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No.28 見て覚えろ


No.28 見て覚えろ





「───ぃ・・・おい・・・起きろ」


「はっ・・・!すみませんっ、私寝てました・・・!!」


遠くから聴こえた声に、弾かれる様に飛び起きる。私どのくらい寝ていた?!

屋根からこちらを覗き込むヴィクターさんに、慌てて謝る。


「あぁ、少しの間だけだがな。そろそろ夜が完全に明ける。まだ交代は不要だが、これから魔物に出会す可能性が高い。状況を自分の目で見ておくんだな」


「はい!」


ジワリジワリと地平線から太陽が昇り始め、薄暗い景色は色を取り戻していく。



ドワーフの街はシルビアを出て、ひたすら北上した先にあるらしい。山岳部に位置する為、標高の高い山には雪が積もっているそうだ。

今はまだ草原が続いているが、この景色も地域でかなり変わって来るのだろう。


まだ見ぬ景色に心躍らせていると、馬車が速度を緩める。


「────魔物だ。この辺りはホーンラビットの生息地になっているが、それを捕食するポイズンスネークが稀に現れる事がある」


「い、居ますでしょうか・・・」


「恐らくな。ポイズンスネークは夜行性だが、捕食した後に巣に帰らずにホーンラビットの縄張り内に残っている可能性が高い」


「姿が見えて無いのに、分かるんですか?」


この位置からでは、巣が何処にあるのかは分から無い。


「ホーンラビットは縄張り意識が強く、地下にトンネルを掘り生活をしている。その関係で、あちこちに地上に続く穴を掘っている。ここ迄離れていても・・・ほら、あそこだ」


ヴィクターさんの指の先を追うと、地面に中型犬が潜り込めそうなサイズの洞穴が見える。


「あれは偵察用の穴だ。危険を察知した時の逃走用にも使う為、広範囲に広がっている。本来なら、道沿いに何者かが通ればホーンラビットは穴を使い、様子を見に来るが今日はそれが無い」


「と、言う事は・・・どうなるのでしょう?」


「ポイズンスネークが食い尽くした後、もしくは穴を利用して逃げたか・・・どちらにせよ、まだヤツは居座っていると見る」



ゆっくり進む馬車は、街道を挟んで左右に穴が複数ある地帯に入った。どうやら、ホーンラビットとか言う・・・恐らく兎は、街道の地下に穴を通している様だ。

つまり、今通っている道は巣の真上かもしれない。


「地下の穴に居るのかもしれないな。俺達はこのままポイズンスネークを無視して、通り過ぎる事も出来るが・・・・・・」


「次にこの場を通った誰かの、命を犠牲にしたく無い・・・です」


「そう言う事だ。コイツは俺がやる」


「はい!見学しておきます!」


荷台の上から飛び降りたヴィクターさんは、前方に向かう。同時に腰のベルトから剣を抜き、地面に振動が響く様片足の爪先をトントンとノックする。


すると、音に反応するかの様に地面を何かが這う感覚。それは真っ直ぐヴィクターさんのもとへ向かっている。


「あっ・・・」と、思った瞬間、ヴィクターさんの背後、近くの穴から大きな蛇が飛び出して来た。

蛇そのものも大きく、更に大きく口を開け飛び掛かる姿は、頭だけでも牛くらいのサイズはあるだろうか。


恐らく、背後から襲って来る事を見越していたのだろう、軽く横へ避け頭を躱したかと思うと、瞬き1つ。

私が一瞬目を閉じ、開けた瞬間に蛇は頭を落とし、胴体も遅れて地面の上に倒れ落ちる。



「終わったぞ、これがポイズンスネークの倒し方だ。分かったか?」


「え゛っ?!!」


正直、何も分からなかった・・・私の瞬き一瞬の間に何が起きたのか。



「すみません、見ていたはずなのですが・・・分かりませんでした・・・」


「こいつは、奇襲の際に身体を引き寄せて力を溜めてから飛び掛かる。途中で軌道を変える事は出来ない。躱したら、こいつが地に降りる前に即首を落とす」


タイミングを見て避けて切る、難しい事は何もやってない。そんな表情だ。"言うは易く行うは難し"とはまさにこの事。

やってみろと言われても出来る気がしない・・・



「お前の場合、不意打ちで襲われて反応出来なくても、敵が当たり負けるだろうから・・・危険性は低いが、一般的には早い段階で倒す事が重要だ」


「時間をかけるのは駄目なんでしょうか?」


「こいつは、口から毒の霧を吐く。対象を弱らせてから捕食する為にな。吸い込む量によっては、即動けなくなるから知識として覚えておけ」


毒の霧と言う恐ろしい武器を持った蛇・・・咬まれずとも呼吸だけで死ぬ可能性がある。

今まで出くわした中では1番ヤバい魔物なのでは無いだろうか?



