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No.27 馬車に揺られ


No.27 馬車に揺られ





コンコンコン・・・


まだ日が昇らない暗い時間、寝室の扉にノック音が響く。

ピクリと耳が音を拾い、深い深い眠りの底に居た私の意識は、ゆっくりと浮上する。



「・・・起きてるか?もう少ししたら出発する。俺はレオノラに軽食を受け取りに行って来るから、支度を済ませておくと良い」




少し置いてから、遠ざかって行く足音を耳で捉えながら、微睡の中に居る意識を覚醒させようと、背伸びをする。


窓から見える外はまだ暗い夜。確か、早くに出ると言われていた。

待たせてしまわないようにと、起き上がりベッドの上で着替える。

ブーツを履き、昨日から仲間入りしたマジックバッグを太腿に固定。足に何かを付ける事が初めてなので、少し違和感はあるが直ぐに慣れるだろう。


洗面台で顔を洗っていると入り口のドアが開く音が聞こえ、急いで髪に櫛を通し寝室からリビングに出た。



「おはよう」


「おはようございます」


「マリーから軽食を貰って来た。お前の分は自分で持っていると良い」



ヴィクターさんから数日分の食事を受け取る。


「飲み水はこちらで用意している」


「ありがとうございます。マリーさんこんなに沢山用意して下さったんですね・・・嬉しい・・・」


「普段俺が長期で開ける時は、こんなに多くは無かった。お前が空腹に喘ぐ事が無いに・・・と言っていた」


「マリーさん起きてらしたんですか?!」


こんな朝早くに、軽食を用意して待っていてくれたのだろうか・・・と。


「いや、俺がレオノラの貯蔵庫に行ったタイミングで目が覚めたらしい・・・少し会話をして、もう寝た」


「そうでしたか・・・」


「お前に伝言だ『初の遠征で大変だと思うけど、怪我しないでね。もしも危ない事態になったら、ジルを盾にして逃げなさい』だ、そうだ」


「ふふっ」


カレンさんにも似た様な事を言われたのを思い出して、少しクスッとした。

帰ったら2人に挨拶と、お礼を言わないといけない。


「・・・そろそろ集合場所に行くぞ」


この部屋に戻って来るのは1週間後くらいだろうか。廊下に立ち、静かに扉を閉める。




ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー




「すまない、待たせた」



西方都市シルビアには、西ある正門の他に北側と南側に出口専用の門がある。

街の場所や防衛の観点から入り口は西側1つで、こちらは入出どちらも可能だ。


逆に北側と南側の用途としては、正門の混雑具合の解消と、単純に手早く出発したい冒険者や商人の為に設けられた門と言っても良いだろう。

と、この待ち合わせ場所に来る途中に教えて貰った。



「いやいや、時間丁度だ。話した通り交易品が載っているからね、悪いが乗る所は荷台の1番後ろになるぞ」


「構わない、乗せて貰い感謝する。これは謝礼だ、受け取っておいてくれ」



カイルさんの所にも立ち寄って斡旋状を受け取っていた為に、少し時間が掛かってしまったが、それも計算して待ち合わせピッタリだったらしい。


ヴィクターさんは金貨を数枚に加え、私達がマリーさんに用意して貰った軽食と同じ物と、お酒の瓶が入ったバスケットを一緒に手渡す。



「ありがとよ。さぁ、乗った乗った」


「あのっ!メグミって言います!よろしくお願いします!」


御者席に向かうお爺さんの背に向かって挨拶してから、先に荷台に乗り込んだヴィクターさんに続いて、枠に足を掛ける。


車輪分高さがあるがステップが無く、こんな所でまた身長差を痛感した。

反動をつける為に下手に力を込め過ぎると、破壊しかね無い・・・様子を見ながら力を込めようとした瞬間、ヴィクターさんが手を掴むように差し出してくれた。すかさず手を乗せると、グイッと引っ張り上げられる。


「ありがとう、ございました」


「あぁ」


荷台の最後尾は、たたみ1畳くらいの広さで、互いに向き合う様にして座る。荷台の枠を背もたれに眠る事も出来そうだ。



「出発!」


お爺さんの掛け声と共に、馬の手綱を鳴らす音がして、歩き出した馬に引かれコトコトと車輪が周り出す。


煉瓦造りの道を進み門を潜ると、日の出前の暗い大地が広がった。


暗い闇の中を走ると思っていたが、お爺さんが馬車に付けた装置に触れると、まるで車のヘッドライトの様に前方を照らす光が点る。


「光魔法が込められた魔石を用いた大型の魔導装置だ。光の明るさ故に屋外向きで、商人が使う事が多い」


「へぇー!便利ですね!ヴィクターさんのお部屋にあった物とは別物ですか?」


「そうだな。商人用の照明は照らす他に、魔物を退ける効果もが付与されていて、夜間に街の外を移動する際には必須の物になる。ただ、あれを作れる職人が少ない上、光魔法を扱える物もそう多くは無い・・・が故に、かなり高価なシロモノだ」


「へぇー・・・」


ヴィクターさんが、かなり高価だと言うとなると、想像を絶する金額なんだろうと、それ以上は聞かなかった。


「あれ?そう言えば、クローベアの件の時にヴィクターさんが運ばれていた馬車には付いて無かった様な・・・」


「高価が故に所持している商人が少ない。だからこそ日が出てい無い時の移動には、冒険者に依頼して警護して貰うのが普通だ。あの時の商人は、依頼料惜しさに1人無策で移動した。結果がアレだ」


「おじさん・・・」


運が悪いのか、成るべくしてなったのか。いや、命は助かっているのだから運は良かったのだろう。どうか今後はちゃんと冒険者を雇って、安全第一の商人ライフを送って貰いたい。



「それはさて置き、夜間はあの装置で大概の魔物は寄って寄って来なくなるが・・・今回、交渉した中に日中の魔物に関しては、つゆ払いすると約束している」


「・・・つまり・・・?」


「魔物が出たら基本は俺が倒すが、お前もいつ出番が来ても良い様に心の準備はしておけ」


忘れていた・・・これは社会見学と言う名の、新人研修だった。


「日が昇り始めたらで良い。今のうちに朝食を摂り、身体を休めていると良い」


「ヴィクターさんは?」


「俺は荷台の上に登る。魔導具があるとはいえ、一応な」


言うが早いか、幌枠に手を掛けてサッと天井に上がってしまう。


広くなったスペースに少しだけ足を伸ばし、マジックバッグからマリーさん特製の朝食を取り出す。

柔らかいパン生地に、野菜とハムがしっかり詰まっているサンドイッチ。齧ると程良い弾力と、シャキリと新鮮な野菜。間に挟まれたソースも爽やかで朝ごはんにピッタリだった。


ふとお爺さんを見ると、馬を操る傍ら同じ朝食を片手で器用に食べている。

私もマリーさんの気持ちと共に、一口一口を味わって食べた。



食べ終わってすぐの事。まだ、疲れが取れきっていなかったのか、食事で血糖値が上がったのかは分から無いが、馬車の揺れに身を任せていた私はウトウトと意識が薄れて行く。


「ぅうっ・・・見張の交代・・・・・・」



一度押し寄せた睡魔に抗えず、私の瞼は重く重く下がって完全に閉じてしまった。





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