品を見たかの様な出来事にで、驚きの余り声が出る。突然湧いて出た水、どう言う原理なのだろう・・・と一瞬考えたが、一昨日この世界には魔力と言う物が存在していると習ったばかりだ。つまりこの不思議な現象もそう言う事か・・・



「でも、あれ?ヴィクターさんは、風魔法を使われてましたよね?水魔法も使えるんですか?!」 


使える魔法の属性は基本1人1つ。これもその時に一緒に教わったこの世界の常識。

だが、ヴィクターさんは何も無い所に水を湧き上がらせたのだ。


「・・・あぁ、言って無かったな。余り得意では無いが、水魔法の適正が"2"程ある。が、生活に使う程度で戦闘や浄化向きでは無いな」


魔法適正がゼロの私からしたら、例え生活利用限定の魔法であっても、それだけでQOL(生活・人生の質)が確約される訳で・・・正直、羨ましくもある。

人間としての生活を捨てた様な生き方をしていた過去の私なら、喉から手が出る程に欲しただろう。



「お爺さん・・・あ、お名前を伺っても?」


「ん?儂か?テアドルだ」


「テアドルさんは、何の魔法が使えるんですか?」


「儂は、これだ」


テアドルさんが掌で地面を撫ぜると、土がボコボコと波打ち形を変えて行く。


「わぁ・・・!」


変化を終えた土は、額に一本角の生えた兎の形をした手乗りの像へと姿を変えた。


「これがホーンラビットじゃな」


細かく、毛並み一つ一つが立体的に見え、柔らかな質感がよく表現されている。

私はツノウサギが実際動いているどころか、話を聞いただけで、実物は見た事が無い。

しかしその像から柔らかく触り心地も良さそうな雰囲気が伝わって来る。きっと、本物もそうなんだろう。


「儂は余り魔力が強く無いから、この大きさの人形を作れるくらいだな」


本当に使える魔法も威力も人によるみたいだ。


「後は、こう言った野営をする時に、地面を整えたりも出来る。生活魔法としてなら十分さ」


さっき私が落ち葉や石を退けた時よりも、地面が柔らかく完全に乾いているのは、テアドルさんが魔法で整えてくれたのだと分かった。

恐らく、他にやる事が無いかとヴィクターさんを探しにその場を離れた時だ。


人知れず、誰かの為にも使えて助けにもなる・・・私も何か使える魔法があれば良いのにと思う。



「得手不得手は個人差だ。俺はそこ迄繊細で細かい像は作れない。さ、出来たぞ」


私がテアドルさんと話している間に夕食が完成してしまったらしく、木で出来たお椀を渡されテアドルさんはそれを受け取る。

続いて私も同様の物を貰う。


「以前、受けた討伐依頼で狩ったファングボアの肉を煮込んだ物だ」


スープと言うよりは、煮込み料理に近そうだ。

ゴロゴロとした肉をフォークで口に運ぶと、鼻腔を抜けるスパイスの香り。


牛や豚や鶏の様に食べる為に丁寧に育てた肉とは違い、野生に生きていたであろう脂身の少ない赤身の肉は、肉厚で齧りごたえがある。

クセも少なく、スパイスが臭い消しになっているのか、非常に食べやすく美味しい。


「あっつ・・・!」


美味しさの余り夢中で頬張っていたのだが、肉の中心部は外側に比べて噛み潰すにはまだ早過ぎた様で、溢れ出した肉汁が口内に広がる。


慌てて水を飲もうとコップに手を掛けると、空のコップに溢れんばかりの水が注がれる。

鍋の時の事が頭を過り、反射的にお礼を言おうとしたが、口の中の一大事に間髪入れず先に飲み干した。



「っはーー・・・お水、ありがとうございますヴィクターさん・・・」


「・・・お前・・・・・・・・・・・・いや、またで良い」


「?・・・はい」


何か言いたげな表情に思えたが、ヴィクターさんが引っ込めた何かを、追求するのも失礼だと思い了承の相槌を返す。


それからは、明日の予定や道程の確認をテアドルさんと組み立てながらの食事で、私は会話の内容だけ頭に入れつつ、肉汁に気を付けてあっという間に食べ終わった。



明日は、山を越える為に荒れた道を通るらしい。この山脈を超えた先がドワーフの国となり、1番使われている正式なルートになるそうだ。

途中、魔物が・・・縄張りが・・・と言う会話も聞こえたが、これに関しては見た事も聞いた事も無いので、想像すら出来ずにいた。


せめて、生き物図鑑や辞書みたいな物があると良いのだが・・・そうすれば事前に予習が出来るし、ブリーフィング(事前打ち合わせ)にも参加出来る。


見て覚えろ、聞いて覚えろのアナログ式だけでこの世界を歩くには、些か心許無い。



「そろそろ、休むぞ。また夜明け前に出立だ」


「分かりました」


返事をした後に、ふと気付く。こう言う時は寝ずの番を立てたりはしないのだろうか?