「・・・・・・お前は、毒はどうなんだ?」


「どうと言いますと?」


「防御力が高いのは分かったが、毒と言った弱体化を目的とした状態異常は受けるのか?」


「・・・どうなんでしょうか・・・?」


その様な場面に出くわした事もないので、毒が効くのか効かないのかと聞かれても、答えようが無い。

わざと毒を浴びてみたとして、効く体質だった場合普通に死んでしまうのではないだろうか?


これ迄のヴィクターさんの感じから、実験的に・・・蛇の毒を浴びてみろなんて言われたりしないだろうか。


不安になり、ジッと見つめていたのだが、私の考えている事が伝った様で「一応、毒消し用のポーションは持っているが。さすがに、試そうとは思っていないから安心しろ」と安全面での配慮の言葉を貰った。


この先運悪く、たまたま毒を持った魔物に遭遇して、万が一毒の影響を受けた時は真っ先にそのポーションにお世話になるとしよう。



「さてと、こいつも素材としては取れる所があるからな・・・このまま回収して行こう」


マジックバッグの中から、別の袋の様なものを出して、蛇に向けると大きな体が吸い込まれる様に消えた。私が昨日借りていた麻袋と似ている。


「それもマジックバッグなんですか?」


「そうだな・・・道具用と素材用で使い分けているだけだな。・・・そろそろ馬車に戻って出発だ」



後方を見ると、ヴィクターさんが飛び降りた場所で馬車を止め、お爺さんは馬に水を飲ませていた。


ホーンラビットと言う魔物が現在巣に居ないとしても、敵地のど真ん中で慌てる様子も無い事をみると、余程冒険者を信頼しているのか、経験則からの判断なのか・・・どちらにしても肝が据わっている。



「終わりましたかな?」


「あぁ、もう通過しても大丈夫だ」


「ほほっ、では参りましょうか」


御者台に座り、帽子のツバをクッと下げて再出発の合図をする。


「結局、ホーンラビットは巣に居なかったんですかね?」


「・・・昨日の晩御飯覚えているか?」


「はい、ツノウサギのベーコン?と野菜のスープとマリーさんは言われてましたね、とっても美味しかったです」


「恐らく、繁殖期を過ぎて増えたホーンラビットの駆除依頼が数日前にギルドに来ていたんだろうな・・・多分それだ・・・」



どう言う事だろう・・・?昨日の晩御飯とホーンラビットに何の関係があると言うのか。

首を傾げながら、容量の得ない顔をする私に対してヴィクターさんが少し悪い顔をする。


「ホーンラビットは正式名称で別名ツノウサギ。つまり、繁殖期を過ぎて増えた所にポイズンスネークが捕食目的で来たものの、数日前に駆除依頼で冒険者達がある程度の数まで討伐。残り少ないホーンラビットは、さっさと穴を使い逃げた為、巣に戻って来る所を待ち伏せしていたが、俺達が通り掛かって狩られた・・・・・・と言った具合だな」


「・・・・・・あれ?え?」


「お目当てのホーンラビットは俺達の腹の中だ」


「!!!」


蛇のご飯になるはずの兎は、我々が食べていたと言う事だ。何とも言い難い食物連鎖の渦中に私達は居たのだ。言ってしまえば蛇にとって我々は間接的に食べ物を横取りした憎き敵。

ヴィクターさんに容赦無く飛び掛かったのは、実は体から兎の匂いがしていた・・・とか・・・


討伐され、今や素材行きとなった蛇にその真意問う事は出来ない。私はヴィクターさんのマジックバッグに向かって静かに合掌をしたのだった。





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