元の世界と違い、魔物が居ていつ襲って来るかも分から無い状況。1人の時は木の上でひと晩を過ごしたが、今日は地表での野宿になる。寝込みを狙われたら危険だと言う事は、私でも分かった。


私が思い付く事なら、歴戦のヴィクターさんにとっては当たり前の事かも知れない。

となると、もしや寝ずの番はヴィクターさん1人がされるなんて事・・・


「ヴィクターさん、もし良ければなんですが、私見張りとかなら出来たりしませんか?」


「・・・・・・・・・」


「今日一日私は、見学のみで殆どお役に立てて居ないので・・・夜更かしには自信があります!!そのまま寝ずに次の日も働けます!!」


24時間働けます!!!と言い掛けたが、このワードは伝わならないと思ったので、頑張れる旨だけ伝えた。


「・・・・・・・・・・・・見張りは俺がするつもりだ。お前気配察知のスキルは無いだろう?」


「け、気配察知スキル・・・?」


また知らない単語が。


「簡単に言うと、接近する物が自分の間近くに来る前に感覚的に気が付く。俺の場合は"殺気"で悟るやり方だが」


「具体的は、どう言った感覚的になるんですか?」


「そうだな・・・感覚を研ぎ澄ます・・・周囲に対して集中すると"そこに居る"と分かる。人によっては色で見えたりもするらしいが」


「集中すると色で・・・───あれ?」



似た様な感じが昨日あった気がする。

そう、昨日の薬草集めだ。キュリア草を探す時に初めは手探りだったが、その内どこに生えているのかが分かるようになったあの不思議な現象。


もしかして"キュリア草の発する気配ではないだろうか?"と漠然と思い、私はヴィクターさんに昨日の流れを説明した。



「・・・・・・植物の気配を感じる事は普通は出来ない。森と共に暮らすエルフや木の精霊達は対話すら出来ると言うが・・・・・・いや・・・お前の規格外の能力を考えれば、あり得ないとは言い切れない・・・」


眉間を人差し指と親指で押さえながら、唸るヴィクターを見ながら、ふとギルドでの自分の能力を映し出した時の事を思い出した。


能力の欄で、ボヤけて表示されていなかった項目がいくつもあった。

もしかするとそこに、この不思議な現象の詳細が隠れているのかもしれない。

次にギルドに戻った時に、一応再確認しておこう。



「・・・・・・植物の気配すら察せるなら、それ以外の生物全てが出来そうだな・・・・・・・・・分かった、火の番を少しの間だけ任せる。が、何かあれば直ぐに俺も反応出来る様にはしておく」


「良いんですか?!ありがとうございます!頑張ります!!」



火の番と言う大役を任された事で、より一層気合が入る。ヴィクターさんには少しと言わず、数時間しっかりと睡眠を摂って貰いたい。


昼間は役に立てなかったが、こう言う時こそ私のエナドリ効果の見せ所だ。気合を入れたお陰か目は冴え渡り、眠気のねの字も浮かばない。


寝ると言う行為は出来るから、常に発動しているらしいエナドリ効果が、どう言うタイミングで強く出たり弱まったりするのかも不明だが、今の私の状態は頗る良いと思う。


「仮に、俺よりも先に何か感じた時は直ぐに知らせろ。良いな?」


「はい、違和感は直ぐに報告します!」


「1人で何とかしようとするなよ、良いな?」


「はい!」


薄い布を体に掛けつつ何度も重ねて私に確認をすると、ヴィクターさんは大樹に背を預け、そのまま目を閉じる。

完全に寝入ると言うよりは、うたた寝に近いのかもしれない。

もしかすると、野宿の際の寝方はこれがスタンダードなのかも・・・と思い、以降は起こさない様に見張りに徹する。



先に就寝されたテアドルさんは、火に背を向ける様に寝そべり、馬と共にグゥグゥと寝息を立てている。

ずっと馬を操り、馬車を転がすと言う仕事も疲れが出やすいのだと、ここまで運んでくれたテアドルさんと馬に感謝した。





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